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リアクション
1.ワンウェイチケットトレイン
――空京ステーション
彼女は走っていた。
さながら、焦燥に駆られるように、エスカレーターを走り、駅のホームへと駆け込んできた。天御柱学院の赤い制服と金色の髪を翻し、息を切らして。
彼女はアリサ・アレンスキー(ありさ・あれんすきー)という。
手には切符を握りしめて乗り込む列車を探していた。
キョロキョロと当たりを見回す彼女をシリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)とサビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)が見つけた。
「よう! 久しぶりだな!」
シリウスたちはかつて天御柱の予科練にいた。その時に起きた事件で彼女のことを知っていた。アリサにとって二人は多くいる恩人に数えられる。
「シリウスさん……」
「なんだい。そんなに慌てて」
サビクが尋ねると、アリサは息を整えて答える。
「列車探していたら、ホームで迷ってしまって」
アリサは方向音痴だった。それこそ極度のだ。学院から駅まではタクシーで迷わずにこれたものの、駅に入ったらなかなかホームに辿りつけなかった。
しかし、これでもまだ100mも走ってはいない。アリサは極端に体力がないのだ。
「結構動けるようにはなったみたいだけど、無理すんな」
心配するシリウスに「大丈夫です」とアリサは答えた。
シリウスの記憶では、アリサは動けることすら不思議なくらいに痩せ切った覚えがある。
アリサは3年に渡るコールドスリープにより筋力は極端に衰えていた。それを一年かけてのリハビリでようやく普通に歩行できるまでに至っている。もはにはのだったった
もっとも、コールドスリープから覚醒めた時には不思議と自立歩行していた。
(あの時は、『アリス』のちからがあったからかもだけど)
サビクの思い出している『アリス』とは、アリサに埋め込まれていた人工的人格のことだ。
『アリス』は強力なサイキック能力で剣の花嫁と機晶姫たちを暴走させた。最終的にアリさに埋め込まれていたスティモシーバーが破壊された際に彼女は消滅している。
事件の容疑者であり、被害者でもあるアリス。彼女の事を考えると、シリウスたちはアレで本当にアリスが消えたのだろうかと疑念がいつもわく。
人工的な人格なら同じチップを誰かに埋め込めば、別の人に別の『アリス』が誕生するのではないか。
「で、電車でどこに行くつもりなんだ?」
シリウスの問いにアリスが答える。
「カナンです。彼の消息がわかったんです!」
「ああ、恋人がいたんだよなお前。そいつはよかったな!」
「たしか、途中までだけどカナン側に行く路線もできてたもんね」
カナンへはつながってはいないが、途中まで行くならば目的地へと確実に着く電車なら方向音痴でも問題はない。
急かすような汽笛が鳴る。
「出発まで時間がないみたいなので、これで失礼します!」
「おう、またな」
別れを告げ、足早に列車へと駆け込むアリスを見送った二人。
ふと思う。
「あれ? カナン方面の路線てこのホームだっけ?」
シリウスはホームの電光掲示板を確認する。
アリサが乗ったのは三番線。特別寝台列車Cf205――
「上野行」
間もなく出発。
「あいつ乗り間違いやがったーーー!!」
二人はアリサを追って、同じ列車へと飛び乗った。
「くくく、ジャックするのに持って来いな電車があるじゃないか!」
乗車に際して、不審な笑い声を漏らす輩がいた。
「工作員は首尾よくアレを仕掛けているだろうな……よし、乗り込むぞ!」
これから起きるバカ騒ぎの半分は、こいつのせいだと明記しておこう。
多くの思惑を乗せ、片道路線の特別列車が走り始めた。
この列車は二度とここには戻らない。
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