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空京の街をきれいにしよう

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空京の街をきれいにしよう

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 薔薇の学舎では、気乗りのしないモーベット・ヴァイナス(もーべっと・う゛ぁいなす)清泉 北都(いずみ・ほくと)が懸命に誘っていた。
「何故我がこんな事を? 掃除など汚した者にやらせればよいではないか」
 憤るモーベットを北都が「まあまあ」となだめる。
「空京は僕達も良く来るんだし、きれいな方が良いよねぇ」
 笑顔で誘う北都にモーベットも折れる。
「確かに汚れているより綺麗な方が良いに決まっているからな」
「だよね!」と北都が紙袋から取り出してモーベットに見せる。
「これ買ってきたんだ!」
 モーベットの目の前に広げられたのは、真っ白なエプロン、帽子、そして軍手だった。
「これで……やるのか?」
 北都の輝くばかりの笑顔に、モーベットは今更「止める」とは言い出せなかった。
 やる気を見せたのは大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)も似たようなものだった。
「これは年内最後のチャンスや。しっかり稼ぐでぇ!」
 お知らせを前にガッツポーズを取る。パートナーの3人はあっけに取られるばかりだった。
「単なる街の大掃除ですが、どうやって稼ぐのですか?」
 レイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)の問いかけに、フランツ・シューベルト(ふらんつ・しゅーべると)讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)も同感とばかりに泰輔の返事を待つ。
「ものは、見方次第や。ゴミにしかならへんゴミも多いけど、一つ化けさせたらお宝になる“ゴミ”が多いんも事実や。まずは粗大ごみの回収やな。玉石混交でとにかく回収して回るんや。でもって処分場に持っていく前に検品・値踏みしていって、「アンティーク、骨董として高値で売れそうなもの」「ちょっとした修理をすればまだ使えて、リサイクルショップでは高値で買い取ってもらえるもの」「文字通りのジャンク」「しみじみ、ゴミ」に分類するんや。まぁ「しみじみゴミ」は廃棄処分やな。残りの物は、イコン格納庫の自分の区画に運んで保管・修理しとく。新年明けてからの正月は、小銭稼ぎのために、フルスロットルで働くこと決定や!」
 3人は「はぁ」と浮かない返事をする。
「ええか! 人が働かない時、遊んでいるに働くのが、ゼニ儲けのコツやで!」
「すると僕達も粗大ゴミを運ぶのを手伝えば良いんですね」
 フランツが聞くと、泰輔は首を振った。
「それはレイチェルに任せとこ。2人にやって欲しいのは鑑定や」
 そこまで言うと、フランツと顕仁が「ああ」と納得する。
「西洋骨董に和骨董、値打ちものをしっかり見逃さんといてな!」
「まあ、清貧な僕達のために、多少はなにかあってもいいかな。もっとも何の見返りも求めないのが本来の“ボランティア”の精神だど思うけどね」
 フランツの言葉に、痛いところを突かれた泰輔は苦笑いする。
「気分は古道具屋じゃの。いやどっちかと言えば浮かれの屑よりか? 翡翠の五分玉でも見つかれば良いんじゃが。当たれば大きい。が、外れるほうが大きい気がするの」
 顕仁は意味深に笑みを浮かべた。



 数こそ多くはなかったが、百合園女学院でもボランティアに参加する生徒がいる。
「ふぅん、害虫駆除……面白そうですわ」
 冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)は目を輝かせる。
「どこにでもマナーが悪い人は幾らでもいますからね。そういう方は少々痛い目に遭って貰いましょうか。それで改心するならいいのですけどね」
 腕っ節をも役に立てたい小夜子に対して、及川 翠(おいかわ・みどり)達は純粋にゴミ拾いに取り組む気でいる。
「やっぱりきれいな街がいいんだもん。だから街に落ちてるごみを頑張って拾うの!」
 翠の言葉に、アリス・ウィリス(ありす・うぃりす)も「おー!」と元気良く返事をする。
 ただ同意はしたもののミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)はどこか心配そうだ。
『年の瀬の空京は混雑しそうね。迷子にならなければ良いんだけど……』
 ミリアはアリスの持つHCに付けた発信機をチェックした。



 波羅蜜多実業高等学校でも呼びかけに足を止める生徒がいた。
「これは俺の本領発揮だねぇ」
 松岡 徹雄(まつおか・てつお)は嬉しそうに掲示板を見る。裏の稼業で『掃除屋』を務める彼だったが、本業は清掃員だ。たまには損得抜きできれいにするのも悪くないと考えた。
「その割りには行動が伴っていませんが」
 徹雄の捨てた吸い殻を黒凪 和(くろなぎ・なごむ)が拾う。徹雄は「すまねぇな」と携帯灰皿に入れた。
「空京の掃除? 空京に……トモちゃんはいますか?」
 相変わらずアユナ・レッケス(あゆな・れっけす)の空ろな発言に、徹雄と和は返答に詰まる。
「いるかどうかは分からないですけど、掃除の手伝いはできますか?」
 アユナは怪訝そうな顔で鉈を取り出すと、横ナギにひと振りした。
「きれいにするなら……できる」
「そ、そう、じゃあ、一緒に頑張ろうか」
 和と徹雄は冷や汗をかいた。 
「竜造はどうしようかぁ?」
 3人のマスターである白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)を誘うかどうか、徹雄は迷う。
「一応、声はかけてみましょう」
「そうだねぇ」
 掲示板を前に屋良 黎明華(やら・れめか)は拍手を打った。
「屋良家家訓その……、その……えっーと、忘れたけど、そのいくつか! 年末大掃除だけは真面目にやれ!
 そして人目も憚らず「エイエイオー!」と勝どきをあげる。
「普段はともかくとしても、年末の大掃除は真面目にやらないと鬼が出るのだ〜!」
 黎明華は自宅までダッシュで戻ると鏡に向き直る。映った姿は日本人形そのままと言っても良いほどだったが、制服を脱ぎ捨てると、ジャージ上下に着替えてロングヘアの黒髪をキッチリ髪ゴムで束ねた。
「日頃空京で遊ぶ事も多いし、感謝の意を込めて頑張るのだ〜〜!」
 再び「エイエイオー!」と気合いを込めた。

 

 葦原明倫館では害虫駆除の文句に目を留めたものが多かった。
「ふむふむ、お世話になった街の為になりますね。私、参加します!」
 掲示板を見たフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)は拳を握り締める。
「せっかくですからマスター達もいかがですか? 結構修行になるのですよー!」
 聞かれたベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)は、内心では『こいつを放っておけないじゃないか』と思いながらも言葉は違う。
「フレイがやるっつーのなら仕方ねぇか……。レティシアはどうする?」
「大掃除か、なるほどな、我は掃除は得意だぞ? 手伝うことに異論はあるまいて」
 レティシアの口から出た“得意”に、フレンディスもベルクも首を傾げた。レティシアが掃除をしているのを見たことがなかったからだ。が、誰しも隠れた特技はあるものと思い込んだ。
「ところでアリッサは?」
 もう1人のパートナー、アリッサ・ブランド(ありっさ・ぶらんど)を探すと、彼女はナンパの真っ最中だった。
「えへへー、確か同じ明倫館のおにーちゃんだよね? アリッサちゃん達と一緒にお掃除しよー?」
 相手は同じ学校の刀村 一(とうむら・かず)。その嗜好から、幼い女の子をパートナーにするマスターからの中には、彼を要注意人物にあげる者もいるとかいないとか。
「そ、掃除? 何で自分が?」
 そう言いつつも江目尻は下がり、鼻の下は伸びていた。
「おにーちゃんが来ると、アリッサちゃん、すっごく助かるんだけどなー」
 刀村一の本丸はもろくも陥落した。