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第三章 手がかりの発見

 人々が古本まつり賑わいを楽しむ中、図書館から奪われた蔵書の発見に努める生徒達も次第に網を絞りつつあった。
 本ならではの滋岳川人著 世要動静経(しげおかのかわひとちょ・せかいどうせいきょう)の視点で、古本まつりの各所を見て回る。マスターの大岡 永谷(おおおか・とと)クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)グラルダ・アマティー(ぐらるだ・あまてぃー)とでグループを組んでいる。
「この辺りが怪しいでござるな」
「ワタシにもなんとなく分かってきたわ」
 グラルダも鋭い視線を向ける。その一方で永谷とクロセルには何も感じられなかった。
「まぁ、良いです。コトが起こるまでは、ボディガードも重要な役割なのですから」
 切り替えの早いクロセルに永谷も「そんなものか」と納得する。
 グラルダの資料検索もフル活用して、世要動静経と怪しい本を抜き取る。
「ちょっと聞いてみましょう」
 グラルダが店主に何事か尋ねる。顔色を変えた店主はグラルダに耳打ちした。
「いかがでござった?」
「ばっちり! 盗品を扱ってそうな店を教えてくれたわ」
 実際は“教えてくれた”のではなく、“言わせた”のが正しいのだが、それもこれもグラルダと世要動静経とで見つけた盗品の本があればの話である。もちろん図書館から盗まれた蔵書ほどではなかったが、盗品を扱っていることが知られるのは店側にとっても不都合だ。
「ではそこに行ってみるでござるよ」
「そうね。あんた達もうろうろしてないで付いて来なさい」
 永谷とクロセルは完全に金魚のフン状態だった。
 蒼空学園生徒会副会長の小鳥遊 美羽(たかなし・みわ) がリーダーを務めるグループでは、彼女に加え、火村 加夜(ひむら・かや)源 鉄心(みなもと・てっしん)サイコメトリや、ティー・ティー(てぃー・てぃー)ホークアイイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)博識など、スキルをフル活用しての探索が続く。
 3人寄れば……のことわざ通り、山盛りスキルで、すでに数冊の盗品を見つけ出していた。ただし肝心の図書館の蔵書には行き当たっていなかった。
「見つかるものですね」
「ホーント。一体全体どうなってるの?」
 加夜と美羽は盗品を見つけては、主催者側に連絡するに留めておいた。あまり時間をかけて、本来の蔵書の探索が疎かになってはまずい。
「鉄心……これも」
 ティー・ティーやイコナが、少しでも怪しいと思う本を、マスターの源鉄心に託す。鉄心始め3人がかりのサイコメトリで、本の由来を暴いていく。
「これは大丈夫のようだぜ」
「ちょっと待って! 盗品じゃないけど……」
 加夜が図書館で感じた波動と似たものを感じ取る。手がかりを求めて、本の仕入れ先などをたどっていく。図書館への糸が次第に太くなるのを感じていた。
 パワフルに動いていたのが、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)達のグループだ。
 普段から口より手足が動きそうなセレンフィリティだったが、今回ばかりは行動が違っていた。店主達とギリギリのやり取りで、網を絞っていく。 
 セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は、犬養 進一(いぬかい・しんいち)黒崎 竜斗(くろさき・りゅうと)につなぐ役目に終始した。
 ただし大事にしたくない犬養進一はまだしも、パートナーを連れた黒崎竜斗は、付いて回るだけでも四苦八苦している。パートナーの3人が、あまりにも自由に動きたがるのだ。
「おーい! 史織! セレン! 付いてきてるか!」
 本好きな御劒 史織(みつるぎ・しおり)や酒好きなセレン・ヴァーミリオン(せれん・ゔぁーみりおん)は、自分の好きそうな本があると、フラフラと足が向いてしまう。なので一時も目が離せない。そして名前だ。
「あたしを読んだ?」
 セレンフィリティが黒崎竜斗に向く。もちろん“セレン”と呼ばれたからだ。
「違う違う。こっちのセレンだ」
 当のセレン・ヴァーミリオンは、任務そっちのけで酒のつまみを特集した本を手にしていた。
 精神感応などを頼りにしていたユリナ・エメリー(ゆりな・えめりー)は、あまりの人込みにはぐれないようにするのが精一杯だった。
「私が見ようか」
 いつも面倒をかけてくるセレンフィリティが真面目なだけに、手の空いたセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)がフォローに回った。
 こうしたフォロー役はお手の物だ。
「私はこんな役割が似合うのかしら……」
 ヒョイッと史織を抱えあげる。
「あなた達のお仲間は居た?」
 史織は無言で手にした本をセレアナに渡す。
「これって……」とセレアナは驚く。奪われた本の一冊が、そのままむき出しに売られていたからだ。
「よくやった!」
 黒崎竜斗は史織を誉めるが、そこから先を追うのも大変だった。
 店主によれば、「いくらでも良いから」と送られてきた内の一冊だった。その後は連絡も付かない。
「この手をやられると壊滅的だな」
 竜斗は沈痛な顔をするが、セレンフィリティは「一冊でも返って来たのはラッキーよ」と意に介しない。
 犬養進一は『こういう手があったか』と次なる獲物に狙いを定めた。


 四谷 大助(しや・だいすけ)弥涼 総司(いすず・そうじ)の店を訪れていた。
「むぅ……」
 雅羅同人誌を手に取ると、すかさず1冊購入していた。
「雅羅さんッスね。大さんの好みはこう言うタイプでしたか」
「別に……オレはただ同人誌が良くできてるから……」
「ところでこの店は雅羅さんとどういう関係なんッスか?」
 噂をすればなんとやら、2人がそう話しているところに、当の本人が姿を見せる。 
 雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)高円寺 海(こうえんじ・かい)が店を見つけた。
「何なの! この店は!」
 雅羅の言葉に反応したのは、店に集まっていた一般客だ。誰かが発した「ナマ雅羅だー!」の一言で、雅羅が取り囲まれる。
「雅羅さーん、目線こっちくださーい」
「手を振ってくれませんかぁ」
 即席の撮影会の始まりだ。
「腕を組んでくれませんか? そうそう、胸を強調するように」
「じゃあ、足を上げてみましょう……ギャッ!」
 海が調子に乗ったカメラ小僧にデコピンを食らわせる。
「おい、ここに来た目的を忘れてるんじゃないか」
「そ、そうでしたわ」
 雅羅に問い詰められた総司は「ところで雅羅ちゃん、面白い漫画はどうすれば描けるか……」と話しをそらそうとしたが、海がそれを許さなかった。
 そうこうしている内に、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が騒ぎを聞きつけて訪れる。
「そんな訳であれば、店を認めるわけには行きませんね」
 最後通牒を突きつけた。
「そんな……」とおろおろする総司に、雅羅が妥協案を示す。
「売ってしまったものは仕方ないですわ。それならあるだけ売るのを承知します。ただし売り上げ全部を恵まれない子供達に寄付なさい!」
「はいはい」と言いかけた総司は「売り上げ?」と聞き返す。
「ええ、利益ではなく売り上げです」
「そんな……じゃあ経費は?」
「それはあなたが負担なさい。これも私を勝手に使った罰です」
 リカイン・フェルマータが主催側を代表して、管理監督することで店は続けられることになった。
 総司は情け無い声で「ただ働きか……」とつぶやいた。
「や、やぁ、雅羅さん」
 騒動が落ち着いたところで、四谷大助が声をかける。
「大助、あなたも買ったのね」
 雅羅は大助の手にした紙袋を見た。あわてて隠そうと思ったものの遅かった。
「ああ、ちょっと同人誌に興味があって……」
「にひひっ、こんなこと言ってますけど、雅羅さんを食い入るように見てたんスよ。ところで彼氏さんッスか? 雅羅さんもスミに置けないッスね!」
「こちら高円寺海、本を読まないなんて言ってたので、案内してたんです。読書の楽しさを知らないなんて……ね」
「へぇ…海くんって言うんだね。よろしく。本を読まないのはもったいないよ」
「同人誌、とやらもか?」
 大助の心が砕かれかけたが、かろうじて足元を踏ん張る。
「………眉間を撃ち抜かれたいか、高円寺海」と小さく罵った。
「あわわ……大さんから、もはや痛いくらいの殺気が放たれてるッス…!」
 雅羅と海は、再び2人してどこかに歩いていった。
「大さん、今のままでは敵わないッス。ここは牛乳を飲んで頑張るッス」
 ルシオンは大助の背中をポンと叩いた。