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二人の魔女と機晶姫 第1話~起動と邂逅~

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二人の魔女と機晶姫 第1話~起動と邂逅~

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■襲撃――オリュンポス!?
 ――遺跡探索班が機晶姫のゆりかごの謎に迫っていたちょうどその頃。ミリアリアの小屋から少し離れた場所に、白衣の男が高笑いを上げていた。
「フハハハハ! これより我ら悪の秘密結社オリュンポスは起動前という機晶姫を手中に収めるため、行動を開始する!」
 その男の名はドクター・ハデス(どくたー・はです)。世界征服を企む秘密結社・オリュンポスの幹部を名乗る、生粋の日本人である。
「かしこまりました、ご主人s――じゃなかった、ハデス博士」
「あ、あの……機晶姫を強奪するなんて、悪いことなのでは……それに、そんな高笑いを上げてたらすぐにばれそうな……」
 部下としてヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)アルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)、そして親衛隊員たる戦闘員を二人引き連れていた。ヘスティアは従順にハデスの命令に頷くものの、アルテミスはちょっと倫理的だ。
「心配はない! すでにこの森一帯に『情報攪乱』を張って、敵の情報網を妨害してある! 戦闘員に偵察へ行かせたところ、かなりの人数が哨戒に当たっているみたいだからな、その辺りの準備も万全だ!」
 今日のハデスは一味違う、とばかりに『優れた指揮官』たる資質を見出している。それほど今回の作戦には気合を入れているのだろう。
「……き、騎士として、主であるハデス様の命令は絶対……仕方ありません」
 その気合に押されてしまったのか、ため息をつきながらアルテミスも作戦に参加することとなった。
「よし、早速だが作戦を開始する。一気に攻め込むぞ!」
 ハデスの号令と共に、悪の秘密結社オリュンポス一行はターゲットの機晶姫が眠るミリアリアの小屋に向けて進軍を開始したのであった。……『カモフラージュ』と『行動予測』を使い、契約者たちの警戒網を潜り抜けながら。


 ――その様子を、木の上から伺う姿があった。全身を包む鎧に鉄仮面というその姿は、この森にはとても異形なものであるだろう。
(……まだ、頃合いではないか)
 先客が場を荒らしてくれるなら、それを利用しよう。そう考えた鉄仮面の騎士は静観の態勢を取り続けることにする。
「――やぁっと見つけたぜ。こう、森の中だと探しづらくてしょうがねぇ」
「……っ!? 誰だっ!」
 木の根元からの騎士を呼びかける声に、鉄仮面の騎士はすぐに警戒態勢を取る。だが、相手が攻撃を仕掛ける様子はない。
「待て待て、俺はお前と戦いに来たんじゃない。少しだけ話を聞かせてもらいたくてな」
 地の利を手放さないためにも、鉄仮面の騎士は木の上から根元にいる人物――山田 太郎(やまだ・たろう)である……を覗き見る。どうやら、太郎はその顔を隠すために鬼の面を付けているようだ。
「話だと?」
「ああ。――ちょっと別口で機晶姫の情報を集めてるんだが、もし知ってるなら教えてもらおうと思ってね」
 太郎が聞こうとしていたのはドワーフに育てられた少年と、それを愛した機晶姫のこと。支障が出ない程度にかいつまんで話をしていく。
「――というわけなんだが、何か知らないか?」
「知らないな。聞いたこともない」
 ……どうやら、完全に外れだったらしい。太郎は面の奥でバツの悪そうな顔をしながら、その場を離れようとする。
「待て。このまま私が逃すと思ったのか?」
「……安心しな。お前の雰囲気から見るに鏖殺寺院やブラッディディバインとも関係ないみたいだし、俺は傍観者として立ち回らせてもらう。お前の邪魔もしない」
「――そうか。だがもし邪魔をするなら、その時は遠慮なく手をかけさせてもらう」
 太郎の言葉は本当なのだろう。そう感じ取った鉄仮面の騎士は、太郎を逃すことにした。そしてそのまま、太郎は森の奥へとその姿を消していった……。
「……さて、先客の働きぶりを見させてもらおうか……」
 鉄仮面の騎士はそう呟くと、最大限の注意を払いながらハデスたちの後をつけ始めるのであった。


 ――ここで、機晶姫護衛チームの布陣を説明する。
 弥十郎を中心として組まれた『防衛計画』により、布陣は大まかに“第一防衛ライン”、“第二防衛ライン”、そして“本陣最終防衛ライン”の三つに分けられている。
 そして現在、秘密結社オリュンポスのメンバーは第一防衛ラインをこそこそと移動中である。主にこの第一防衛ラインでは敵の侵入を各防衛ラインに伝えるための罠などが張っており、それは――自然物に紛れた、とても巧妙なものだった。
「む……草に引っかかったか。注意して歩かねばならんな」
 ちょうど、ハデスがその自然物トラップにかかったようだ。だがこれはルナ考案による罠。かかった者には気づかれないように作られているため、ハデスはかかったという事実に気付いていない。そのため、『情報攪乱』や『行動予測』の対象にもかからなかったようだ。
 そして秘密結社オリュンポスが少し先に進んだところで、罠の報せを受けて急行したパルフィオ・フォトン(ぱるふぃお・ふぉとん)ルーライル・グルーオン(るーらいる・ぐるーおん)の二人が待ちわびていた。
「そこまでだよ、鉄仮面! ……って、あれ? 鉄仮面じゃない?」
「フハハハハ! もう我らの侵入に気が付くとはな! だが機晶姫は我々、悪の秘密結社オリュンポスがいただく! ヘスティア、アルテミス、戦闘員たちよ! 障害は全て排除せよ!!」
「かしこまりました、ハデス博士! 戦闘モード、起動します!」
 早期に発見されるとは思わなかったハデスであったが、すぐに戦闘態勢を取る。あわよくば、そのまま一気に小屋まで突っ切りそうな勢いだ。
「鉄仮面以外にもあの子を狙う奴がいたのか――だったら同じ敵だっ! ルラちゃん、バトルパーツ頂戴!」
「は、はいっ! ――コンバージョン・シークエンス。バトルパーツ、ハンガー……シュート!」
 巨大パワーローダーを駆るルーライル。そのコンテナが展開されると、中に入っていたパルフィオ用の戦闘用パーツ“ハンガー”が射出された!
「させません!」
 古今東西、合体シーンは邪魔してはならない。しかし、最近ではその不文律は崩されているという。ヘスティアもまた、その不文律を崩すべく、背中の追加武装ユニットを展開。三つ取り付けられている六連ミサイルポッドを『破壊工作』『弾幕援護』として一気に撃ち、パルフィオの合体を阻止しようとする。
「続いて、レッガー……シュート!」
 しかしそれへの対策としてか、ルーライルは戦闘用パーツ“レッガー”の射出と同時に、『弾幕援護』を展開。合体封じを阻止するべく、弾幕に弾幕をぶつけていった!
「軸合わせ、ポジションよし――たぁぁぁぁぁっ! バトル・コンバァァァァァジョンッ!」
 『弾幕援護』の相殺によって、合体するチャンスが生まれた。そのチャンスを逃さないため、パルフィオはうまく軸を合わせて跳躍。そのまま“ハンガー”と“レッガー”をその身に纏うッ!
「フォトオオオオオオンッ!!!」
 ――説明しよう! パルフィオは普段の状態ではリミッターがかかっているが、戦闘用パーツである“ハンガー”“レッガー”と合体することにより、鋼の巨体を有する“バトルコード:フォトン”が解放され、本来の戦闘行為が可能となるのだッ!
「くそっ、あのような巨体が出てくるとは! アルテミス、戦闘員たち! ヘスティアと連携し、なんとしてでもここを突破するぞっ!」
「わかりました! ――オリュンポスの騎士・アルテミス、参ります! いざ、正々堂々と……勝負ですっ!」
 『優れた指揮官』としての手腕を見せるハデス。『士気高揚』によって部下たちの士気を高めていく。
 ヘスティアはルーライルとの弾幕勝負で後方支援を抑えている状況において、アルテミスの大剣がパルフィオの巨大な拳を抑える唯一の手段だ。そんなわけで、アルテミスは積極的に前衛に躍り出て、戦闘員たちと一緒にパルフィオへ攻撃を開始する!
 激しさを増す第一防衛ライン。その拮抗する戦線へ、リュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)シーナ・アマング(しーな・あまんぐ)ブルックス・アマング(ぶるっくす・あまんぐ)陽風 紗紗(はるかぜ・さしゃ)の四人が合流してくる。どうやら、リュースの『殺気看破』に引っかかったということと、先ほどの弾幕相殺の爆破音ですぐにこちらへ来たようだ。
「――謎の騎士じゃないみたいですね。しかし、敵対するのであれば……!」
 謎の騎士相手ならば、何かしら情報を引き出してやろうと考えていたようだが、相手が敵対する他の契約者ならば話は別。リュースは敵を退かせることを第一に考え、まずはアルテミスへ向かって『バーストダッシュ』で一気に接近、その勢いに乗ったまま『疾風突き』を繰り出していく!
「む、増えましたか……しかし、騎士として負けません!」
 思わぬ増援に苦戦を強いられることとなるアルテミス。しかし、ここを何としても突破するという信念が、アルテミスの剣技をより澄まさせていく。
 だが相手は巨体の鉄人に合体したパルフィオ、『勇士の剣技』が映えるリュースとその攻撃に合わせて強力な一撃を繰り出そうとする紗紗、さらに後方にはヘスティアと砲撃支援合戦をしている巨大パワーローダー乗りのルーライルに、様々な支援用の歌で支援をするシーナ、そしてオリュンポスに対して『サンダーブラスト』を仕掛けようとするブルックス。……オリュンポス側の分の悪さは頭一つ抜きんでている。
「――この前、必死にテレビで宣伝していたようですが……オリュンポスも大したことありませんね」
 アルテミスとつばぜり合いをしながら、後方にて指示を出したり士気を高めようとしているハデスへそう挑発し、鼻先で笑うリュース。この前のテレビ、というのはおそらくろくりんピックの生中継のことだろう。そしてハデスにとって、その挑発はコンプレックスを抉り出す一撃になったようだ。
「ぐぬぬ……言ってはならんことを! ヘスティア、主砲でこいつらを一斉殲滅! オリュンポスをバカにした罪、万死に値するっ!!」
「かしこまりました! ――ニルヴァーナライフル、連結完了。エネルギー急速注入……充填完了しました! 戦術予知プログラムによる誤差修正と補正完了、モード・広範囲射撃。主砲――発射します!」
 主砲の切っ先を戦闘中の敵前衛陣に向け、ニルヴァーナライフルのトリガーを引くヘスティア。放出される極大エネルギーの束が真っ直ぐ前衛の――アルテミスへと飛んでいく。
「へっ……?」

ドゴーーーーーンッ!!

 ……着弾と共に、アルテミス“だけ”が被弾。天高く吹っ飛ばされる様は、もはや様式美の吹っ飛ばされ方のようにも見えなくはない。
 そして流れる、若干の沈黙、静寂……。
「――戦闘員たちは可及的速やかにアルテミスを回収! そのまま戦略的撤退だ! おのれ、次こそは機晶姫を手に入れるっ! 覚えておれよっ!」
 戦況的に不利と判断したのだろう。ハデスは全員に撤退命令を出す。そして、ハデスが撤退の一歩を踏んだその時……。

どさぁっ!

「なん……だと……?」
 一瞬、何が起こったのかわからなかった。……どうやら、ハデスは落とし穴に落ちたらしい。しかも、落とし穴の中にはニルヴァーナ産芋虫の粘液が仕込まれており、臭いうえにネバネバしている。
「こっちにも掘っといて正解だったかな? というわけで――かかったなアホが! ……って、騎士じゃない?」
 ちょうど、歩哨中だった吹雪もこちらに合流したようだ。自らがプロデュースした落とし穴に誰か引っかかってるのを見て、覗いてみると……鉄仮面の騎士じゃない白衣の男が落ちていたので、思わず目が点になる。
「すいません穴の中の怪しい人、所属と名前をお願いします」
「――フハハハハ! 我が名は悪の秘密結社オリュンポスの天才科学者、ドクター・ハデス! ……名乗ったのだ、とりあえず助けてもらえるとありがたいのだが」
 反射的に名乗り口上を上げる辺り、手慣れているのかもしれない。しかし、吹雪は手を伸ばすことはしなかった。
「……どうしたのだ? 早く助けてもらわないとネバネバが身体に引っ付いて非常に不愉快極まりないのd」
「――秘密結社とか本当は好きなんだけど、今は仕事なので。みんなー、この不審者を懲らしめましょー」
「ちょ、ま、やめ、やめぇぇぇぇ!!」
 パルフィオに牽制され、ヘスティアが助けに入れない中……ハデスは吹雪やセイレム・ホーネット(せいれむ・ほーねっと)たちによって、あんなモノやこんなモノを入れられたうえ、土を戻して埋めようとしたりと、存分に懲らしめられたとか。そして後の話になるが全てが終わった後、木に吊るされボロボロのハデスをオリュンポスの構成員が助け出したとかなんとか。


 ――しかし、緩んだ空気はそこまでだった。
「どうやら茶番はここまでのようだな。悪いが――先へ進ませてもらう」