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二人の魔女と機晶姫 第2話~揺れる心と要塞遺跡~

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二人の魔女と機晶姫 第2話~揺れる心と要塞遺跡~

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■謎呼ぶ黒き要塞
 ――武装面のシステムは本来のシステムとは別室……いわば火器管制室と呼ばれる部屋にその全権が委ねられているようだ。
「なんかすごい武装の数……やりがいのある仕事だよね〜」
 その火器管制室のシステム修繕をおこなっているのは、葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)とそのパートナー、セイレム・ホーネット(せいれむ・ほーねっと)。セイレムは吹雪に差し入れのお菓子を手渡すと、そのまま機動要塞の外へと出る。
「はーい皆さーん、差し入れですよー!」
 そして、外側の武装本体の修繕をしているレリウス・アイゼンヴォルフ(れりうす・あいぜんう゛ぉるふ)ハイラル・ヘイル(はいらる・へいる)、そしてセリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)の三人に声をかけていく。そのすぐ近くには面白そうだからと機動要塞の見学をしている玉藻 御前(たまも・ごぜん)の姿も見え、玉藻もすぐにセイレムの元へ駆け寄ってきた。
「おー、塩大福じゃ。ありがたくいただくかのぉ」
 見学者である玉藻がいち早く差し入れを食べ始める。遅れて到着したほかの三人も、休憩に入ることにしたようだ。
「しっかしレリウス、この機動要塞に興味を持ったなんて男の子らしいところがあったんだなぁ。グラキエスに感化されたのか?」
 ハイラルが塩大福をつまみながら、レリウスへそう話し始める。しかし、レリウスは違うとばかりに静かに首を横に振った。
「……今はグラキエスがいないから話しておきますが、そういった理由ではありません。――一応、グラキエスから数週間前に受けたという依頼のことはある程度聞きましたが、鉄仮面の騎士の襲撃とほぼ同時期にこれが発掘された、というのが気になりまして」
 ここで一度言葉を切り、少し思案してから言葉を続ける。
「見たところ、この機動要塞はかなりの重武装です。側面に多数装備されている全方位対応対空機銃、副砲らしい圧縮式二連装エネルギーカノン、そして何より主砲として備え付けられている物は局地殲滅を目的とされたエネルギー砲と見て問題ないでしょう」
 『銃器』『重火器』の『博識』な知識で、装備している武装がどのようなものかを説明するレリウス。大福を一口食べてから、自らの考えを続けていく。
「……俺の考えとしては、これを悪用されたら、場合によっては多大な被害が出るかもしれません。ハイラル、申し訳ありませんが俺がここへ来た本当の理由……この機動要塞の能力や武装を調べに来たことはグラキエスには内緒にしておいてください。自分の作業が悪用に繋がっていた、と知ったら傷ついてしまうかもしれません」
「お前、意外と疑り深いのな……まぁ、グラキエスの件に関してはわかった。俺としてもしょんぼりされるのは嫌だわ」
 レリウスの言葉に了解するハイラル。とはいえ、レリウスの本当の理由には呆れるほかなかった。
「とはいえ、武装の修理はほとんど終わりましたし、俺はこの後グラキエスの様子を見にいきたいと思います。ハイラルはどうしますか?」
「オレはそうだな……一応、火器管制システムのほうを見てこようと思ってる。武装をスムーズに稼働できるようにしたり、命中率を上げるプログラムとかを作れないか相談しておきたいんだ」
 レリウスはグラキエスと、ハイラルは吹雪と合流するつもりのようだ。なるほどとレリウスが頷くと、まだ少しの間は休憩を続けることにした。
(――ふむ、セリスよ。これはほぼ黒と見るべきかのぉ?)
(だろうな。武装を破壊して、無力化しておく必要があると俺は思うがね)
 レリウスたちに聞こえないよう、小声でそのような話をするセリスと玉藻。……セリスがここへ潜り込んだ本当の目的は、玉藻の依頼で機動要塞が正しい運用されるかどうかを見極めることにあった。そしてレリウスの話から聞く限り、黒の可能性は高いという意見に寄っているようだ。
(今の話だけでは判別を付けるのはあれだしの……ヴェルザ・リ(べるざ・り)の報告次第じゃの)
 しかしすぐには判断するわけにはいかないと踏んだか、技師や調査中の契約者、そして何よりヴィゼルの動向を確かめるため監視中であるヴェルザ・リの報告を待つことにしたのであった。

 ――機動要塞内。グラキエスたちはセレアナと共に要塞内設備の修繕作業に当たっていた。
「このパーツの互換性は……なんとかありそうだな。ロア、集めてもらったデータが役立ってくれて何よりだ」
「いえ、これもエンドが楽しく作業できるためです。私も楽しく作業できますしね」
 『サイコメトリ』で部品の情報を読み取ろうとしたのグラキエスだが、見えるのはこの機動要塞に以前人がいた頃のうっすらとした情報のみ。あまり役立ちそうになく、『機晶技術』や『先端テクノロジー』の知識を駆使して一つ一つ互換性を確認しながらの作業となった。
 しかしそこはロアが作業前に集めた修繕データを持てる知識と技術、そしてスキルを総動員し、さらにエルデネストが『コンピューター』特技を活用して工夫したPCサポートをすることで圧倒的な作業効率の上昇を図っている。
「アガレスも役立ててくれているようで何よりです。ある程度作業が進んだらお茶にしましょう、さきほどしゃべり続けたから、喉も乾いたことでしょうし」
 アガレス、とはエルデネストのフラワシである。グラキエスの手伝いと、周囲の虫除け役として遣わせてるのだが、そこそこ役に立っているようだ。
「……すごいわね、あの連携。私もセレンがいれば連携バッチリなんだけど」
 グラキエスたちの恩恵を受けながら、セレアナも設備修繕作業に力を入れる。環境が良くなければ活動員の士気も下がってしまう、という考えの元、照明器具などの環境面の設備修繕に当たっていく。破損がひどい所はグラキエスたちに声をかけて修繕を頼んだりと、これまた意外に連携が取れているようだ。
 ――そんなこんなでしばらく作業をしていると、グラキエスの様子を見に来たレリウスがやってくる。ちょうど休憩時と踏んだグラキエスたちは休憩をしていくのだが……ここでもまた、エルデネストの小さな嫉妬が蠢いていたとか。

 ――一方、黒い機動要塞の動力室では練と未沙が中心となって動力室の修繕に当たっていた。桂輔とアルマが集めてきた資料を元に、動力室修繕班は相談し合い、各自の持ち場を決めていく。
 結果、未沙は必要なパーツの洗い出しや動力室内全体の応急処置、練と秘色はサブ動力とメイン動力の整備と点検、桂輔とアルマは機動要塞や遺跡内を巡ってメイン動力に必要なパーツ集めに出ることとなった。
 練がサブ動力の点検修理をおこなっている間、秘色は練の指示に合わせて動力機械に油を差したり、練の大事な道具である《モンキーレンチ》や《はんだ付けセット》などを渡し、助手としてしっかりと働いている。秘色は練がイキイキと整備している様子を見て、誇らしげにしていた。
「……えーと、全く読めないわこれ……」
 未沙は必要パーツの洗い出しをするため、先ほど練が動力室内をチェックしていた時に書いていたというチェック表を受け取って読もうとしたのだが、あまりにも練の字が下手すぎたため全く読めずにいた。しかたなく、未沙自身で動力室内を見て回り、必要パーツの洗い出しをすることにした。
 自身の『ゴッドスピード』によって作業効率は飛躍的に上げ、さらに『不寝番』で作業をするつもりでいるほど、目を輝かせての作業をおこなっているようだ。そのおかげで、すぐにパーツの洗い出しが終わり、その内容を全員で確認することとなる。
「こんな感じになったんだけど」
「ちょっと待ってて、これをもとに設計図を描きあげちゃうね! ……ひーさん、絵のほうお願い!」
 サブ動力の整備点検が終わった練は、次のメイン動力を整備するためにメイン動力の設計図をささっと描きあげようとする。しかし練が書くと先ほどの未沙のようにわからずじまいになってしまうので、秘色が代わりに描くことになった。
 ……未沙のパーツ洗い出し表をもとにし、設計図と必要なパーツの絵をすらすらと描きあげる秘色。しかしここで、ある違和感をここの全員が感じることとなった。
「……あれ、なんかこのパーツだけ異様に大きくないか?」
 最初にこの違和感を感じたのは桂輔だった。それの指摘から、全員がそのパーツに注目していく。
 ――そのパーツは、他のと比べて大きかった。大きさからして、人間一人ほどのサイズ。……全員に、一瞬嫌な予感が過ぎる。特にアルマは機晶姫のためかよりその嫌な予感が強く感じる。
「……で、でもこのパーツは最後に取り付けるみたいだから修繕は進められると思うよ」
「とりあえず修繕は続行か……わかった、ひとまず俺とアルマは遺跡の周りを調べてパーツを探してくる」
「まさかとは思いますが……しかし、それだと圧倒的に出力が足りない気がします……」
 過ぎった予感を振り払うようにして、そう言葉にしていく桂輔たち。しかしそこを秘色が止めていった。
「お待ちください。少し休憩をしてからでも遅くはないかと思います。先ほどセイレム殿から塩大福を頂きましたので、お茶を飲んでから作業を再開しましょう」
 どうやら、全員の気持ちを落ち着かせる意味もあってか秘色は『ティータイム』を全員に勧める。桂輔たちは互いに顔を見渡した後……そのティータイムの提案に頷いていくのであった。