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二人の魔女と機晶姫 第2話~揺れる心と要塞遺跡~

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二人の魔女と機晶姫 第2話~揺れる心と要塞遺跡~

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■名所? 『天使の羽』
 ――その頃の空京。ここは空京に本店を構えるクレープ屋『天使の羽』……の近くで経営中のオープンカフェ。現在、ここにある一行がある山を見てため息をついていた。その一行とは、リース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)とそのパートナーたちであるマーガレット・アップルリング(まーがれっと・あっぷるりんぐ)桐条 隆元(きりじょう・たかもと)ナディム・ガーランド(なでぃむ・がーらんど)の計四人だ。
「ど、どうしましょう……いくらなんでもこれは買いすぎたんじゃ……食べきれませんよこれだと」
 リースの視線の先には、カフェテーブルの上に大量に置かれたクレープの山。軽く数十人分はありそうなその量に、リースは頭をうなだれさせている。
「大丈夫! こういう時は一緒に食べてくれる誰かを探せばいいのよ!」
 ぐっと片手で拳を握り、もう片手にクレープを持ってそれを食べながら現状打破の作戦を声高らかにするマーガレット。……食べ物を捨てるわけにもいかず、リースはマーガレットのその案に乗るほかなさそうだ。

 ――なぜこんなことになったのか。それは『天使の羽』で現在おこなわれている“ハッピーくじキャンペーン”に原因があった。
 自他ともに認めるクレープマニアであるマーガレットがこのイベントに食いつき、リースたちを誘って『天使の羽』へ。一等賞品である『天使の羽』一年間優待チケットの当選目指してクレープを買いまくったのだ。ちなみに、購入金額500G以上でくじを一本引ける仕組みになっている。
 しかし、くじというものはあらゆる者をヒートアップさせる甘い蜜。優待チケットを絶対に手に入れようという気持ちと、隆元からの「好きなだけクレープを買ってもいいと思うが」という言葉を真に受けたマーガレットが、採算なく何個もクレープを買った結果……無事に優待チケットは手に入れたものの、その代償はすさまじかった。
 しかもそのあと、隆元に「いくら好きなだけ買っていいとはいっても、食べきれぬほど買う阿呆がいるか。わしは自分で食べれる分だけ食べるからな」と言われる始末。
 ……そんなわけで、クレープをすてるなんてとんでもない! というマーガレットの固い意思のもと、くじを引くために大量に購入したクレープを消費するため、リースとマーガレットは両手にクレープを二つずつ持って、カフェ周辺を右往左往しながらクレープを一緒に食べてくれる人を探すこととなったのだった。
「やれやれ、小娘たちは必死そうだなガーランドよ……っと、大丈夫か?」
「……何とか大丈夫だたかもっちゃん。だが早くこのクレープの山何とかしないと……うっぷ」
 リースたちの様子をカフェの席から眺めている隆元とナディム。特にナディムはテーブルの上のクレープ山や隆元が食べている白玉と抹茶アイスと餡蜜を使った“彩の和”というクレープの甘ったるい匂いで辟易とした気分になっていた。心なしか、顔が青ざめているようにも見える……。
「……こやつのためにも、早く片付くといいがな……むぐむぐ」
 ほとんど他人事のようにしながらも、事態の収束を心内で願う隆元であった。

「――む。前方にデートの邪魔をしようとしてる人たちが見えます。回避しましょう、お姉様」
 次の観光場所であり、ミリアリアが唯一知っている空京のスポット『天使の羽』へ向かっていたミリアリア一行。店に間もなく到着、といったところで前方にはクレープを両手に二つ持って色んな人に声をかけている二人の女性の姿が。それを見た天夜見 ルナミネス(あまよみ・るなみねす)リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)をその場から離そうとする。
「何言ってるのよルナ、あの子たちがミリアリアとクルスのデートを邪魔するわけがないでしょう?」
 しかしリカインはルナミネスの言うデートがミリアリアとクルスのことをさしてると思い、不思議そうにルナミネスへ話す。……ルナミネス本人は、リカインと自身とのデートのことをさしていたのだが、リカインはルナミネスのことを仲のいい友達として見ており、ルナミネスの一方通行の恋は実っていないようであった。
「――お、ありゃリースたちじゃないか。何やってるんだ?」
「リースさーん! マーガレットさーん!」
 健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)天鐘 咲夜(あまがね・さきや)がリースたちの姿に気付いたのか、声をかけていく。以前に年忘れ恋活祭で、しかもこの『天使の羽』で出会ったこともあり、偶然の一致とはすごいものである。
「あ、健闘さんに天鐘さん。どうしたんですか、ずいぶんたくさんの人と一緒みたいですけど……」
「ああ、実はな――」

 ミリアリア一行、状況説明中……

「――そうだったんですか。でしたら、私たちにも手伝わせてください。と、その前にやらなきゃいけないことが――」

 リース、状況説明中……

「――なるほど、それなら問題ないわ。ちょうど私たちも『天使の羽』に行くところだったし、買う手間が省けるわね」
 話を聞いていたらしいミリアリアが快諾する。……というわけで、ミリアリア一行はリース一行と合流し、マーガレットが買いすぎたクレープの山を処理することにしたのであった。

「えーと、タコスはさすがに買ってないだろうしちょっと買ってくる」
 どうやら勇刃はタコスを食べたかったらしい。クレープの山を横目にしながら、売ってるかどうかわからない『天使の羽』に向かおうとするが……。
「あ、タコスクレープならあるよー! はい、勇刃!」
 ……マーガレットに止められ、クレープの山から“ラテン・タコス”というクレープを手渡される勇刃。その表情は「あるのかよっ!?」と驚いているようだ。
「じゃあ、私はイチゴのクレープで。前食べた時すごく美味しかったんですよ」
 咲夜はイチゴのクレープを受け取ると、幸せそうに頬張り始める。勇刃はそれを見て幸せそうだ。
 ――そして、その様子を後方から見ている影が二つ。銀河 美空(ぎんが・みそら)コルフィス・アースフィールド(こるふぃす・あーすふぃーるど)の二人である。
「あー、二人ともいいなー。私たちもあっちに混ざってクレープ食べたいなぁ。……あ、あの二人クレープ食べさせあってる!」
「お、おう……ラブラブだな、勇刃たち」
 面白そう、という理由で勇刃と咲夜の二人を尾行していた美空とコルフィス。サングラスをかけてばっちり変装しているようだ。
 勇刃たちの様子を茂みから確認する二人であったが、コルフィスは気が気でなかったりする。というのも、コルフィスは美空に手を握られているからだ。
 美空はさりげなく手を繋いでいるようだが、コルフィスにとってはこれだけでも至上の感覚。俺にも彼女が欲しい、と勇刃たちの様子と美空の手の感覚を感じながらコルフィスは一人想うのであった……。

 ミリアリアたちの護衛目的で同行している契約者たちも、今ここではひと時の安らぎを得ている。隆元とナディムの二人が、クレープを食べ終わるまでの間は見張りを代わりにやってくれることになり、一旦の休憩をもらったのだ。「私はこれとこれを……小腹が減っている程度だし、これだけで十分ね」
 ミルゼア・フィシス(みるぜあ・ふぃしす)は吟味したうえでクレープを二つほど選択。それを見てか、リディル・シンクレア(りでぃる・しんくれあ)はミルゼアと同じクレープを二つ選んでいった。
「んふふ、これは本当美味しゅうございます!」
 “エンジェルクリーム”を幸せそうに頬張っている巫剣 舞狐(みつるぎ・まいこ)。リディルはそれを見てか、おもむろに手を伸ばして舞狐の頭を撫でる。
「はぅ、リディル義姉様!? なぜわたくしの頭をさも幸せそうな表情で撫でてらっしゃるのですか!?」
「あ、いや……舞狐が幸せそうだったのでつい。――撫でられるのもいいですが、撫でるのもまた捨てがたいですね」
 リディルの幸せそうな雰囲気(ただし無表情には変わりないのでちょっと不気味ではある)に首を傾げる舞狐。そんな様子を見ていたミルゼアはその視線をルクレシア・フラムスティード(るくれしあ・ふらむすてぃーど)へ向けると、そこには衝撃的な光景が広がっていた。
「む、なんじゃ? そんな驚くことでもなかろうに」
 ……ルクレシアは両手に二個ずつ、そして自慢の豊満な胸を巧みに使い、その谷間へクレープを二個挟んでいたのだ。胸の谷間に収まっているクレープからこぼれた生クリームが胸の素肌に垂れ、それなりに淫靡な雰囲気を醸し出している。
「あのねぇ……シア、いくらなんでも六個も食べようとするのはどうかと思うわよ?」
「……私は何も見てません。両手と胸の谷間でクレープを確保する姿なんて見てません」
「ミルゼアはなぜそのような呆れた顔をしておる? リディルはなぜ目を逸らす? 舞狐は……相も変わらず愛くるしいのぉ」
 ただ、こんな中でも幸せそうにクレープをもぐもぐしている舞狐なのであった。

「ああ……あの“エンジェルクリーム”の香りがこちらまで届きそうな感じがします。食べたいです……」
 ――『天使の羽』が見える、ミリアリア一行から少しだけ離れた茂みの中。ミリアリア護衛という大事な依頼を受け、離れた場所からひっそり護衛についているフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)の二人。『密偵』で《下忍・下山忍さん(偽名)》と《下忍・下忍野仁さん(仮名)》に頑張ってもらって空京のおすすめスポットを探してもらい、その情報を事前にミリアリアたちに教えたりと、マスターニンジャらしい陰の功労者ぶりを発揮している。
 しかし今、フレンディスはその立場を崩しかねないほどの状況に追い込まれていた。……目の前には『天使の羽』。フレンディスの口内には、年末の時に食べた七色チョコチップの味が思い出され、自然と唾が出そうになる。
「おーい……戻ってこーい」
 が、ベルクの声で飛びかけていた意識を取り戻す。……ベルクもベルクで、フレンディスが『密偵』で調べ上げたスポットにおいて『根回し』が使えるところではこっそり『根回し』して、ミリアリアたちに楽しい思いをさせていたりと、更なる陰の功労者ぶりを発揮していた。……ただ、これだけの功労ぶりを自分の時にも使えれば、と嘆き悲しんでいたが。
「――はっ!? マスター、すみません。任務中だというのに……」
「ああ、それはいいんだがまずはその耳と尻尾を引っ込めなさい。あのクレープ屋見てた間、ずっと出っ放しだったぞ」
 ベルクの指摘通り、フレンディスが『天使の羽』を凝視していた間ずっと『超感覚』を無意識的に発動していたらしく、金狼の耳と尻尾を出してぱたぱたふりふりさせていた。フレンディスはそれに気付くとすぐに『超感覚』を解いていく。
「あわわわわ……すみません。たまに勝手に発動しちゃうんですよ。どうしてなんでしょうか?」
 喜怒哀楽が激しくなると勝手に発動体質のようだが、本人はそれに気付いていないようだ。ベルクも「さぁ?」とごまかしていく。
「それより、あのクレープ屋のクレープ食べたかったのか?」
「えっ!? マスター、なんでわかったんですか!?」
(――そりゃ、あんだけクレープ屋を凝視しながら物欲しそうに尻尾振ってりゃ誰だってわかるわなぁ……)
 実にわかりやすい……と思いながらも、理由は言わずにポンポンとフレンディスの頭を軽く撫でるように叩くベルク。そして、視線を真っ直ぐと『天使の羽』に向ける。
「ま、この仕事が一通り終わったら食べに行こうか。もちろん、俺の奢りでな」
 と、伝えてフレンディスに微笑みかける。
「……は、はい!」
 フレンディスは嬉しそうに返事をすると、再び護衛任務に真面目に取り組みだすのであった……。

「クルス、美味しい?」
「はい。みんなが嬉しそうに食べてるからでしょうか、僕もこのクレープというのが美味しく感じられます」
 ミリアリアとクルスもそれぞれクレープを食べながら感想を言い合っている。その様子は、傍から見れば仲の良いカップルに見えなくもない。
「はーい、二人ともこっち向いて笑ってー!」
 と、その時歌菜から声がかかりミリアリアとクルスはそちらへ視線を向ける。その瞬間、カシャッと音が鳴り《デジカメ》に二人の姿を収めていった。
「……うん、クルス君はちょっと笑顔がぎこちない感じだけど許容範囲内かな。羽純くん、次は私も入れてもう一枚お願い!」
 歌菜はそう言うと羽純へ《デジカメ》を手渡し、二人をくっつけさせるようにして真ん中へ入っていく。そして、次は三人とも満面の笑みで写真を撮られていく。
「――今度はばっちり! ミリアリアさん、この写真あとでプリントアウトしておくね」
「ええ、わかったわ。……ありがとうね」
 思いもよらない写真撮影に驚くミリアリアだったが、同時に感謝の念を歌菜たちに伝えていくのであった……。