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二人の魔女と機晶姫 第1話~起動と邂逅~

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二人の魔女と機晶姫 第1話~起動と邂逅~

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■深層部に眠る謎
 ――時は少しだけ遡り、透乃がゴーレムと拳同士をぶつけ合っていた頃。『隠れ身』で姿を隠し、先行して深層部へ降りた那由他であったが、思いもよらない事態になっていた。
(まさか那由他と同じ考えで先に降りてくる人がいるとは思わなかったのだよ……)
 那由他の他に先行して深層部へ降りてきた歌菜と羽純を見て、困った表情を浮かべる。だが、かろうじて『隠れ身』の効果で一緒にいることはばれていないようだ。
(こっちに気付く様子無し――それなら、予定通りお宝は全部いただくとするのだよ♪)
 善は急げ、とばかりに歌菜たちから離れようとした、その時……。
『侵入者発見。侵入者発見。防衛しすてむ、ふる稼働。侵入者ヲ、排除セヨ』
「嘘っ!? もうトラップ!?」
 歌菜が驚くのも無理はない。まさか入ってすぐ――おそらくは深層部への階段上に仕掛けられていたのだろう……にトラップが仕掛けられているとは思わなかったのだ。
「このままだとまずい。歌菜、先に罠を解除できるだけ解除するぞ」
「わかった!」
 すでに先へ進む通路には赤外線式のトラップなど、侵入者を一切通さないための対処がいくつも施されている。
 とにかくそれらを解除するべく、歌菜は『超感覚』を使い銀狼の耳と尻尾を生やすと、『トラップ解除』を駆使して浅層部への階段や通路にあるトラップを解除していく。と……その時。
「――あれ? 私たち以外に誰かいるみたい」
 こっそりと先に進んでいる那由他の気配を『超感覚』で察知した歌菜。トラップを解除しながら先に進むと、ちょうど那由他が『隠れ身』状態のまま鍵のかかった扉を開いたところであった。
「……おい」
「ち、違うのだよ!? 那由他は先にいってトラップを解除してあげようと思っていただけなのだよ!」
 部屋に入ろうとした那由他の服の襟を羽純がガシッと掴んだことで那由他が捕まる。どうやら、先行しての出し抜き作戦はここまでのようであった。
「まぁ、いくつかトラップは解除されていたしな。だが、ここからはあまり単独で動かないで一緒に行動するぞ」
「……仕方ないのだよ」
 那由他はここで観念した模様。しかし、まだまだ出し抜くつもりではあるらしい。ひとまず、開けた部屋に入って探索しつつ情報交換を行うこととなった。
 ――一番先行していた那由他の話によれば、どうやらこの深層部にあるトラップのほとんどは“有機体感応型”のトラップらしい。那由他のような機晶姫相手ならほぼ発動しないのだよ、とのこと。とはいえ、一度発動すれば危険なものには変わりないということで引き続きトラップは解除の方向で進むこととなった。
 そしてどうやら、この深層部内には機械でできたモンスターがガードマン代わりとしてうろついているとのこと。那由他は『隠れ身』のおかげで戦わずに済ませていたのだが、その点は伏せていた。
「機械、となると『ヒプノシス』は効かないかもしれないな。……仕方ない、出会った時は一気にねじ伏せよう」
 そう言いながら、羽純はいくつかの資料らしき風化した紙の束を見つけ、それに『サイコメトリ』を使い情報を集め、その情報を『ソートグラフィー』でデジカメに写していく。しかしあまり有用な情報ではなさそうだった。
「――よし、この周辺のマッピング完了。後続の人たちのためにも、どんどん調査していかないと!」
 歌菜も銃型HCに周辺地図のマッピングと気になる情報をまとめ終えると、後続する探索班に情報を共有するためデータを転送する。
 そしてそのまま三人は次の怪しい箇所へ向けて移動を開始するのであった。
(隙を見て、はぐれたふりしてお宝探しに行くのだよ……この程度では、あきらめない那由他なのだよ)
 そして、一番後ろを歩く那由他の口元は、まだ出し抜きをあきらめない笑みが浮かんでいた。だが……結局この後、那由他は歌菜たちからはぐれることができずに探索を終えることになってしまったりする。


 ――ゴーレムとの戦闘が激化する浅層部から、後続の探索班が深層部へとやってくる。先行していた歌菜たちがトラップを解除してくれたおかげで、途中までの調査は楽に進めれそうだ。
「敵も出る、ということだから慎重にいかないとね。ブルーズ、何かあったらよろしく頼むよ」
「任せておけ」
 黒崎 天音(くろさき・あまね)ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)と共に近くの部屋に入り調査を行う。天音は『秘宝の知識』や『トレジャーセンス』、『財宝鑑定』などを用いて色々と調べてみるものの、あまり成果は出なかったようだ。機械モンスターも出る気配はなく、ブルーズもやや手持無沙汰にしているように見えなくもない。結果、探索隊のメンバーと合流する頃合いには天音本人が気になった資料を幾つか持ち帰るだけになってしまったという。

 その一方、別の部屋ではエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)がヴィゼル護衛組と共に行動していた。ちょうど今、閉じられた部屋の扉をエースの『ピッキング』で開けた所である。
「きっと、この先に何かあるはずよ。私の勘がそう告げてるわ!」
 いつもはメシエに止められて冒険に出れないリリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)であるが、今回はメシエがこの遺跡に目がくらんでしまっているためか止められることなく、この探索班に参加していた。たまの冒険のせいだろうか、そのテンションは高い。
 一行は慎重にその部屋へ入ると、そこには数体の……寄せ集めの機械で構成された狼がいた。どうやら、これが歌菜たちからの情報共有で言っていた機械モンスターらしい。
「これは……追い払えそうにないわね」
 もし何かしらの生物に遭遇した場合、殺さずに追い払うことを第一に考えていたリリアであったが……相手が相手らしく、その気を起こせずにいるようだ。
「ただの機械道具に話なんて通用しませんよ。それに――既にこちらを敵と認識しているようですし」
 メシエの辛辣な正論を口にすると同時に、機械モンスターが一斉に襲いかかってくる。その狙いは、部屋に侵入した有機体の侵入者!
「敵性対象認識、迎撃します」
 だが、襲わせまいとハーモニクスが素早く灼骨のカーマインを構え、次々と機械モンスターを撃ち抜いていく。攻撃されそうな時は『歴戦の防御術』でその攻撃を防ぎ、仲間を……特に護衛対象であるヴィゼルを死守する。
 そこからさらにアスカやエースたちの援護もあり機械モンスターを退くことに成功した。
「ヴィゼル氏、大丈夫でしたか?」
 メシエの言葉には「ああ、大丈夫だ」と元気よく返すヴィゼル。どうやら問題はなさそうである。
 機械モンスターを退けた一行は、その部屋の調査を行うことにした。機械モンスターがいたのなら、きっと何かあるはずと踏んだからだ。
 エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)は中枢パーツの仕様書や設計図的なものがこの深層部にあるのかもしれないと予想し、『財産管理』などを応用して資料棚をくまなく調べていく。そしてその間、エースは部屋の奥で何かを発見したようだ。
「なんだこれ……碑文?」
 そこにあったのは、部屋には似つかわしくない碑文らしき石板。どうやら材質的には別な遺跡から運び込まれたもののようだ。見ると、その碑文にもぐるぐる太陽のマークが掘られている。
「まだ文字は読めそうだ。メシエ、解読を手伝ってくれないか?」
「いいでしょう。古代の文字に触れれるなら、手伝いますよ」
 碑文の前に立つと、すぐに碑文の解読を始めるエースとメシエ。二人の『神話』『歴史』『考古学』と、知識をフルに回転させて解読をしていくと……その結果は以下のものとなった。

“黒き船 この地にて眠る”


「……なんだこれ? この文字の下にあるのは……座標か?」
 想像以上に難解だったようで、かろうじて読めたのが先ほどの一文のみであった。ひとまずエースはこの碑文の写真を撮り、後で見れるようにすることにした。
「これが座標だとしたら……ふむ」
 どうやら、ヴィゼルには何か心当たりがあるようだ。だが、まだ確信までは得られてないらしい。
「――あ、これは……エース! これ、ここの地図みたいです。他の資料に比べたら、まだ十分見ることができますね」
 と、その時エオリアがこの深層部の地図を見つけたようだ。すぐさま、エースやエオリアたちはその図面を籠手型HCに登録して情報共有していく。
「ここはこんな感じでしょうか。それじゃ、次の部屋に行きましょう」
 エオリアのその言葉に一行は頷き、次の部屋へ向かうこととなった。しかしその中で、ヴィゼルは何かを考えているのであった……。


 ――深層部奥の一室。『防衛計画』にて内部構造をある程度把握し、機械モンスターを排除してきたセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)、そして『光術』で明かりを照らしながら、『トラップ解除』を優先的におこなっていた御凪 真人(みなぎ・まこと)の三人は、その部屋の中にあったモノに驚きを隠せずにはいられなかった。
「これって……機晶姫、よね?」
「ええ、間違いない。これ――機晶姫よ」
 部屋の中には、機晶姫が保管されているカプセルがたくさん並んでいるという、異様な光景が広がっていた。
「なんなんでしょうね、この部屋……とにかく、調べてみましょう」
 真人の言葉に頷いたセレンフィリティとセレアナ。すぐに三人でこの異質な部屋を調べ始めた。
「――この機晶姫、全部壊れているわ。おそらく、廃棄予定だったものかもしれない。……しかも、見る限り箱に入ってた機晶姫と同じ中枢パーツを使うタイプの機晶姫たちね。カプセルから出せればもっと調べられるんだけど……それはちょっと無理そう」
 情報共有によってもたらされた、中枢パーツのおおよその形のデータを銃型HC弐式で確認しながら、セレンフィリティはカプセル内の機晶姫を見てだいたいの目測をつける。その様子は、しっかりとテクノクラートをしている風に見える。
「……セレン、あなたでも真面目に働くのね」
「な、何よっ!? あたしがいつもサボってると思ってるの!?」
 セレンフィリティの補佐を行いながら、ついセレアナがそんなことを。その言葉に対して、セレンフィリティは思わず反論した。
「仲がいいんですね。それはそうと……この遺跡、おかしいと思いません?」
 二人の仲睦まじい言い合いもそこそこに、真人は調査しながら二人へ話をしていく。
「おかしい……って、どういうこと?」
「この遺跡の意味ですよ。本来ならば機晶姫に取り付けたままで保管していてもいい中枢パーツが分けられてこの厳重な警備の深層部に保管されている。この遺跡を作った人にとっては、機晶姫よりも中枢パーツが大事だったのでしょうか? それにこの廃棄された同タイプの機晶姫たち……まるで、“ゆりかご”というよりは“墓場”に思えて仕方ありません」
 真人の『博識』からくる問いかけに、部屋の状態を詳細に記録を取っていた二人は作業の手を止めて、この遺跡の“意味”を考える。廃棄予定の機晶姫が保管され、中枢パーツは機晶姫とは別に保管されている……。
 この遺跡に眠るという、中枢パーツは一体なんなのか……資料などがない現在では、謎はすぐに解けそうにはないのだった。

 深層部奥を探索する刀真、月夜、草薙 武尊(くさなぎ・たける)の三人。『トラッパー』で罠の位置を確認しながら、注意をしつつ移動。機械モンスターを薙ぎ払いながら『トレジャーセンス』で中枢パーツがあると思われる部屋を探索する。しかし、当たるのは機晶姫の基礎的なパーツが保管されている部屋ばかりであった。
「ふむ、周囲を見てきたがこれといったものや部屋はなかった。このフロアはハズレかもしれんな」
 小型飛空艇を使って周囲を見回ってきた武尊は首を振る。
 どうやら、このフロア自体が、基礎パーツの保管倉庫なのだろう。刀真もここに詰めていた人の痕跡がないものかと月夜と共に探索してみたものの、やはりそういった類のものは見つからなかった。
「刀真、ここってなんの遺跡なんだろう。未使用の同じパーツばっかりあるみたい……」
 『機晶技術』でそういったものを見抜いたのだろう、月夜は抱いている疑問を刀真へ投げかけてみる。
「機晶姫を作る工場……いや、そんな施設無かったしなぁ。何かの実験場、というのが妥当な所か?」
 デジタルビデオカメラで周囲を撮影しながら、今までに得た情報などを頭の中でまとめていく刀真であったが……銃型HCで情報を受け取った武尊の声でその思考は中断される。
「ぬ、どうやら中枢パーツが見つかったようだ! 急ぎ合流の指示が出てるぞ!」


 ――時は少しだけ遡り、深層部奥・中央の部屋。ここでは木賊 練(とくさ・ねり)と秘色が部屋の探索をおこなっていた。
「うわー! うわー! すごいすごい! なにこのパーツ、見たことないっ! あ、こっちにもすごいパーツ!」
「木賊殿、あまりはしゃぎ回らないほうがいいかと。何があるのかわからないのですから」
 ヴィゼルの護衛をしていた秘色だったが、鷹の雷鳴号の偵察で練が一人で行動していることを知り、こちらに駆け付けていた。
 その練は部屋内にある機晶姫用パーツの数々に目を輝かせてひとつひとつ丁寧に調べ上げていた。かなりテンションが高く、秘色のなだめる声も聞こえないほどに周囲が見えていない。
「あ、でもこの辺のパーツは中枢パーツじゃないなぁ……あれ、ひーさんいつからいたの?」
「……つい先ほどからです。ところで木賊殿、あの壁だけ少し色が違うように見えるのですが」
 どうやら、練が色々とパーツを見て回っている間に、秘色は罠がないか、意識を集中させながら部屋の周囲をきちんと調べていたらしい。そのため、壁の色の違いに気付いたようだ。
「きっとそこに何かあるかもしれない! あたしの道具の出番だね!」
 そう言って練が取り出したのは――工事用ドリル。アーティフィサー用のそれを手に持つと、躊躇することなくゴリゴリと壁を掘り始める。いくつか穴を開け、脆くなっていくのを確認すると……えいっ! とばかりに壁をけたぐって壁を崩していった!
「――っ!? 木賊殿、危ないっ!」
 だがその崩れた壁の先にいたのは……こちらを襲おうとする機械モンスター。秘色がそれにいち早く気が付くと、練を押し飛ばして機械モンスターの前に立ちはだかる。そして『歴戦の防御術』で防御をしようとするものの、すんでの差で機械モンスターの攻撃を受けてしまった。
「ひーさん大丈夫っ!?」
「ええ、腕に少し怪我を負っただけなので問題ありません……木賊殿は大丈夫でしたか?」
「あたしはだいじょう――あ」
 大丈夫と言おうとした矢先、練の視界に入ったのは……突き飛ばされて外れてしまったのだろう、大事な道具の入った腰道具を機械モンスターが踏まれているところだった。
「……あたしの道具を……許さないっ!!」
 瞬間、練の感情が爆発した。即座に戦闘用イコプラに攻撃命令を出し、機械モンスターを攻撃しだすと一気に接近して、『ライトニングウェポン』で強化した工事用ドリルで機械モンスターの額を“掘削する”。
「助太刀します!」
 腕の怪我を我慢しつつ、秘色もブージを構えると――眼にも止まらぬ速さで機械モンスターの身体を『ソニックブレード』で一閃した。
「はぁ、はぁ、はぁ……あたしの大事な道具を足蹴にするなんて……!」
 機械モンスターを片付け、腰道具を定位置へ戻す練。その表情は怒り疲れが見えている。
「――っ! 木賊殿、あのパーツは!?」
 秘色が崩れた壁の先に見えるパーツを見つけると、すぐに練へ知らせる。練はすぐにそのパーツに近づこうとするが、まずは秘色が部屋に罠がないかどうかのチェックを行う。……どうやら、罠はないようだ。
「これ、これだよ! まちがいない、このパーツだ!」
 深層部突入前に教えてもらった中枢パーツの予想形のデータを写してもらった紙を見て、中枢パーツであることを確認した練。すぐに秘色が他の人へ連絡しに行き、その間に練は中枢パーツの簡単な調査を行うのであった――。


「――はい、中枢パーツは手に入りました。すぐにそちらに戻ります」
 ザカコがルカルカへ連絡を入れ終ると、見た目はハードディスクドライブのような長方形型の中枢パーツをヴィゼルに預けようとする。しかし、ヴィゼルはそれを断った。
「ああいや、わしはすぐに屋敷に戻らせてもらうよ。色々と調べなければならないことができたのでね。もしかしたら、今後お主たちにも依頼を回すかもしれない」
「調べたいこと、ですか」
「なぁに、大したことではないよ。――それでは、失礼させてもらおう」
 にやり、と楽しげに笑うヴィゼル。このまま一人で帰すわけにもいかないためある程度手の空いた契約者数人が護衛代わりとしてヴィゼルを屋敷まで送っていくこととなった。
「あの碑文の座標、どうやら何かの遺跡みたいだ」
 エースが籠手型HCで碑文に書かれていた座標を調べたところ、出てきたのはとある遺跡付近の地理情報が出てきた。とはいえ、今はその遺跡に行く時間はない。
 中枢パーツを届けに行くため、一行はすぐにミリアリアの元へと戻ることにしたのであった――。