リアクション
ふれあい広場 イコンではないが、イコンなみに巨大で力強いものに巨大生物などがいる。 骨龍、ペガサス、巨大クワガタ、巨大カブトムシ、巨大カマキリ、ティラノサウルス、フォレストドラゴン、海竜、エリュシオン帝国のワイバーンなどである。 これらは、生物である長所や弱点を持ってはいるが、戦い方によってはイコンとある程度対等に渡り合うことも可能ではある。もちろん、真正面から戦うことは無謀ではあるが。 なお、これらのうちの巨大昆虫は、保護のためか最近は捕獲や流通がほとんどされていない。 他にも、ドルイドの扱うジャイアントアウルのような神格化した鳥類や、メイガスの操る炎の聖霊であるイフリートのような変わり種もある。 最近発見されたダイノボーグは、大型の恐竜であるのだが、身体はメカでできている。何者かによって生産されたイコンというわけでもなく、野生種のようで、その出自は定かではない。自立行動ができるため、機晶姫の一種ではないかというのが現在もっとも有力な説であった。 これら巨大生物のいくらかは、巨大生物ふれあい広場に集められていた。比較的おとなしく、子供たちにも大人気というふれこみだったのだが……。 「わーい、恐竜です♪」 琴線に触れたのか、ベネティア・ヴィルトコーゲルが歓声をあげた。 「ほんと、どういう技術体系なんだか。まさか、まんまティラノサウルスをサイボーグ化してイコンにしたわけじゃないよね。それとも、また土の中に埋まってたとか……」 十七夜リオも、興味はあるが想像がつかないと首をかしげた。 比較的理路整然とした天御柱学院のイコンと比べると、メンテナンス一つとっても、まともにできるのだろうかという疑問がわきあがってくる。 「古代イコンなのかなあ」 「古代生物って言う感じはするけれど、古代イコンという感じじゃないよね」 シリウス・バイナリスタのつぶやきに、サビク・オルタナティヴが突っ込んだ。 「ああ、癒されるわあ。イコンじゃないって、なんてステキなんでしょう」 巨大生物たちを眺めて、シルフィスティ・ロスヴァイセがほわわんと言う顔をしている。 その視線の先では、アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)のジャイアントピヨたちが、他のペットたちと楽しそうに転がりながら遊んでいた。 ヒヨコによく似たピヨという生命体の巨大化した物がジャイアントピヨであるらしいのだが、その生態はほとんどよく分かっていない。謎である。ただ、転がりやすい体形であることは間違いがない。森に棲むドラゴンの変化したものではないかとも言われているが、やっぱり謎である。 「はい、動物たちに触る前と触った後は、このクレゾールでお手々をよく洗ってくださいねー」 ジャイアントピヨのお世話についてきたセレスティア・レイン(せれすてぃあ・れいん)が、成り行きでふれあい広場を仕切りながら、子供たちにいろいろと動物との接し方を教えていた。 「動物たちが嫌がることをしてはダメですよ。嫌がらなければ、ピヨちゃんを思い切りもふもふしてあげてください」 「ああ、あの子も可愛い。ありがとう、おじちゃん」 「お、おじちゃん!?」 キスクール・ドット・エクゼにおじさんと呼ばれて、メンテナンス・オーバーホール(めんてなんす・おーばーほーる)が、一瞬呆然と立ちすくんだ。まあ、実年齢8歳から見れば、外見年齢100歳はおじさんでも仕方ないかもしれない。おじいさんと言われなかっただけでもまだましだ。 「俺のことは、お兄さんと呼ぶんだ」 ペガサスである愛馬セントリーの鞍からキスクール・ドット・エクゼをだきおろしてやりながらメンテナンス・オーバーホールが言った。 「んじゃ、お兄さん」 「そうだ。どれ、俺の愛馬は凶暴ではなかっただろ。ええ子なんやで」 仮面の下の見えない相好を思いっきりデレさせながらメンテナンス・オーバーホールが言った。 「うん、とっても乗り心地よかったもん」 すぐにもジャイアントピヨをもふりたくて、そわそわしながらキスクール・ドット・エクゼが答えた。 「にしても、嬢ちゃんは一人か? まったく、保護者は何をやっているんだ……」 どこかに親か何かはいないのかと、メンテナンス・オーバーホールが周囲を見回した。 「私、迷子じゃないよ」 キスクール・ドット・エクゼが、思いっきり否定する。 「怪しい……。本当に迷子じゃないんだな」 メンテナンス・オーバーホールが、軽くキスクール・ドット・エクゼを睨みつけた。 「決して、私は迷子じゃないよ。大事なことだから二度言うよ、迷子じゃないよ。迷子じゃないんだもん!」 なんだか呪文のように叫んで、キスクール・ドット・エクゼがジャイアントピヨをもふりに走りだしていった。 「キスクールじゃない、やっと見つけた」 その様子に気づいて、捜しに来ていたマイア・コロチナが、ジャイアントピヨの羽根毛に埋まっているキスクール・ドット・エクゼを捕まえた。 「昌毅はどこです?」 「んーと、迷子」 しれっと、キスクール・ドット・エクゼはそうマイア・コロチナに答えた。 ★ ★ ★ 「はーい、踏みつぶされると後で掃除が大変ですからね。ほら、そこのガキ、その線から前に出ない。柵をよじ登るな。親父、ちゃんと手を繋いでろ!」 ふれあい広場とは言いつつ、巨大生物である。さすがに、不用意に近づいては危険であった。こちら担当の管理バイトなどを請け負ってしまった日堂 真宵(にちどう・まよい)は、一瞬たりとも気が抜けなかった。うっかり、ティラノサウルスが子供でもパックンチョしてしまったら責任問題だ。 「兼定、いい? ちゃんと他の奴らが逃げださないように見張ってるのよ」 土方歳三の飼っている巨大クワガタである兼定に、日堂真宵が言い聞かせようとした。だが、当然正規の御主人様ではないので、兼定としてはそんな命令はスルーである。 「ちょっと、そこ、勝手にスケッチしない」 仕方ないので、日堂真宵が、矛先をすぐそばでスケッチをしているラピス・ラズリとガウタマ・シッダールタにむけた。ほとんど八つ当たりする気満々である。 「いったい何を描いているのよ……」 「ああ、それはやめ……」 ガウタマ・シッダールタが止めようとしたが遅かった。日堂真宵が、ラピス・ラズリの書いたスケッチブックをのぞき込む。 ぎゃあぁぁぁ……!! あっけなく、日堂真宵が気絶してしまった。 「そんなに僕の絵に感動してくれたんだよね」 ちょっと感動したように、ラピス・ラズリが顔を赤らめた。 「いやいや……」 それはないと、ガウタマ・シッダールタが軽く手を振った。 さて、日堂真宵が職務放棄してしまったために、別の問題が起きつつあった。 「クワクワクワクワクワ……(おらおらおら、俺様の縄張りでうろうろするな。ここの砂糖水は全て俺様のもんだ)」 「ティラティラティラティラティラ……(どこにそんなのがあるのよ。ああ、もうこんな昆虫臭いとこは嫌。あたしは、逞しいイコンとふれあいに行ってくるわ)」 なんだか、兼定が顎つきあわせたキャロリーヌが、突然暴走して柵から飛び出した。 「きゃあ、脱走よお!」 セレスティア・レインが叫んだが遅かった。逃げだしたキャロリーヌが会場のストリートを疾走していく。 「暴走……? 目覚めたのか、キャロリーヌ」 ふれあい広場のベンチで虫干ししていた禁書写本 河馬吸虎(きんしょしゃほん・かうますうとら)がぽつりとつぶやいた。だが、何ごともなかったかのようにそのまま虫干しを続ける。 「よし、まだ出番があった!」 知らせを聞いて、岡島伸宏と山口順子が飛燕で駆けつけてきた。 「ティラティラティラティラティラ(まあ、いいイコン。ぎゅっ!)」 「うわああ、飛燕のブースターが……」 いきなり赤いワイヤークローに巻きつかれた上にティラノサウルスにだきつかれて、飛燕の高機動パックが締め潰された。 「ティラティラティラティラティラ(ふっ、弱いわ。こんなの私のイコン様じゃない)」 肝心の機動力を失った飛燕を放り出して、キャロリーヌが逃げ去っていく。 「何やってるのよ!」 「いや、さっきうまくいったんで、今度も楽勝と敵をなめてました。すんません」 山口順子に叱責されて、岡島伸宏がうなだれた。 |
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