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二人の魔女と機晶姫 第2話~揺れる心と要塞遺跡~

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二人の魔女と機晶姫 第2話~揺れる心と要塞遺跡~

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■解かれる遺跡の繋がり
 ――時は少し戻り、ミリアリア一行がクレープの山を頑張って消化している頃。黒船漂着地点ではヴィゼルを含めた調査班が遺跡や機動要塞内の探索をおこなっているところであった。
 現在、機動要塞内の調査を終わらせて遺跡の調査に移っている模様。機動要塞内はめぼしい物は見つからなかった……というのもあるのだが、ヴィゼルに聞かれぬようルカルカと秘密裏に連絡を取っているエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)が、ルカルカから“ヴィゼルを極力、機動要塞に寄らせないようにしてほしい”という風に言われていたため、機動要塞のほうは技術者に任せようという理由を付け、機動要塞の調査を早めに切り上げさせたのだ。
「この遺跡内に資料とかがあればいいんだけど」
 エースとしては機動要塞が建造された経緯などを知りたいところであり、その資料になりそうなものをメシエやエオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)、そしてリリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)と共に調査、探索をしていた。
「それにしても、なぜこの要塞は中途半端に放置されていたのでしょうかね。私としてはこういう目的あって造られたものが使えないまま、というのが非常に我慢なりません。特にメイン動力のパーツでしたか、あれがないと動かせないらしいですね」
 技術者側の修繕進捗は各人のHCでやりとりされており、調査側も状況を把握できる状態となっている。それによると、動力室の修繕班である桂輔から“遺跡内全部を見て回ったがメイン動力のパーツらしきものは見つからなかった”という連絡が入っていた。
「ふむ……みたいだな。まぁ、直しておくだけでもどうにかなるかもしれん」
 よほど話が合うのだろうか、メシエと共に行動しているヴィゼルはとても残念そうだ。
「道具という物は目的のために使われて当然のものです。それが機動要塞であれ機晶姫といえ、同じことです」
「うむ、お主とは本当に話が合うな、あっはっはっは!」
 調査を勧めながらも、メシエとヴィゼルは遺跡や機動要塞のことについて色々と話し合っている。そして、その様子をリリアは怪訝そうに見つめていた。
「……メシエって、機動要塞と機晶姫を同列に語っちゃう人だったのね……知らなかったわ」
「悪い人じゃないんですけどね。……あ、リリアさん。今送信した画像をダリルさんたちに送信お願いします」
 エオリアがエースと共に作った艦内図をHCに取り込むと、それを送信してもらうようリリアにお願いする。リリアはそれに頷くと、テキパキと作業をし始めたようだ。
「でもあの考え方、ちょっと怖いのよね……なんていうか、“作成者的視線”というか。ヴィゼルさんも似たような感じだし、何か嫌なことが起こらなければいいんだけど」
「そうですね……」
 そんな予感を感じさせながら、エオリアとリリアは資料をまとめ、記録する作業を進めていく。と、そこへ見回りだろうか……ヴェルザ・リが姿を見せた。
「……ふむ」
「…………」
 一瞬、視線が合うメシエとヴェルザ・リ。しかしすぐにそれは外れ、ヴェルザ・リは静かにヴィゼルを見ていた。
(……どうにも、他の人と雰囲気が違いますね。でも『殺気看破』で反応はしてないようですし……)
 ヴィゼルの護衛、ということで同行しているザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)はヴェルザ・リの様子を不可思議そうに見ていたが……すぐにヴェルザ・リは部屋を出ていってしまった。
「……めぼしい物は無し、と」
 気にしていても仕方がない、そう考えたザカコは今のことはひとまず置いておき、『トレジャーセンス』や『壁抜け』で周囲を探索してみる。が、特に何も見つからなかったようだ。
「――いやしかし、本当この過去の遺産には心踊らされる。これほどの物を見つけたのも初めてかもしれんな」
 上機嫌に機動要塞のことを想うヴィゼル。ザカコはちょうどいい機会、とヴィゼルへ質問してみた。
「ヴィゼルさんはなぜこの黒船が造られ、保管されてたと考えます? ――自分としては、これだけの規模の機動要塞がただ保管されてるだけ、とは考え難いと思っていますが」
「……ふむ、そうだな。この遺跡自体かなり保存状態が良く、紙媒体の資料などもほとんど無事な状態だ。そう考えるに、この遺跡を造った者たちは未来に生きる者へ手渡すために保管されてたのではないだろうか。わしはそう思うがな」
 ……なるほど、ヴィゼルの言い分ももっともである。確かにこの遺跡で発見、集められた資料のほとんどは機晶姫のゆりかごの時と違い、保管がしっかりとされていたため閲覧が問題なく行えている。そう考えると、この遺跡自体が過去からのプレゼント、と考えるのも無理はなさそうだ……。
(……しかし、それだとなぜ手渡すものが局地制圧を目的としたものなんだ……?)
 エースは送られてきた修繕状況のデータを確認しながら、そう考える。何か特殊な目的で造られた……そう考えるのが妥当な所だろう。
「しかしそれだと、この遺跡を造った者は相当ふざけていますね。未完成の物を残すだなんて」
「ま、技術進化を期待したのだろう。そうはならなかったようだがな、はっはっは」
 メシエの言葉に対し、冗談を口にするヴィゼル。まだしばらくは、ザカコを含めたメンバーで遺跡談義は続きそうなのであった……。

 遺跡内の別の一室。ちょうど那由他から未発掘遺跡の情報を聞いた昌毅はうずうずしていた。
(……くそ、すぐにでも飛び出してその遺跡とやらに行きたいが……もう少し情報を集めてからにするか? もしかしたら他の遺跡の情報も見つかりそうだしなぁ)
 ……前回のリベンジをするため、儲けになりそうな遺跡の情報を探していた昌毅。こちらは遺跡や要塞を調べ上げてそこから情報を得ようとしていたようだが、そこまでいい情報は得られなかったようだ。見つかるのは読めない言葉で書かれてばかりの日誌ばかりである。
「ったく、これじゃ情報がわからないな……」
 と、そこへ清泉 北都(いずみ・ほくと)モーベット・ヴァイナス(もーべっと・う゛ぁいなす)の二人が入ってきた。どうやら見回りがてら『超感覚』で異音を調べながら調査していたところ、昌毅がガサゴソと色々と探している音を探知し、覗きに来たようだ。
 『イナンナの加護』『歴戦の防御術』『スウェー』で守りを固めているモーベットが先に入り、安全と確認したところで北都が続いてやってくる。
「ふむ、どうやら敵ではなかったようだ主よ」
「みたいだねぇ。何か見つかった?」
 昌毅へそう問いかける北都。しかし(自分に有益なものは)何も見つかっていないため、首を横に振って答える。
「あいにくと古代文字ばかりの資料……というか、日誌ばかりでな。どうにも情報を集めにくくて仕方がねぇ」
「そうなの? ……あ、これなら何とか読めそうかも」
 放り出されたままの日誌をぱらぱらと眺める北都。『博識』で何とか読めるレベルらしく、少しの間解読を試みる。
「えーと……『一号機 出力に耐えきれずに大破。全てのパーツに対し見直しが必要』……『試験五号機 出力安定時間が極短。無意識下では本来の出力安定が不可能』……なんのことだろう?」
 その後も何ページか見ていくが、『完成系といえる八十六号機の投入を前に施設が襲われたと報告。この場所もパーツがなければどうにもならないため、放棄・封印を決定する』という書き込みを最後に、それ以上の情報は書かれていなかった。
「……なんか、えらい端的な日誌だな」
「仕方ないよ。解読できたのはこれだけだし……あとは他の人に見せるしかないかなぁ」
 ひとまずこの日誌の情報を銃型HCへ記録していく北都。と、その時……発動していた『禁猟区』になにかが反応した。
「なんだろう、敵襲かな。すぐに向かおう」
「了解だ」
「わ、わかった……」
 ひとまず頷く昌毅。しかし戦闘に参加するつもりは毛頭なく、途中でどうはぐれようか考えるばかりなのであった。

 ――北都が全員に敵襲を伝えようとする少し前。マグナ・ジ・アース(まぐな・じあーす)が、調査中に見つけたある部屋が気になる、とのことでパートナーのリーシャ・メテオホルン(りーしゃ・めておほるん)オルカ・トランジエント(おるか・とらんじえんと)、その後ろに御凪 真人(みなぎ・まこと)草薙 武尊(くさなぎ・たける)が、さらに『トレジャーセンス』を使いながら調査を続けていたところマグナたちに合流した刀真とラグナ ゼクス(らぐな・ぜくす)、そして調査中に『根回し』で前回の依頼のことを刀真たちから聞きながら同行していた瀬山 裕輝(せやま・ひろき)の一団で、その部屋へと向かっていた。
「――なるほど、んなことがあったんか。……ま、深く考えてもしゃーあらへんし、オレにできることをやるだけや」
「ぜひともそうしてもらえると。前回いなかったからこその視点から何かがわかるかもしれませんし」
 システムを修繕中の月夜から送られてきた各種資料を見ながら、祐輝へそう言葉をかける。それに対し祐輝は「まかしとき!」とぐっと親指を立ててサムズアップで応えた。
(……この先にある部屋にはきっと何かある。そこで得た情報を必ずマスターに送らないと。――母さんたちにも、そういうことができればよかったのに)
 ゼクスは刀真と行動することに若干のいら立ちを覚えながらも、マスターである月夜の指示に従って行動を共にしている。そして、機晶姫であるゼクスの予感が、この先向かう部屋で何か待っていると感じていた。
 有益な情報が手に入ればそれを月夜に報告する。そのことを思いながら、同時に考えるのは昔のこと。交流をもっと深めておければ……と、自責の念が強く強く、ゼクスにのしかかっていた。
 ――と、その時である。部屋へ向かう途中の一団にHCへ連絡が入る。その連絡の主は北都であった。
『正面入り口にて、ドクター・ハデス(どくたー・はです)たちが暴れてる! 手伝いに来れる人はすぐに来て!』
 どうやら、秘密結社オリュンポスの面々が懲りなく攻めてきたらしい。大方、機動要塞の奪取に来たのだろうと全員が予想する。
「ふむ、どうやら敵襲のようだな。ここは俺が加勢しに行こう。なに、本調子ではないがオリュンポス相手ならば十分だろう」
「俺もいかせてもらうぜ! 『超感覚』で変な足音は察知してたし、すぐに向かうぞ!」
「なんや面白そうや、オレも一緒にいかせてもらうわ!」
 マグナとオルカ、そして祐輝はオリュンポスの襲撃を迎撃しに行くようだ。部屋の探索をリーシャたちへ一任すると、すぐに三人は正面入口へと走っていった。
「――ハデスたちの相手は彼らに任せて、俺たちは部屋の探索を行いましょう」
「ええ、そうね……」
 リーシャはマグナの心配をしながらも、マグナたちを信じている真人の言葉に頷き、残ったメンバーで部屋内の調査を始めるのであった。

 ……その部屋は事前調査でも見つけてはいたのだが、頑丈な扉と鍵のせいで手つかず状態だった。その部屋の鍵を真人が『ピッキング』で開錠すると、慎重に中へ入っていく。……罠は仕掛けられていない様子である。
 部屋の中は遺跡内の他の部屋とは違い、機晶姫のゆりかごにあった中枢パーツがあった部屋とほぼ同じ作りになっていた。ただ違いがあると言えば、中枢パーツのあった場所にはなにやらコンピューターが置かれているだけである。
「ふむ、このコンピューター……まだ生きているようだな」
 武尊がそのコンピューターの電源を入れると、どうやらまだ使えることが分かった。すぐさまコンピューターを動かし、その内容を確かめていく。
 ――画面に浮かんだのは、ぐるぐる太陽のマーク。そしてすぐに、色々と文字が自動再生されていく。
 それによると、どうやら“機晶姫のゆりかご”と呼んでいた遺跡はこの遺跡に眠る機動要塞専用動力パーツの生産・廃棄プラントだということ。そして、機動要塞や遺跡を造ったのは“夜明けを目指す者”と自称していた古王国時代のテロリストたちであること。その二点であった。
 これ以外の情報はコンピューターにリカバリー不能なバグが発生していたため読み取ることができなかったが……それでも、大きな手がかりにはなりそうだ。
「――どうやら、これで“機晶姫のゆりかご”と“黒船漂着地点”の繋がりが見えてきました。あそこで見つけた廃棄された機晶姫……さらにいうなら、そこから見つかったクルスさんはあの機動要塞の動力パーツとして造られた可能性が高いです。そしておそらく、あの中枢パーツは動力パーツにおける重要な部分……」
 真人が情報をもとに分析し、考えを言葉にしていく。そして行き着いたその答えは、クルスの危険を如実に示すものであった。
「となると……クルスが危ないの。今、クルスたちはどうなってる?」
 武尊がクルスの心配をする。すぐに刀真が佑也へ連絡を入れ、状況を聞いていく。少しの連絡の後、刀真は携帯を切り、全員へ説明する。
「――モニカさんが襲ってきたけど、それを退けたらしいです。モニカは空京警察に捕まったようで、クルスさんとミリアリアさんたちは大事を取って遊園地内のホテルで一晩過ごす、とのことです」
 そういう警察の指示があった、と言葉にしていく刀真。護衛も警察に一任することになったようで、クルスたちの担当だった契約者たちは数組ほど残して解散し終ったあとらしい。
「クルスのほうは大丈夫そうだの。なら……あの機動要塞か」
「――確かに破壊してしまったほうがいいでしょう。しかし、私たちはヴィゼルさんからあれの修繕を依頼されている身。下手なことをしてしまったら依頼を裏切ってしまうことにもなるし、確証もなしに破壊してしまうのもまずいと思います」
 依頼されている身として、あまり勝手は許されないだろう。それに、問題としてクルスを狙うモニカがヴィゼルと関係がなかった時、もし依頼物をこの場で破壊したらそれこそ全体の信用問題に関わる。
「きっと大丈夫と思うわ。疑問に思っている修繕担当の人たちもいるんだし、その人たちが何か仕掛けを施してくれているかもしれない」
 リーシャがそう言葉にする。……そうなると、ここにいる契約者たちがやるべきこと……それは、あえて泳がせることにした。疑うことはできても、その疑いを押し付けることはできないのだ。
 ――方針が決まったところで、連絡が入ってきた。どうやら、オリュンポスはうまく退治できたらしい。そして修繕もほぼ完了したので、ヴィゼルが集まってほしい、とのことでもあった。