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リアクション
第六章 賑わい再び
蔵書の回収が進んでくると、古書まつりも本来の姿に戻っていく。
任務から離れて買い物をしていた樹月 刀真(きづき・とうま)は漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)の持っている財布が自分のものであるのに気付く。
『いつの間に?』と思ったものの、封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)と月夜の楽しい表情に黙っておいた。
アルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)が柚木 郁(ゆのき・いく)の手を引っ張って引き寄せると、今度はユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)が郁の手を引っ張る。
「郁ちゃん、こっちでお話ししましょう」
「ちゃんなんて失礼よ。郁さんは画集の方が楽しいと思いますわ」
そんな3人を見ながら非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)は『あいや、子供が痛がるのを見て手を離したるが、真実の母親なり』などと思って笑いを堪えた。
「貴公はあんな弟が欲しいのか? それとも子供か?」
いきなりイグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)に聞かれて、近遠は驚く。
「そうですね。子供はともかく弟が居ても楽しいかもしれませんね」
「ふむ、弟か……子供はともかく、弟は難しいな……」
近遠が「何?」と聞くとイグナは「何でもない」と言葉を濁した。
「おにいちゃーん!」
「郁ー!」
郁を見つけた柚木 貴瀬(ゆのき・たかせ)と柚木 瀬伊(ゆのき・せい)が走ってくる。
一緒に遊んでいた近遠達も、ホッと一安心する。
「どこか怪我でもしてないか?」
「うん、あっちのおにいちゃんたちがあそんでくれたの」
貴瀬と瀬伊は近遠達にお礼を述べる。
「ありがとうございました。つい本に夢中になってしまって」
「わかります。でもボク達もお兄さんの話しを楽しく聞かせていただきました。もういろいろと」
「そんなに?」
「ええ、どんなに頼もしいお兄さん方かと言うことがよーくわかりましたよ」
もう一度お礼を言うと、3人は帰っていった。
「あたしにもあんな弟がいたら良かったのに」
「アルティアもそう思います」
「そうかもしれませんね」
3人の言葉を聞いたイグナがグッと拳を握った。
黒崎 竜斗(くろさき・りゅうと)もパートナー達に好きなように買い物をするよう伝えていた。
ユリナ・エメリー(ゆりな・えめりー)も御劒 史織(みつるぎ・しおり)もセレン・ヴァーミリオン(せれん・ゔぁーみりおん)も銘々が好きな本を探しに行く。
「それなりに働いたんだし、ま、ご褒美だ」
竜斗は「疲れたぜー」と腰を降ろした。
ぶらぶら歩き回っていた白砂 司(しらすな・つかさ)とサクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)は先輩の藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)と出会った。
「おわっ! 来てたんですか?」
「当たり前じゃない。フィールドワークは重要だけど、書物から得られるものだって小さくないのよ。それより『おわっ』って何よ」
「おわ……おわ……、尾張名古屋は城で持つ。とか」
「訳わかんない。いい加減、ちゃんとコッチを見なさいよ」
「司君にもいろいろ事情があるのですよ。ユリちゃんを見ると、石になっちゃうーとか」
「私はメディューサじゃありません!」
「でも干し首くらいにはしそうね」
サクラコの口から干し首と聞いて、優梨子の目がうっとりとする。
「干し首は人類が作り上げた最高の芸術だと思うの。どう? 司さん、一度なってみない?」
「一度って、戻れるならなってみても良いですけど」
「戻れるかどうか、なってみないと分からないじゃない」
「いや、遠慮しとく」
「愛する相手を干し首にするのはあるんですか?」
「もちろんよ。愛しの相手を干し首にして、一日中一緒にいるの。普段もお風呂もトイレも寝床も。ね、司さん、どう?」
「だから、なんで俺なのかって散々……」
「そう? 私の勘違いなのかしら」
「ユリちゃんも、ちょっと甘いですね。男はオスですけど、押すばかりではダメなんですよ。時には引かないと」
「でも司さんの場合、引くとそれに合わせて離れてしまいそうで……」
「そこは女のテクですよっ。私なんてー、この古本まつりで好きなだけ買っても、全部払ってくれるって司君に……」
「言ってねぇ」
司がサクラコの耳を引っ張った。
「半分持ってくれるでしたっけ?」
「そんなこと欠片も言ってねぇ」
今度は両耳を引っ張った。
「スキンシップ、良いですわね。じゃあ、私が司さんの耳を」
「なら私はユリちゃんの耳を引っ張りますね」
三つ巴の形になり「何でこんなことやってるんだ!」と司が離れた。
「自分がやり始めたのに……」
「司君は若年性健忘症かも……」
「勝手にしろ!」と司は歩き出す。サクラコも「じゃーねー」と付いていった。
刀村 一(とうむら・かず)はリン・リーリン(りん・りーりん)を背負って、古本まつりの会場を歩き回った。リンに売り払われたコレクションを追い求めての行動だったが、リンを連れて満足に動き回れるわけもなく、徒労に終わろうとしていた。
「おっ!」
刀村一の目に禁書 『ダンタリオンの書』(きしょ・だんたりおんのしょ) が映った。リンも鋭く察する。
「カズちゃん、どこみてるですか?」
「ちょ、ちょっとだけ」
刀村一は佐野 和輝(さの・かずき)に声をかける。
「リオン? 売り物じゃありませんよ」
「分かってます。ただ、ちょっとだけでも見せていただけないかと思って。とても理想的で素敵な書物に見えたので」
「まぁ、本人が良いと言うなら」
和輝は『ダンタリオンの書』と話す。
「どうする?」
「私のことを理想的とか素敵とか聞こえたな。見る目は持っておるのか。ま、少しくらいなら良いだろう」
『ダンタリオンの書』は刀村一の前に出た。
「あ、ありがとうございます」
刀村一は拝んでから『ダンタリオンの書』と目線の高さを合わせた。
── うーむ、この者の目はどこかで……おお〜、確かロ○コンいう種族が私を見る目と同じだな
ということは……私を本ではなく、そう言う目で見ておると言うことか。全く持ってけしからん! ──
「ここまでだ!」
『ダンタリオンの書』は刀村一を押しのけると、和輝の側に戻った。
「あうー、理想的な女の子がー」
刀村一が戻ってくると、そこにはリンの買ったテーブルマナーなどの本が山積みになっていた。
「これ、どうしたんだ? お金は?」
「お金なら売ったときのを持ってるの! カズちゃんはいいおじさまになるために、もっと身を入れなきゃだめなの!」
リンはそう言って、刀村一の背中に乗ると、額をペシペシ叩いた。
「この本は?」
「もちろんカズちゃんが持って帰るの! 郵送なんて許さないの!」
背中のリンに加えて、両手にずっしりとした本を持った刀村一はトボトボと帰路についた。
朝野 未沙(あさの・みさ)は、パートナー達との散策を終えようとしていた。
「あることはあったけど、値段と折り合う本はないものねー」
未沙と朝野 未那(あさの・みな)が泣き落としをしたり、ティナ・ホフマン(てぃな・ほふまん)やナイル・ナイフィード(ないる・ないふぃーど)が色仕掛けをしたりもしたが、なかなか交渉は成功しなかった。
「わらわでもプロ相手では交渉は難しかったな。ただ目ぼしいものは見つけたので、今日はこれで我慢ね」
帰りがけに師王 アスカ(しおう・あすか)のブックカバーの店を見つける。
「本と一緒にぃ、ブックカバーはいかがー。ぜーんぶ手作りの一品ものですよぉー」
「見ていこうか?」
4人の意見は一致した。
「あ、雅羅ちゃん、いらっしゃーい」
雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)も同時に店を訪れる。アスカは「突撃ー」と雅羅に抱きついた。
「相変わらず良い位置に胸があるよねぇ」
そう言って膨らみの谷間に顔を埋める。ボソッと「羨ましい」とつぶやいた。
「ちょ、アスカ!」
戸惑う雅羅に、もう一回顔を押し付けてからゆっくり離れた。
「あれぇー、1人なの? 誰か男の子と一緒に回ってるって聞いたけどぉ」
「それが途中ではぐれちゃいまして」
「えー! 雅羅ちゃんを放って置くなんて男子失格よぉ」
雅羅は返事に困ったが、アスカを呼ぶ声がして、アスカは接客に向かう。
「そうですわ。全く海ときたら……」
雅羅は寂しい顔をしてアスカの店を離れていった。
「こんな本を買ったんですけど……」
アスカは未沙達の相談に乗りつつ、サイズやデザインの合ったブックカバーを勧めていく。
「まとめて買ったら……」
未那が聞くと「ええ、安くしちゃうわよぉ」
反応の良さに4人はワッと盛り上がる。
「結構、売れたわねぇ。お店を出して良かったわぁ」
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