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二人の魔女と機晶姫 第1話~起動と邂逅~

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二人の魔女と機晶姫 第1話~起動と邂逅~

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■鉄仮面の騎士
「っ!? 誰だっ!」
 鉄に遮られたようなくぐもった声に、多少緩んでいた空気が一気に締まる。
 瞬間、リュースたちの後ろを取るようにして現れたのは――全身に鎧を纏い、鉄の仮面を被ってその顔を隠した人物。その手には背丈ほどの巨大な槍と、一般にタワーシールドと呼ばれる携行式としては最大級の盾を持っていた。
「――そこの……オリュンポス、と言ったか。もう少し引っ掻き回してくれるかと思っていたが、あまり効果はなかったようだ。騒ぎに乗じてあれを奪取するつもりだったが……予定通り、強行策による奪取を敢行する」
 淡々と言葉を発すると、リュースたちを無視して小屋のほうへ向かおうとする。しかし、それを許すほどリュースたちは甘くはない。
「させませんよ!」
 パルフィオたちは最初からオリュンポスと交戦していたため、それほど余力を残していない。それに比べ、リュースたちはまだ幾ばくかの余力は残っている。……腐ってもオリュンポスの構成員の大部分は契約者たち。余力を奪うほどの力量は持っていたということになる。
 その余力のすべてをぶつけようと、リュースは再び『バーストダッシュ』で騎士との間合いを詰めて『ヒロイックアサルト』を繰り出そうとする。
「――なっ!?」
 しかし、その攻撃は騎士に素早く反応され、槍で弾かれてしまった。そして騎士はノーモーションで『サンダーブラスト』をこの場にいる全員を対象に放った!
「きゃああああっ!!」
「くうっ!?」
 あまりにも手早い攻撃に対処しきれず、リュースやそのパートナーたち、パルフィオたちに、さらには撤退をしようにも牽制されて遅れていたヘスティアやアルテミスを回収しようとした戦闘員たちにまで被害が及ぶ。その容赦のなさは、完全に手慣れた雰囲気がある。
「貴様――殺す」
 パートナーたちに手をかけられたことで、リュースが怒りを露わにする。先ほどよりも洗練された動きで騎士に攻撃を仕掛けていく――!
「貴様があれを狙う目的はなんだ! 言え……!」
「言えと言われて、言う道理はない」
 リュースの攻撃を捌きつつ、体勢を立て直したブルックスの『シューティングスター☆彡』の援護攻撃をタワーシールドで受け止める。騎士と触れ込むだけのことはあり、その硬さはかなりのものだ。
「……増援か」
 必要以上の殺意を『殺気看破』で感じ取ったのか、七緒とシグルーン、そしてマグナ・ジ・アース(まぐな・じあーす)リーシャ・メテオホルン(りーしゃ・めておほるん)が駆けつけてきた。
「七緒!」
「みんな、大丈夫か!? ……こいつが、鉄仮面の騎士……!」
 すぐさま七緒は『超感覚』を発動し、戦闘準備を整える。
「マグナ、さっき始動キーでリミッターは解除しておいたわ。私はすぐにみんなに知らせて、機晶姫の箱を少しでも遠ざけてみる。――無理はしないでね」
 リーシャが持っている始動キーにより、マグナのリミッターは外れ100%の力で戦える。すぐにリーシャは奥の防衛ラインへ移動し、少しでも荷を遠ざけさせるべく行動を起こす。そして、マグナはすぐに『鬼神力』でその力を高めていく。
「こちとらチャンピオンだ! そう簡単にやられはしない!」

 ――強行たる進行を防ぐため、騎士の前にはリュース、紗紗、七緒、シグルーン、パルフィオ、マグナが前衛として立ちふさがる。後衛にもシーナ、ブルックス、ルーライルが支援として控えている、厚い布陣だ。
「数が多いな……しかし、私には関係ないこと。邪魔をするなら――まとめて相手しよう」
 ……その瞬間、騎士から魔力の高まりが始まる。それは第一防衛ラインの布陣全員もすぐ感じ取れるほどの高まり……!
「リュー兄! この魔力って……!」
「ああ、『ギャザリングヘクス』の高まりとほぼ同じ……! だがこれは尋常じゃない!」
 魔女の大釜を煮立てることで作られるスープ、『ギャザリングヘクス』。騎士から感じ取れる魔力の高まりはまさにそれを飲んだ時と同じ。しかし、その上昇量は尋常ではない量であり、なによりもそれを口にした様子はない……!
「――ようやく効いてきた。私のスープは効果の発動が遅い代わりにその上昇量は通常より数倍……!」
 そして騎士は再び、ノーモーションからの『サンダーブラスト』を放つ! 動きから読み取れない魔法の発動に、防衛ライン陣は防御を取れずに直撃を受けてしまう。
「くそ、さっきよりも威力が高くなってやがる……!」
 前戦の疲れが癒えきっていないリュースを始め、そのあまりの威力に第一防衛ライン陣に被害が広まるばかり。だが、七緒やシグルーン、そしてマグナは騎士へ攻撃を仕掛けていく!
 七緒が攪乱するように動き回り、銀鎖の鞭で攻撃を仕掛けるものの、すぐにそれは騎士の大槍で払われる。しかし、その払い行為を誘発させるのが七緒の狙いでもあった。
「今は自らも騎士として、あなたからあの機晶姫を守る……! メタファー1、いきます!」
「この身朽ちようとも、機晶姫は守って見せる……でぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 大きく開けた隙を狙って、【K】(ナイト)タイプの換装バリエーションを装備したシグルーンが、レーザーディスクのような輝きを持つ二振りのレジェンダリーソードによる攻撃を繰り出す。
 その一撃はバックステップで回避されるが、間髪入れずにマグナが全身全霊を賭けた突進で騎士とがっぷり四つに持ち込もうとする。
「このままじゃ全員やられる! ここは俺たちが時間を稼ぐから、戦線を下げて態勢を立て直してくれ!」
 フルパワー状態のマグナが決死の覚悟で騎士を抑え込む。確かに先ほどのオリュンポス戦や『サンダーブラスト』の広範囲攻撃によって、第一防衛ラインはほぼ壊滅状態である。ならば……少しでも態勢を立て直すべきだろう。
 歯がゆい思いをしながら、オリュンポス戦で戦ったメンバーを中心に、防衛ラインを下げていく。……第一防衛ラインに残ったのは、七緒、シグルーン、マグナの三人だった。
(くっ……抑え込むのが精いっぱいだなんて……!)
 マグナが100%の力で騎士を抑え込んでいるものの、それ以上のことができない。……見ると、騎士は『ファランクス』で防御態勢を整えていた。
「少しでも時間を稼ごうとするか。殊勝なことだが……無駄だ」
 瞬間、騎士は『ランスバレスト』を抑え込まれているにも関わらず発動。強力な突進攻撃の衝撃が零距離で放たれる――!
「ぐ、ううぅぅぅうぅ……がぁぁぁぁあぁぁぁあぁぁっ!!」
 守り通さなければならないものがある。その想いを砕くかのように、マグナの身体は大槍によって突き破られ、腹部の一部を潰されてしまう。
 その場に崩れ落ちるマグナ。しかしその想いを継がんと、シグルーンと七緒が一斉に騎士へ攻撃を仕掛ける!
「……『サンダーブラスト』」
 だが二人の一斉攻撃も、騎士の至近距離による『サンダーブラスト』によって届くことはなかった。【K】タイプの追加装甲も中破し、シグルーンは動けずにいる。
「く……なぜだ、なぜあの機晶姫を狙う……あの機晶姫に何があるというんだ……!」
 七緒の問いかけを無視し、そのままその戦場を捨てるかのように奥へと進む騎士。ほぼ動けない状態の七緒たちは、その鉄の背中を見据えることしかできずにいた……。


 ――騎士は変わらぬペースで前進を続ける。そして、第二防衛ラインと定められた区域へ足を踏み入れた瞬間……!
「狙撃か……!」
 足元へ発砲される数発の弾丸。しかし周囲には護衛の姿は見えない。すぐに狙撃手がいると判断すると、騎士はその場に立ちとどまった。
「――よぉし、そこまでだ。怯めば儲けもんと思ってたが、立ち止まってくれるとは思わなかった」
 そう言いながら、木陰から姿を見せたのはマクスウェル・ウォーバーグ(まくすうぇる・うぉーばーぐ)。先ほどの警告射撃の一発を撃った人物の一人であり、他に撃ったのはキルラス・ケイ(きるらす・けい)による『シャープシューター』の一撃と、マクスウェルの後方から対物機晶ライフルで威嚇発砲をおこなった笹奈 紅鵡(ささな・こうむ)の二人だ。
「……よほど厳重に警備しているのだな。それほどにあれを奪われたくないのか」
「そういうことだ。一体何が目的で狙うかは知らないが、むざむざ奪わせはしない」
「そうか。――だが私にも奪わなくてはならない理由があるのでな!」
 マクスウェルが『奈落の鉄鎖』と『その身を蝕む妄執』で騎士の動きを阻害しようとするが、すんでの差で『ランスバレスト』による突進攻撃を使い回避する騎士。すぐさま紅鵡が後退しつつ対物機晶ライフルによる攻撃を行うが、タワーシールドでそれを防がれてしまった。
 キルラスも『シャープシューター』による狙撃で足止めを行おうとするが、騎士の勢いを止めることはできそうにない。状況を重く見たキルラスは、すぐに最終防衛ライン組へ騎士が近づきあることを知らせていく。
「――どんな理由かは知らないけど、話し合いじゃなくて武器を振りかざすならこっちも容赦するわけにはいかないんだよ!」
 マクスウェルや紅鵡、そしてキルラスの銃撃網を振り払い、前進する騎士の動きを止めようと、『ランスバレスト』の勢いが弱まるのに合わせ、猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)が機工剣『ソードオブオーダー』で騎士の大槍と切り結ぶ。何度かつばぜり合いになりながら、勇平は『アナイアレーション』を狙うチャンスを探っている。
「――そうしろ、と言われたからな。……そこっ!」
 そして、勇平が一度しか放てそうにない『アナイアレーション』を放とうとしたその瞬間、騎士が素早く勇平の脇腹へ向けて大槍を突き刺す。
「くっ……!」
 脇腹への攻撃を無理に回避したことで体勢を大きく崩し、『アナイアレーション』は不発に終わってしまう。そのまま、地面へ投げ出される形になったと同時に、茂みからまるで驚かすようにクラウン・フェイス(くらうん・ふぇいす)が飛び出してきた!
「そぉれっ!」
 高周波ブレードを振るい、その切っ先から『舞い降りる死の翼』が放たれる。しかし騎士はそれを『ディフェンスシフト』で防御していった。
「うーん、失敗! でも、やろうと思えば鉄仮面は外せそうだよ!」
 ぽーん、と後ろへ跳ねるクラウン。着地点のすぐ近くには、今まで『ダークビジョン』で騎士の襲撃とその様子を見定めていたイリス・クェイン(いりす・くぇいん)が立っていた。
「そう、わかったわ。――単刀直入に聞くわ、あなたは一体何者なの? そしてあの機晶姫を狙う目的はなんなのかしら?」
 敵対している者が目の前にいるからか、砕けた感じの言葉で問いかけるイリス。もし突然の攻撃が来たとしても、『庇護者』で防御を固める算段だ。
「話す必要などない。……邪魔ばかりだ、一気に片付けさせてもらう」
 やはり話そうとはしない。いまだ高まっている魔力を集中させ、『サンダーブラスト』を放とうとするが……イリスのある一言で、その攻撃が止まる。
「……“そうしろ、と言われたから”。あなたが先ほど言った言葉よ。つまり、誰かの指示で動いてるということね」
「……っ!」
 初めて騎士の言葉が詰まる。と、その時別の方向から『隠形の術』で姿を隠していた辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)がリターニングダガーと服の裾に隠し持っていたダガーを投擲し、奇襲をかける! それに合わせて、クラウンは敵の正体を暴くべく鉄仮面を外そうと同時奇襲を仕掛けた!
 だがふたつの奇襲は騎士の大槍とタワーシールドによって防がれる。騎士は奇襲をおこなった相手へ向けるが――それこそが刹那の狙い。すぐさま、イリスの後ろから健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)が飛び出し、『歴戦の武術』を乗せた『則天去私』で殴りにかかる!
「うおりゃあああああああっっ!!」
 さらに後方では『迷彩塗装』で姿を隠しているアスター・ランチェスター(あすたー・らんちぇすたー)が『機晶技術』と『先端テクノロジー』の粋を結集し、発声拡大効果を増幅させたマイクを持って『怒りの歌』を歌う銀河 美空(ぎんが・みそら)が援護に回っている。
「私のおやつを食べたあいつに〜鉄拳制裁♪ 確実勝訴☆」
 ……ハイテンションになっての踊りを含め、歌の内容はアレだが。
 『怒りの歌』のサポートを受けた勇刃の強力な一撃は――防がれた。大槍の穂の部分を拳にぶつけ、一気にはたき落す戦術で勇刃の攻撃を防いだのだ。そしてそのまま、ノーモーションによる『サンダーブラスト』で周囲の契約者たちを一掃しようとする!
「へぇ、お前も魔法を使えるんだな。だが魔法を使えるのは……お前だけじゃないんだぜっ! 行け、『ヴォルテックファイア』ぁぁぁぁ!!」
 ――騎士の『サンダーブラスト』と勇刃の『ヴォルテックファイア』。特に勇刃の魔法のほうには『歴戦の必殺術』を乗せてある。が……それでも『サンダーブラスト』を相殺という形で打ち消すことしかできなかった。
「くっ……やるな。――時間もかけてられない、強行突破させてもらう!」
「なっ!?」
 騎士がそう宣言すると、再び『ランスバレスト』で突貫を試みる。まだ体勢の整っていなかったためか、勇刃やイリス、刹那の抵抗も空しく一気に突破されてしまった!
「――させん。いくぞ、なんとしてもここで止めるっ!」
「了解、大ちゃん!」
 しかしその突貫を毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)プリムローズ・アレックス(ぷりむろーず・あれっくす)、そして紫月 唯斗(しづき・ゆいと)の三人が一斉に攻撃して制止させる!
 毒島は後衛からの『真空波』連打と忍法・呪い影を放った妨害攻撃を、プリムローズは『龍燐化』と『ブレイドガード』で『ランスバレスト』を受け止めながら、そのダメージを『リジェネレーション』で軽減する防御戦法を、そして唯斗は忍法・呪い影を併用した『魔障覆滅』で攻撃を仕掛け、その動きを止めていく。
「多人数による同時攻撃――だが、騎士の守備能力をなめるなぁっ!!」
 咆哮と共に、すべての攻撃を『ファランクス』で受け止める騎士。そのダメージは蓄積されつつあるが、いまだその豪勢は衰えていない。
「攻撃を凌ぐとは……だが、これならどうだ?」
 攻撃を受け止められるや否や、毒島は一気に前に躍り出て『疾風迅雷』『歴戦の飛翔術』を用いた『手刀』や徒手空拳による牽制・足止め目的の攻撃を開始する。唯斗も『分身の術』にてそれに加わり、騎士を惑わせようとする。
「くっ、小癪な……!」
 さらには後方にプリムローズが用意した従者、ニャンルーが二匹でへヴィボウガンによる援護攻撃、さらにヘルハウンドの群れがブレス攻撃やら体当たりで騎士の足止めを行う。そしてプリムローズ本人も『チャージブレイク』での攻撃力ブーストをかけて全力で攻撃――否、豪撃を続ける!
「――『サンダーブラスト』!」
 『ファランクス』『ディフェンスシフト』で防御を固めるものの、完全に動きを封じられた騎士だが、その状態においても魔法を使い、一気に蹴散らそうとする、が――!
「なんのっ!」
 しかし、発動の直前にプリムローズが地面を思い切り攻撃して土砂の壁を作り、『サンダーブラスト』を防御していった!
「土砂で魔法を防御したか……! だが、ここで立ち止まるわけにはいかない!」
 騎士の決意、業火の如く消えることがない。それを体現するかのような、ノーモーションでの『ファイアストーム』を繰り出す!
「くそ、まだそんな力が――だがっ!」
 至近距離での『ファイアストーム』を何とか防ごうとする三人。特に毒島はこの攻撃の隙を狙って必殺の状況を作ろうと、わざと攻撃を食らい、『空蝉の術』からの煙玉による煙幕を張る。――だが、騎士はその状況をすぐに利用していった。
「これ以上遊んでいるわけにもいかないのでな――失礼する」
 煙幕が周囲を包み込むと、毒島は止めの『手刀』を繰り出そうとするが――それは空を切る。煙幕を張るのとほぼ同時に、騎士は『ランスバレスト』を使って隙を狙っての一気突破を図ったのだ。
「くそ、逃がしたっ!」
「これ以上はすぐには追えそうにありません。ワタシのナノ治療装置で全員の応急処置をしてから追いましょう」
 すぐに追おうとする毒島たちだったが、かなりの余力を削られてしまっている。すぐさまアスターがナノ治療装置を使って負傷者の治療を開始、この治療が終わるまで、追跡はできそうになかった……。