|
|
リアクション
●All I want
春の陽差しの麗しさよ。
百合園女学院の庭先では、水彩絵の具で塗ったように淡く、しかし色とりどりの春が芽吹いていた。
木陰にフェルト地のシートを敷いて、冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)とエノン・アイゼン(えのん・あいぜん)は睦みあっていた。
目の前には木製の盆、そこに陶器のティーセットがあった。温かいお茶や桜餅がならぶさまは目にも楽しい。
軽く膝を崩した姿勢で小夜子は座っている。エノンの身も同じシートにあるが、彼女は座っているのではなかった。身を横たえ、その頭を、小夜子の膝に預けているのだ。
つまり膝枕、小夜子は、猫のように甘えるエノンのつややかな髪を、ゆっくりと指で梳いている。
エノンは小夜子のなすがままに任せ、半ば目を閉じ、くすぐったいような笑みを浮かべていた。
「もうじき新学年が始まりますね。けれどエノンさんは、以前より甘えん坊になってきたかな?」
いいえ、とエノンは恥ずかしそうに言った。
「私、本当は甘えたがりなんです。小夜子さんと契約したときから、ずっと」
あら、と小夜子が言うのに応じて、
「でもそういう面を出すと、頼りないかな? と思って……」
つまり最近は、安心して自分をさらせるようになったということだろう。
すると小夜子は、母のように、あるいは姉のように、優しく微笑した。
「ふふ、素直に甘えれば良かったのに」
そんな彼女の白くか細い指が、エノンの頬をむにむにとやわらかに揉む。
「だって、頼りないパートナーだと思われたら、ひょっとしたら地球に帰っちゃうんじゃないかなって……」
「……そのぐらいで私は帰りませんわよ。そんな風に思われたらちょっと心外ですね」
やはり微笑を浮かべたまま、小夜子は指をエノンの頬から離した。といってもエノンには触れたままだ。絹の柔らかさを確かめるかのように、指先でつつーっとエノンの身体をなぞっていったのだ。
はじめ、エノンの唇を撫でた。
そのまま首筋をたどるや、彼女はびくんと小さな反応を見せる。
鎖骨のあたりを焦らすように何度か往復して、胸の谷間を目指す、そこから豊丘の頂上を求める。
「さ、小夜子さん……っ!」
エノンの身体が火照り、甘い香りがたつのがわかった。それと同調して彼女の敏感な部分が、堅くなる感触が指先に伝わってくる。
「ふふっ、エノンさんは可愛いですね……」
言いながら小夜子も上気した顔を、エノンの顔に近づけていった。
「本当、可愛いし綺麗ですし、そんな貴女が大好きですよ……」
夢見るような口調でエノンに告げると、エノンが何か言おうとするのを小夜子は濡れた唇で妨げた。
息が苦しくなるほどの、長く、甘いキス。
もう小夜子は指先だけで情熱を抑えることはできそうもなかった。両の手でエノンの白いブラウスのボタンを外そうとする。
「こ、ここじゃちょっと……」
玉の肌を汗で湿らせ、首筋に張り付いた髪を払えぬままにエノンは切なく訴えるも、
「大丈夫。誰も見てませんわ」
小夜子は許さない。
彼女はエノンに覆い被さった。
「ああ……」
吐息を漏らしながら、エノンは小夜子の背中に腕を回す。
ずっとずっとこんな風に、彼女を独占できればいいのに……。
エノンが望んでいるのは、たったそれだけのこと。