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抱きついたらダメ?

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抱きついたらダメ?

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第1章
「ん……なんとも、殺風景ね」
 御神楽 環菜(みかぐら・かんな)は枯れ果てた木々に囲まれた遺跡を見上げて言った。
 二階建ての廃墟はボロボロで、華やかな装飾があると思わせる出っ張りが一面中に見える。
 おそらく、数十年前までは綺麗な飾りなどで目を引かれる遺跡だったのだろう。
 しかし、遺跡と思われる建物は今や廃墟と化しており、ホラー映画のワンシーンを思わせる雰囲気が出ていた。
「ほ、本当に行きま……しょうか?」
 ルミーナ・レバレッジ(るみーな・ればれっじ)は環菜の後ろから心配そうに声を上げた。
「行くしか無いでしょう? あなたの病気が治らないと私も困るわ」
「……」
 環菜の言葉にルミーナは顔をほんのりと赤らめて黙り込んでしまった。
 その頃、3人はすでに遺跡の中では奮闘を繰り広げていた。
「困ったことにうごけないねえ〜」
 清泉 北都(いずみ・ほくと)をはじめとし、クナイ・アヤシ(くない・あやし)は薄暗い部屋の中にいた。
 二人は体をまったく動かせずにいた。
 足下では青い光りが淡く光っており、完全にトラップにはまっていた。
「はあ、まさか初っぱなからひっかかるなんてねえ」
 北都は深いため息をつく。
 二人はまさに、1番目の廃墟のトラップ犠牲者だった。
「まさか、廃墟に入った瞬間にトラップ発動なんて予想にもしておりませんでした」
 クナイも少し申し訳なさそうに言った。
「ん? あれ、ノラコウモリじゃないかな」
 北都の言葉にクナイが、暗闇の広がる前方に目をこらしてみる。
 そして、上下に揺れる飛行物体をようやく認識する。
「コウモリですね……でも戦えませんねこれだと」
 まさに絶体絶命の危機が2人を襲っていた。
「ん〜、なんか青い光が見えるなあ」
 部屋の入り口からそんなことを言いながら入ってきたのは、レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)だった。
 続けて、リアトリス・ブルーウォーター(りあとりす・ぶるーうぉーたー)ミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)も入ろうとしてくる。
「そこの3人方! 入ってくるのを少し待ってください」
「「「え?」」」
 その3人が部屋に入ってくるのを禁猟区で感じたクナイは声を上げた。
 ぴたりとレティシア達の足は止まった。
「くっしゅん」
 止まったはずのリアトリスがトラップがあるであろう部屋の中に倒れる。
 レティシアはリアトスの真上で腕を地面に突き出し、必死で全体重を支える。
 いわば、リアトリスがレティシアに押し倒されたような格好で倒れ込んでいた。
「うわあ〜」
 ミスティが不意に声を上げた。
 リアトリスの顔は全面真っ赤に染まり上がっていた。
「あ、あのー誰か、このトラップを解除できないかな?」
 リアトリスは慌ててごまかすように聞く。
 それにいち早く答えたのは目の前で顔が近い、レティシアだった
「さすがに押し倒した状態ではトラップは解除できないねえ」
 ノラコウモリが新たに倒れてきた2人のそばまで来る。
 数匹のノラコウモリが甲高い鳴き声を上げて、北都達を含めた動けない4人を威嚇する。
「どうしましょう……私にはトラップを解除出来そうにないんですが……」
 部屋の入り口でミスティは様子を見守りながら戸惑っていた。
 だが、ミスティは思いついたかのように体を前に乗り出た。
「魔法なら遠距離でノラコウモリを――」
「その必要は無い」
 突然の声にミスティは前のめりに転けそうになる。
 光によってメガネを反射させ、モーベット・ヴァイナス(もーべっと・う゛ぁいなす)が部屋に入る。
 その瞬間、青い光りは消えていく。
「う、動けるよ!」
 北都達が声を上げはじめる。
 モーベットはイナンナの加護によってトラップの領域に入る前に気がつき、1人で解除をすることに成功していた。
 全員自由に動けるようになると、間近まで来ているノラコウモリ達に向かって構える。
「どうも、こいつら一度見つけるとしつこくおってくるからね、ここで片付けるよ!」
 レティシアは大きな声で、場にいる全員に伝えた。
 それは、この部屋に来る前に、一匹のノラコウモリに追われた経験があっての情報だった。
「そうだねえ。とりあえず、クナイは歌で援護おねが……ん?」
 北都はクナイに援護の要請をしながらに振り向いた。だが、振り向いた瞬間北都の目は見開かれる。
 クナイはモーベットにしっかり抱きついていた。
 モーベットはその状態でメガネを持ち上げると、サイドワインダーで上空をうろついていたノラコウモリを倒した。
「……」
 北都は無言で振り返り、ノラコウモリを睨む。睨まれたコウモリたちは、北都から逃げるように右往左往し始める。
 そんなコウモリ達を北都は追い詰めてはたたき倒していった。
「うう……北都に嫌われたんでしょうか」
 クナイはそんな北都を見ながらも、悲しみの歌で北都を応援していた。
 一方、リアトリスもサイドワインダーでノラコウモリを一掃していく。
 ただし、レティシアに抱きつかれながら。
「本当に、仲が良いですね」
「しかたないでしょう? あちきは病人なんだから」
 ミスティが笑顔で問いかけてくる。
 レティシアの顔からも笑顔がこぼれていた。だが、リアトリスは顔を少し赤らめたままだった。
「っと、あちきの旦那様はやらせないよ!」
 ぼーっとしているリアトリスに向かってくるノラコウモリ達をレティシアはサイドワインダーで打ち落とす。
 それをみて、リアトリスは我に返り、同じようにサイドワインダーで上空のノラコウモリ達を倒す。
「いや、俺は大切な人に守られるんじゃなくて、守りたいよ!」
「私はお邪魔だったでしょうか」
 ミスティアは笑みを浮かべながら二人から少し距離を離し、遠くから援護することにする。
 それから数分立って、ようやくノラコウモリ立ちを倒す事に成功する。
「さ、いきましょう」
 レティシア達は、先へと進む。