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リアクション
藤原 歩美(ふじわら・あゆみ)は武術や剣術の本を探していた。
「やたらめったらに修業しても強くなれないよね。ここは一つ、本から学んでみないと」
意気揚々と古本まつりの会場に来たが、人ごみに圧倒されて歩き回るのもひと苦労だった。
156センチの身長と41キロの軽い体重では、時として揉みくちゃにされてしまう。
「む、これは名作コミック墓ボンド全20巻ではないですか! 買いたいところだけど、お小遣いにも限度があるし……」
泣く泣くコミックスをあきらめる。
「漫画も好きだけど、今日は実用書に集中しないと財布が持たないよー」
人ごみを押し分けながら、別のワゴンに移動した。
佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)はパートナーの仁科 響(にしな・ひびき)と賈思キョウ著 『斉民要術』(かしきょうちょ・せいみんようじゅつ)を連れて、会場を回っている。
「どう?」
一冊手に取ると、響や賈思キョウ著『斉民要術』に見せる。2人はすぐに首を振った。
「そう簡単に見つからないよねぇ」
弥十郎は店番をしていた中年の男に声をかける。
「おじさんも長いことこの商売をやってそうですけど、珍しい本とかにあったことあるんじゃないかなぁ」
「さて……自分で珍しいと思っても、他の人からすればありきたりだったりするからな」
「なんだかこの祭りで凄い掘り出し物が出てるって話を聞いたようなきがするのですけど、どんなのかなぁ」
「掘り出し物は自分で探してこそ、掘り出し物って言うのさ」
体良くあしらわれたが、立ち去る弥十郎に店主は「西の方に行ってみな」と声をかける。振り返った弥十郎は一礼すると、西へと向かった。
杜守 柚(ともり・ゆず)はパートナーの杜守 三月(ともり・みつき)と会場を回っている。
「海くん、いるのでしょうか」
古本まつりに柚は高円寺 海(こうえんじ・かい)を誘ったものの、「先約があるから」と断られた。
ふてくされているところを、三月に「もしかしたら来ているかもしれませんよ」と言われて出かけることに決める。
会場に着いてからは、本そっちのけで、海を探し回っている。
「柚、転ばないように気をつけて」
「三月ちゃん、私は転ばないですよっ!」
言った側から、柚はつまずいて転びそうになる。慌てて三月が後ろから抱える。
「ホント、気をつけないと……」
「今のは三月ちゃんが声をかけたからですっ!」
言い張る柚に三月は苦笑する。
カイナ・スマンハク(かいな・すまんはく)は読書感想文を書くための本を探していた。
「んー、なーんで桃タロウじゃダメだったんだろう」
そう言いつつ手にしたのは、金太郎に浦島太郎、そして龍の子太郎に三年寝太郎だった。
「これを持ってったら怒られるかなぁ」
もっと面白そうな本はないものかと見て回る。弥涼 総司(いすず・そうじ)の店を見つける。
「何だ、何だ? ましゃー(雅羅)ばっかりだぞ」
他の店とは一種異なった雰囲気を発していたが、気にすることなくカイナは同人誌を手にする。
「うーん、良くできてるな。ましゃー(雅羅)なら、こんなことになっても不思議じゃないぞ」
カイナはうなずいて同人誌を買う。エヌが「ありがとうございました」と袋に入れて手渡した。
「しかしこれでどっきょー文(読書感想文)は書けないよなぁ。なにか探さないと……」
蔵書の回収に参加したグラルダ・アマティー(ぐらるだ・あまてぃー)にお使いを命じられたシィシャ・グリムへイル(しぃしゃ・ぐりむへいる)は、会場を走り回っていた。
「記載されている書籍を見る限り……思いっきり私用のようですね。これが俗に言うパシリですか」
ブツブツとつぶやきながらも露店やワゴンを見て回る。既にリストに書かれていた何冊かの本を入手していた。
ルーシェリア・クレセント(るーしぇりあ・くれせんと)とアルトリア・セイバー(あるとりあ・せいばー)は、連れ立って歴史関連の本を探している。もちろんお目当ては、アルトリアに関係したアーサー王の本だ。
「なかなか見つかりませんねぇ」
「これだけあるのですから、ゆっくり探しましょう」
アルトリアはアーサー王に限らず、当時の風俗や武器などの本を見つけるとパラパラと目を通す。興味を持った本は値段を確認して、買うかどうかを素早く決めていた。
「あっ、いたいたー!」
古王国時代の資料を探していた朝野 未沙(あさの・みさ)達は、旧知の緋王 輝夜(ひおう・かぐや)を見つける。輝夜も「やほー」と手を振った。
「おーい、てるよさーん!」
輝夜(かぐや)を「てるよ」と呼ぶのは、未沙がからかう時の常だ。輝夜はムッとしてそっぽを向いた。
「ごめんごめん、輝夜さんはココで何してるの?」
「ご覧の通り店番。何か買ってくれる?」
「いいよー」と答えたものの、並んだ本は見るからに怪しい。中の一冊を広げた朝野 未那(あさの・みな)は「目が回りますぅー」とふらついてティナ・ホフマン(てぃな・ほふまん)とナイル・ナイフィード(ないる・ないふぃーど)に支えられた。
「なにこれ、頭おかしいんじゃないの?」
ナイルは見るからに嫌悪したが、ティナは興味を持った。
「人間達は面白いことを考えるものね」
「そう? こんなもの読んだら変になるよ。書いた人間、絶対普通じゃないね」
「でも何かに使えそうね。今度研究してみようかしら」
ティナは何冊か選ぶと、代金を輝夜に渡した。
「ね、ちょっと休憩しに行かない?」
「でも店番があるし……」
「ずっと居たんでしょ。ティナ、代わってあげてよ」
「了解した。わらわに任せておけ」
目を回した未那の面倒を見ながら、ティナとナイルが店番を務めることになった。
「ね、これで良いでしょ。さぁ、休憩、休憩っと」
未沙に引っ張られて輝夜は店から離れる。
輝夜と未沙はセルフ飲食コーナーの壁際に腰掛けると、それぞれの飲み物を持ってくる。まだ昼前なこともあって人はまばらだ。
「助かったー、1人で店番してるのも退屈だったのよ」
「あの品揃えじゃ、そうお客さんは来ないしよね」
「そうそう、なんだってエッツエルの奴、あんな本ばっかりにしたんだろう」
「まぁ、売り上げや利益を度外視した趣味もあるからねぇ」
「巻き込まれるあたしの身にもなってよ」
文句ばかりの輝夜に未沙が「マッサージでもしたげようか?」と提案する。
「じゃあ、頼めるかな」と輝夜も了承した。
背中を向けた輝夜の肩に、未沙が両手を添える。首筋から肩、二の腕とリズム良く揉み解していく。
「あー、そこそこ、良い感じー」
リラックスした輝夜に未沙は「ちょっと揉みにくいから、襟元開けるよー」と返事も無いままに、前を広げていく。
── うははっ 谷間がバッチリ! 良い景色だねー ──
輝夜の黒髪越しに未沙が覗き込む。大きく開いた胸元からスルッと指先を滑り込ませた。
「えっ! 未沙?」
「動かないで、胸のツボを押してるんだから。疲れにとっても効くの」
「そ、そう……」
じっと身を固くする輝夜に、少しずつ未沙は奥の方へと指を押し込む。
「あっ……そのくらいで……」
身もだえし始める輝夜に「ほらほら、そんな声を出すと周りに変に思われちゃうよ」とたしなめる。
壁を向いてる輝夜と未沙は、遠目に見れば単に肩を揉んでいるように見える。
「で……でも……」
未沙の手が差し込まれると胸元はすっかり開かれていた。かろうじて両胸の先端が、布地を引っかけている程度である。
最初に肩に置かれていた両手は、どちらも胸の膨らみに回されていた。
── ここまで上手く行くとは思わなかったよ それじゃあ、一気に ──
未沙が先端に指を伸ばそうとすると、「エッヘン」と作った咳払いが背後で聞こえた。
ハッと輝夜は胸元を合わせ、未沙は慌てて振り返った。
「恋愛関係に口出しする気はありませんが、時と場所をわきまえてもらわないと」
リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が、ニコヤカな笑みを浮かべて立っていた。
「未沙、ありがと! あたし、もう戻らないと!」
輝夜は胸元を押さえて走っていった。
「もう! せっかく良いところだったのに。余計な口出し……」
言いかけた未沙に、リカインはチラッとポケットから腕章を見せる。
「ボランティアで見回りを担当しています」
リカインの側には、天狗の面となった禁書写本 河馬吸虎(きんしょしゃほん・かうますうとら)を頭に括りつけた空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)も睨みを利かせていた。
「分かったわよ!」
未沙は飲食コーナーから出て行った。
「お祭りだと、いろんな人が来るのね」
「全く……」
リカインと狐樹廊は苦笑いした。
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