空京大学へ

天御柱学院

校長室

蒼空学園へ

二人の魔女と機晶姫 第1話~起動と邂逅~

リアクション公開中!

二人の魔女と機晶姫 第1話~起動と邂逅~

リアクション


■魔女の事情
 ――イルミンスールのどこかにあるという、地下図書館『大聖堂』と呼ばれる場所。ここにいるのは坂上 来栖(さかがみ・くるす)であり、来栖もまた箱の中の機晶姫の謎を調べていた。
「……ブック・オブ・アラカルト。キーワードは<機械仕掛け><封印><騎士>――」
 自らが所有する禁書でその三つの事柄を検索するが……結果は白紙の頁。検索は失敗だったようだ。
(魔道に関係するものではないか、もしくは私のキーワードが間違っていたのか……まぁいい)
 色々と思案する来栖だったが、すぐに思い立ち携帯を取り出す。その連絡先は、パートナーであるジノ・クランテ(じの・くらんて)だった。
「私だ。ジノ、折を見てミリアリアに質問をしなさい。いいですか? ジノがするべき質問は――」
 ……その質問内容に、電話越しのジノの脳内に疑問符が浮かぶが……きちんと質問をする、という返答が来た。
「じゃあ、私は眠いので切りますよ。――さて、いざとなったら私も出るが……今はいいだろう」
 これから起こるであろう、何かしらの事件。それを予感しながら、来栖は『大聖堂』の奥へと消えていったのであった……。


「いやはや、これだけの技術者が集まったら、素でロボットとか作れそうねぇ」
 技術者たちの試行錯誤を見ながら、ミリアリアは広瀬 ファイリア(ひろせ・ふぁいりあ)が作ったできたてお菓子を一つつまんでいた。
 その近くではシルフィア・レーン(しるふぃあ・れーん)が『禁猟区』で周囲警戒を怠らないまま、部屋内の掃除をやっている。どうやら、機晶姫が目覚めた時に綺麗な部屋で出迎えたいという思いからの行動のようだ。
「ねぇ、そういえばなんでミリアリアは機晶姫に詳しいの? 何か特別な思い入れでもあるように見えるんだけど」
「あ、それボクも聞きたーい! どうしてこの子が気になってるの?」
 ウィノナ・ライプニッツ(うぃのな・らいぷにっつ)の質問に、技術者側で作業中のナギや、ミリアリアの肩に乗る妖精・ラブ・リトル(らぶ・りとる)も乗っかってきた。どうやらこの質問は、ラグナ アイン(らぐな・あいん)アルクラント・ジェニアス(あるくらんと・じぇにあす)も気になっていたようだ。
「この際だから、少しミリアリアのことを聞かせてくれないか? たとえば……どんな魔法の研究をしてるのとかさ」
 如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)もさらに発展させる形で質問を重ねていく。質問量の多さにミリアリアとちょっと驚いてしまうが……あっけらかんと笑みをこぼすと、さっそく返答をし始めていった。
「そうねぇ……順番に答えていくわ。まずどうして機晶姫に詳しいのか。これは単純に機晶姫……いえ、機晶石のことを調べてた時期があったのよ。その過程で、機晶姫のことも研究したんだけど――機晶姫の境遇と、私の境遇を重ね合わせちゃってね。それで機晶姫……この子に興味があるのよ」
「機晶姫の境遇とミリアリアさんの境遇、ですか?」
 追加のお菓子を持ってきたファイリアが、きょとんと尋ねる。
「……魔女は不老不死とは言っても、幼い時代ってのはあるんだけど……その幼い時代の時に、争いごとに巻き込まれちゃって。両親はそこで死亡、唯一の姉妹であるモニカとも生き別れちゃってね。そっから永い間、一人で生きてきたの」
 妹のことを思い出してか、一瞬寂しそうな表情を浮かべるミリアリア。だがすぐに話は続く。
「機晶姫も誰かに再起動させてもらえない限りは闇の中でずっと一人ぼっちなわけでしょ? そう考えると、つい自分の境遇と重ね合わせちゃうのよね。……勝手な話になっちゃうんだけどさ。この子を見た時、その寂しさを少しでも無くして、楽しい世界を見せてあげたいって気持ちが湧いたのよ」
 話の切りを付けようと、一度ミリアリアが息をつく。すると、ファイリアがミリアリアの手をぐっと掴んだ。
「ミリアリアさん、すごいですっ! その話聞いたからにはファイ、ミリアリアさんの想いを必ず叶えてあげますですよっ!!」
 ミリアリアの想いに感動したのか、ファイリアは声高らかにそう宣言。ミリアリアも驚きはしたものの嬉しそうな表情を浮かべていた。
「なるほどな……ならばそのためにも、鉄仮面の騎士には奪わせるわけにはいかない」
 話を聞いていた桐ヶ谷 煉(きりがや・れん)も、なぜミリアリアがなぜ箱の中の機晶姫を目覚めさせたいのかを理解し、目的の一つである機晶姫防衛にさらなる力を入れる。
「――で、次の質問はどんな魔法を研究してるのか、だったわね。私の研究は主に魔法陣や魔力のこもった道具を使って発動させるキードライブ方式の魔法、さらに言うなら防御結界魔法専門と言ってもいいわ。……マイナーすぎるから、あんまり知られてないけどね」
 冗談めいたように楽観的な笑いと共に自分の研究分野を説明するミリアリア。だが、そのことを知っている人物が一人いた。魔導書 『複韻魔書』(まどうしょ・ふくいんましょ)である。
「かなり頑丈な結界が作れるという魔女の噂は有名なのだが。……さてはそなた、あまり外には出ないタイプか?」
「し、失礼ねっ! 私だって『天使の羽』に通いつめるくらいには外に出てるわよ!」
 ……『天使の羽』とは、空京で人気のあるクレープ屋のことである。どうやら、空京まで行くほどにはアクティブな魔女のようだ。
「あ、じゃあ機晶石を研究してたっていうのも……」
 ラブが何かに気付いたようで、ミリアリアにそう言葉を投げかける。
「ええ、防御結界魔法の媒体になるかもと思って研究してたんだけど、流れが不安定すぎるし、魔力へのエネルギー転換が難しくて頓挫しちゃったわ。機晶姫に対する知識がついたから、無駄じゃなかったけど」
 ポジティブに物事を考えるのがミリアリアらしい。周囲にいる護衛組たちはそう考えるのであった。


 そのまま、ミリアリアが次の質問を訪ねるとこんな質問が飛んできた。
「あの、ここへあの子を運んできた冒険者さんってどんな人なんですか? それと……どうしてミリアリアさんの所へ持ってきたのでしょうか?」
「それならついでだ。あの機晶姫は遺跡のどこの部屋から持ってきたんだ?」
 アインからの質問に合わせ、佑也も追加の質問をする。またも多い質問をミリアリアは整理すると、すぐに返答する。
「そういえばその辺の詳しい話をしてなかったわね。その点に関しては謝るわ。――あの子をここまで運んできてくれた冒険者は私の知り合いなんだけど、本当はザンスカールに住むアーティフィサーの元に持っていくつもりだったらしいのよ。で、機晶姫入りの箱を機晶姫のゆりかごにある一室から手に入れたらしいんだけど……その部屋は遺跡の一部が崩落したことで見つかった隠し部屋で、そのおかげで盗掘に遭わずにすんだみたいね」
 その情報を聞き、機晶姫調査をしていたダリルはすぐに遺跡班のメンバーに箱が見つかった隠し部屋の旨の連絡を入れる。隠し部屋が他にもあるかもしれないし、その部屋を調べれば何かしら見つかるかもしれないと踏んだからだ。
「その後、冒険者はさっき言ったアーティフィサーの所へ持っていこうとしたんだけど、道中で鉄仮面の騎士に襲われたの。それで、避難先としてその道中から一番近かった私の小屋が選ばれたわけ。あとは事前に説明したとおり、鉄仮面の騎士の襲撃を防御結界で何とか凌いだわ」
 ここまでの説明で何か質問はある? と付け加えると、氷室 カイ(ひむろ・かい)が口を開く。
「研究がメイン、と言っていたが冒険者はミリアリアが機晶姫の研究もしていたこともあったのは知っていたのか? もし知っているのなら、すぐこっちに来そうなものだが」
「知り合った、と言ってもここ数か月前の話だからねぇ。私があの子を調べ出した時は冒険者も驚いてたわよ」
 ミリアリアからの答えに、ふむ……と頷くカイ。だが、質問は続く。
「……中枢パーツが機晶姫のゆりかごの深層部にあるのはどうやって知ったんだ?」
 誰もが疑問に思った質問だろう。なぜ、未知のエリアとされる機晶姫のゆりかご深層部に中枢パーツがあるのを知っているのか……?
「ヴィゼルさんが教えてくれたのよ。あの人、考古学にも詳しいからあの遺跡のことを聞いたら、もしかしたらその足りないパーツは深層部にあるかもしれないって。あくまでも可能性の話ではあるけど唯一の可能性だから、賭けてみることにしたわけよ」
 どうやら、ミリアリアの出資者であるヴィゼルからの情報らしい。その話を訝しげに聞く者もいたが、唯一の手がかりであるならそれに賭けるしかないのは仕方ないことなのかもしれない。
「――さっきミリアリアが話していた鉄仮面の騎士のこと、もう少し整理してみてもいいんじゃないかなぁ? ミリアリア自身、その鉄仮面の騎士に心当たりはある?」
 機晶姫の護衛、ということで『超感覚』で猫耳を生やし、音を注意深く聞いて警戒中の柳玄 氷藍(りゅうげん・ひょうらん)と、シェスティン・ベルン(しぇすてぃん・べるん)と共に護衛中の高峰 雫澄(たかみね・なすみ)が、先ほど話していた鉄仮面の騎士についてもう一度訪ねる。そうね、とミリアリアが頷くと、早速その頭をフル回転させる。
「……さっきも言ったけど、人間であるのは確実。そして目的を達成させるためなら情けをかけることのない、信念貫く人物なのも間違いないわね。鉄仮面さえなければ、男か女かわかるんだけどねぇ」
 一瞬では情報が少なすぎるか、とため息をつくミリアリア。心当たりもないのか、契約者たちにはあまり有用な情報はなかったようだった。

 ……その後も、『機晶姫に名前がなかったらどんな名前を付けるか』などの質問や会話をしていくミリアリアと契約者たち。このまま何も起こらずに中枢パーツを持った遺跡探索班が戻ってくれば一番いいのだが、おそらくはそういかないだろう……そう思いながら、ミリアリアは紅茶を少しだけすする。
(――モニカ、か。忘れられるわけがないわよね)
 自分の過去を少し話したからか、ミリアリアは生き別れの妹であるモニカのことを思い出していた。
(……そんなこと、ないわよね。でも、あの時感じた雰囲気、それに鉄仮面の隙間から見えた、赤と緑のオッドアイは――)
「あのぉ、ミリアリアさん。ちょっとよろしいですかぁ?」
「え、あ、どうしたの?」
 ミリアリアの思考を中断させたのは、先ほどまで来栖と電話をしていたジノであった。突然声をかけられ、ミリアリアは驚いてしまう。
「えぇっとですねぇ……ちょっといくつか聞いてもいいかしらぁ?」
「え、ええ。いいわよ」
「あのですねぇ、『騎士が狙っていたのは本当に機晶姫か』、『棺には最初からあの機晶姫が入っていたのか』――あと、『嘘をついているか』の三つなんですけどぉ……」
 今までとは趣の違った質問。よくわからないままミリアリアは質問に答えていった。
「……一つ目の質問は私にもよくわからない、と答えておくわ。声を聞いたわけじゃないし、もしかしたら騎士の狙いは機晶姫を納めていた箱かもしれない。二つ目の答えは半分イエス。私がここで箱を開けた時は機晶姫が入ってたのは確かだけど、冒険者がここまで持ってくる間に入れ替えが行われていたらさすがにわからないわ。――そして、最後の問いはノーよ」
 これでいいかしら、とミリアリアが問いかけると、ジノはわかりましたぁ、と質問の答えをメモしてからミリアリアから離れていった。自分で考えた質問でないためか、質問の真意はよくわかっていないようである。

 そしてしばらくの後――ミリアリアは、外の様子を見にいくことになるのだが……。