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リアクション
リネン・エルフト(りねん・えるふと)と小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)はそれぞれのパートナーを伴って、図書館を訪れていた。
もちろん先日のゴーレム騒動があった書庫をサイコメトリで調べるためである。
「山葉校長から連絡は受けています」
図書館長に案内されて書庫に入る。騒動の後は欠片も見当たらない。
「あの後、この部屋に入った人はどのくらいいるのですか?」
周囲を見回したベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が尋ねる。
「たくさん……としか」
図書館長の返事に美羽とリネンの顔が曇る。
「当初はまさか蔵書が奪われたとは思わなかったので、掃除やら修理やらで結構な人数が出入りしました。分かっていれば極力そのままにしておいたのですが」
「何だかんだ言って、皆暴れたのよねー」
美羽が軽く回し蹴りを見せる。得意の足技は健在だ。2度3度と繰り返すと、図書館長とベアトリーチェが「書庫ですから」と制止した。
その一方で「いつもながら良い脚してるねー」とリネンのパートナー、フェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)がニヤニヤしながら見ていた。
「ふふっ、そうでしょ」
誉められた美羽は脚を交差させてポーズをとる。
「さすがうちの副会長ってとこだな。でも惜しい」
「何が?」
「もうちょっと胸があったらな」
痛いところを疲れて美羽は2人を見る。指摘したフェイミィは言うまでもなくリネンも結構な胸の持ち主だった。
「ふえーん……」
美羽はベアトリーチェに泣きついたが、また彼女も良きスタイルの持ち主だった。美羽の顔を受け止めた柔らかさが、今回は嫉妬心を大きくさせる。
「まだ17だからね。これから成長するの!」
「そうか? でもリネンは16歳だったよな」
フェイミィの言葉にリネンは無言でうなずく。
「うぐっ!」
痛恨の一撃をくらって、美羽はよろける。改めてリネンと比べてみれば、身長は変わらないものの胸の出っ張りが格段に違う。
「エロ鴉、もう……やめましょう。私達がここに何をしに来たのか……分かってる?」
「そ、そうよ。犯人の手がかりをつかむために来たんだからね」
リネンと美羽は図書館長に案内されて、奪われた本が置かれていた場所へと移動した。
「何箇所かに分かれているのですが……」
「まず……視てみましょう」
「頭を使うのは得意じゃねぇんだよなぁ」
取り残されたフェイミィは手持ち無沙汰に室内を見回した。ゴーレム騒動の後は全く見当たらない。
強いて言えば、一部で壁の色が若干異なっているくらいか。少し離れたところでリストを見ているベアトリーチェが目に入る。
「ベアトリーチェは得意そうだな」
「リストから何か手がかりがないかと思って。本は大好きですし」
「本ねぇ。オレにとっちゃ枕にするか、重しの代わりにするくらいだな」
手近な一冊をとると、ダンベルのように何度も持ち上げた。
「フェイミィさんは体を動かす方がお好きなんですものね」
「まぁ、そうだけど、もっと好きなものがあるぜ」
フェイミィの笑みに「あっ」と思い出したベアトリーチェが背筋を寒くさせた瞬間、フェイミィの両腕が伸びてきた。
ベアトリーチェは身をひるがえして逃げようと思ったものの完全に遅かった。
「一番好きなのは女の子だな。可愛くって柔らかくって良い匂いがするんだなー、これが」
ベアトリーチェを抱きしめると、所構わず撫でまくる。
「あっ……止めてください!」
「やっぱり! なかなかだぜ」
ブラウスの胸のボタンを外し、手を滑り込ませようとした瞬間、フェイミィの脳天に重いものが落ちた。美羽のかかとだった。
「何やってるのよ!」
「お仕置きされたいようね……エロ鴉」
リネンは剣を抜こうとしたが、さすがに図書館長に止められる。
「あいたたた、もう終わったのか?」
「人の痕跡が多すぎて……ダメだった」
「ゴーレムの操作と言い、泥棒ながら天晴れってとこ。……大丈夫?」
美羽に抱きかかえられたベアトリーチェは、息を荒くしながら上気している。眼鏡は大きくずり落ちていた。
「お返し!」
美羽はリネンとフェイミィの胸をわしづかみにしたが、2人とも一向に動じない。
リネンは「エロ鴉が申し訳ない。こんなことで良かったら」とされるがままになっており、フェイミィは「好きなだけ良いぜ」と胸を更に突き出した。
その後、数分もみ続けたが、やればやるほど虚しくなってきた美羽は、あきらめて手を離す。
「ん? もう良いのか? なんなら直でも」と胸をはだけようとしたフェイミィを、リネンが籠手の角で殴りつけた。
のた打ち回るフェイミィをよそに、3人は話し合う。
「まず……山葉校長に……報告しましょう」
「そうね。こうなると会場の捜索に力を入れなきゃ」
「1冊でも本が見つかれば、また美羽さんにサイコメトリで調べてもらいましょう」
頭を抱えるフェイミィを置いて、3人は書庫を出て行った。
会場近くのの古本まつり事務局では、関係者が何人も出入りしていた。
「おっちゃん、バイト代は弾んでくれよ!」
結城 奈津(ゆうき・なつ)はなじみの古本屋の店主と話している。先だって「手伝いが欲しい」と聞いて、臨時のバイトを申し出たのだった。
プロレスラーを目指す奈津だったが、本を読むことも好きだった。病弱だった子供の頃が影響しているそうだが、店主が聞いた時には「ま、まぁ気にするな! プロレスラーには語られない過去もあるんだっ。新刊買えないのは単に苦学生だからってだけだからなっ。生活費でカツカツなんだよ、解れよ……」と言葉を濁した。
そんなこんなで気に入られた店主からは、面白そうな本が入れば連絡をもらい、今回のアルバイトにもつながった。
「うりゃあ! 気合! 気力!! 希望!!! 闘魂!!!!」
何やら叫ぶと、大人でも持ちきれない本の入ったダンボールを3つも重ねて運ぶ。1つだけ抱えた店主と並んで会場へと向かった。
「何だったら、アナウンスとかやっても良いぜ。最近、マイクパフォーマンスの練習をしてるんだ」
彼女と入れ替わりに、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)がパートナーの空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)と禁書写本 河馬吸虎(きんしょしゃほん・かうますうとら)を連れて、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)がセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)と共に事務局に入った。
視線を交わして、セレンフィリティに先を譲られたリカインが受け付けに目的を伝える。
「ボランティアをしたいのですが、こちらでよろしいですか?」
何がしかのやり取りをすると、奥へと入っていく。続いてセレンフィリティが受け付けに用件を伝えた。
「承っております。こちらへどうぞ」
案内された先では、何人もが忙しく動いている。1人の男性が顔を上げると、セレンフィリティ達に向かってきた。
「お待ちしてました。どうもバタバタしてまして」
応接室でセレンフィリティとセレアナは、実行理事と書かれた名刺を受け取る。
「山葉さんの代理と聞いていたので、どんな人が来るかと思ってたのですが、さすが礼儀正しいですな」
いつものブルーのトライアングルビキニとメタリックレオタードではなく、ビシッとスーツを着こなした二人は、ニコヤカに笑顔で応じる。
「それで協力はしていただけるのでしょうか」
セレアナの問いかけに、理事は「できる限り」とあいまいな返事だ。
「実は……盗難品に関しては、多方面から依頼が来てましてね」
端末を叩くと「内容は極秘で」と2人に向ける。セレンフィリティは苦手そうに身を引いたが、セレアナは覗き込む。
参考リストには本の題名が長く続いている。
「こんなにあるんですか?」
「中には5年10年と探されているものもあります。ひょっこり見つかることもあるんですが、全部はとても手に負えないのが正直なところで……むしろこちらが学生さん達の協力を仰ぎたいくらいなんですよ」
訪問した目的とは反対に、協力を求められた2人は「あらら」と顔を見合わせた。
「リストに加えておきましょう。ただあまり期待は……」
「できないのね」
セレアナが言うと、理事は大きくうなずいた。
「あー! もう! せっかくこんな堅苦しいカッコしてきたってのに!」
建物から出ると、早々に上着を脱いだセレンフィリティはシャツのボタンを全開にする。もちろんその下はいつものビキニだ。
「どうしてそう脱ぎたがるのよ」
「あら? 脱ぐのだけじゃなくって、脱がせるのも得意よ。ホラ……」
セレアナの襟元に手をかけたセレンフィリティだったが、頭にゲンコツをくらうと大人しくなる。
「報告に行きましょう」
蒼空学園の校長室では、リネン・エルフト(りねん・えるふと)と小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)達も来ている。
「どちらもコレと言った手がかりは無いと……」
山葉涼司が深いため息をつく。
「やはり会場が勝負か」
「分かりやすくって良いじゃない。やるだけのことはやってみようよ」
セレンフィリティの楽観的な意見が場の雰囲気を明るくした。
「そうだな。じゃあ頼む」
山葉が頭を下げると、それぞれが了解とばかりにうなずいた。
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