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第五章 掃除が済んで日が暮れて

 嘘です。まだあります。


「ちょっと、クロセルせんぱぁーい! こんなトコで寝てたら死んじゃうよー」
 力任せにクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)の頬を引っぱたくのは師王 アスカ(しおう・あすか)
「クロターン、クロ坊ー、クロスケー、クロチーン……あれぇ、今のちょっとエッチだったぁ?」
 聞かれたルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)は「知るか!」と顔をそらす。
 クロセルは眠りこけたままだったが、スノーマンが目を覚ます。
「ほら、あんたのマスター、このままじゃ凍死しちゃうよぉ。打ち上げに行くんだからー、背負って付いて来てー」
 降雪のおかげか、いくらか大きくなったスノーマンがクロセルを背負う。
「ほら、なかなかきれいでしょー」
 先ほどアスカが完成させたばかりのグラフィティが、夕闇の中で光を発し始めていた。


 山葉校長が借りた会場では、清掃ボランティアに参加した面々が集まって打ち上げが行われていた。
「汁粉も美味いが、トン汁もさすがだな」
 会場に乗り込んだ山葉が舌鼓を打つ。
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)椎名 真(しいな・まこと)がボランティアそのままに調理や給仕を務める。
「本当は掃除を頑張った人へのご褒美なのよ」
 不満を言いながらもルカルカ・ルー(るかるか・るー)が笑顔でお替わりを渡す。エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)とパートナーのリリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)も手伝っていた。
 3人に共通するのは、昼間と同じくサンタクロースのコスプレだ。
「すまん。なにぶん、事務処理が溜まってて」
 山葉は手を合わせた。
「しかしサンタの衣装は似合ってるな。子供達にも人気だったろう」
「可愛い娘は何を着ても似合うのよ。ね」
 いきなり話を振られたリリアが返事に困る。
「可愛い……かは分かりませんけど、暖かくって助かりました」
 発案者のルカルカが「うんうん、そうでしょ」と自慢げに首を振る。
「懐刀の2人、大活躍だったんだって? お疲れ様」
 山葉に言われた東條 カガチ(とうじょう・かがち)は照れるが小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は自慢げだ。
「どこから聞いたんですかぁ? やめてくださいよー」
 山葉は「ネットで見かけたかな」と笑いながら言う。
「でしょう。評判なのよ」
 美羽は胸を張るが、カガチに「案外、出所はどっかの副会長だったりしてねぇ」と突っ込まれると、美羽は咳き込んだ。
『当たってるのか?』と山葉とカガチが顔を見合わせる。
「こうなったら少しでも腹を膨らまさんと」と大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)は、用意された食べ物や飲み物をかき込んだ。
「売り上げ、かなりあったようだぜ」
 そんな泰輔に話しかけてきたのが、小暮 秀幸(こぐれ・ひでゆき)。金額をそっと耳打ちする。
『その大半は僕達が集めたんやないかー』
 そう叫びたかったが、泰輔はグッと堪えて食べ物をかき込んだ。
「本部の人からも評判が良かったそうだ。今度は実費やマージンを払うから協力してくれないかってさ」
「ほんまか?」
「ああ」
 小暮は連絡先を書いた紙を払う。
『今年はマイナスに終わりそうやが、年が変わったら銭儲けしてみせるでぇ』
 女性の身でありながら、ひと際食欲を見せるのが2人。1人は屋良 黎明華(やら・れめか)。もう1人はセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)
 黎明華には佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)佐々木 八雲(ささき・やくも)が付き添い。セレンフィリティにはパートナーのセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が付き添っていた。
「どこまで食うんだよ」
 クレープ屋台の売り上げを食い尽くされた2人は、興味津々で打ち上げの席でも黎明華を見ていた。
「ほら、甘いものは別腹って言うじゃない」
 食べ物を食べ終わると、デザートに取り掛かる。
「さしずめワタシ達のクレープはオードブルだったんですねぇ」
 見ているだけで満腹してしまった2人は、飲み物だけで打ち上げの席を過ごすのだった。
「セレン、食べるのも良いけど、明日のこと分かってる?」
「……? 何かあったっけ?」
 ほら忘れてると言わんばかりに、セレアナは肩をすくめた。
「今度はセレンがいらないものを捨てる番よ」
「あたしにいらないものなんてあったかなぁ。セレアナ・ミキアス以外は、ぜーんぶ捨てちゃっても良いんだけど」
 真正面から言われたセレアナは真っ赤になって返事に詰まる。なんとか「私はモノじゃないわ」と返すのが精一杯だった。
「あまりの戦闘に吹き飛ばされたってのは?」
 及川 翠(おいかわ・みどり)のひねり出した考えだったが、ミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)アリス・ウィリス(ありす・うぃりす)も納得しない。
 もちろん言った当の翠も納得した説明とは思っていなかった。
「もう良いわ。これからも発信機が必要ってわかっただけでも収穫よ」
「そうね」
 そう決め付けると、3人はご馳走に手を伸ばした。
「ここにいたのか! 探したぜ!」
 打ち上げの席に飛び込んできたのは、白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)だった。
「ほらよ。土産だ」
 松岡 徹雄(まつおか・てつお)達に見せたのは獣の牙。それも今日半日で狩ったものだった。
「トモちゃんは?」
 相変わらずのアユナ・レッケス(あゆな・れっけす)だったが、竜造は優しく頭をなでてやる。
「キャー! 竜造様じゃありませんこと! 勇刃様に竜造様までご一緒できるなんて、お盆とお正月が一度に来た見たい!」
 御東 綺羅(みあずま・きら)は強引に健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)と白津竜造の腕を取った。
「お盆はともかく、お正月はもうすぐ来ます。だから健闘君は返してください」
 天鐘 咲夜(あまがね・さきや)が言い張ると、綺羅の腕を健闘勇刃から振り払う。
 紅守 友見(くれす・ともみ)プレシア・アーグオリス(ぷれしあ・あーぐおりす)も咲夜をかばう。
「良いですわ。今日のところは竜造様だけで……」
 綺羅が振り返ると、竜造は「うめーなー」と打ち上げの席に紛れ込んでしこたま飲み食いしていた。



 年末年始を挟んで駄菓子屋の子供達の間では、秘密結社オリュンポスごっこが流行った。
「僕がオリュンポスそうとうのハダシだ!」
「いや、俺こそがオリュンポスしゅりょうのハガスだ!」
「あたしはオリュンポスさいこうかんぶのまがまがまがさくやよ!」
 もんじゃ焼きを囲んで秘密会議を行うドクター・ハデス(どくたー・はです)高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)、そして黙々とコテを動かすヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)
「見たか! 子供に優しい組織を目指したのがバッチリ当たったぞ!」
「知りません! 第一、私の名前は“たかまがはら”です」
「ヘスティアは……どこに?」
 3人の認識が一致するのは遠い先のようだった。

                         《今度こそ終わり》


担当マスターより

▼担当マスター

県田 静

▼マスターコメント

 記念すべき?10作目のシナリオへの参加ありがとうございました。
 
 私が心がけているものに『悪の栄えた例は無い』があります。

 現実にはそうもいかないことが多いので、せめてシナリオ内だけでもと思ってのことです。
 そんなわけで、私のシナリオ内では悪役やそれに類するアクションがひどい目に合うことが多いです。

 でも『魅力的な悪役がいないとつまらない』と思ってる面もあるわけです。
 なので、今回は悪そうなアクション(を選択したMC)を思いっきり膨らましてみました。
 それが誰なのかは、ここまで読んでいただければ分かるはずです。

 最終的には『悪の栄えた例は無い』になるのですが、その過程を楽しんで頂ければと思います。
 そんな理由で普通の掃除光景とは随分と異なったものになってしまいました。

 ただし『じゃあ、次もそうなるのか』と聞かれると答えられません。
 第一、次回作のアイデアすら考えていませんので。図書館シリーズの続編構想はあるんですけどね。
 
 それでは次回作があればよろしくお願いします。