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イコン博覧会2

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リアクション

 

イルミンスールブース

 
 
 イルミンスール魔法学校のイコンは、天御柱学院のイコンたちとは別系統のイコンである。
 そのベースとなった物は、世界樹の地下に秘蔵されていたのだが、それをアーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)が量産できるようにしたものである。そのため、機晶技術もフィードバックされてはいるが、心臓部は各校のイコン同様ブラックボックス化されており、その構造は公表されてはいない。明倫館を除く各校が純粋なメカであるのと比べて、イルミンスールのイコンはかなり生物的なイコンであった。
 アルマインと呼ばれるイコンはタイプによって大きく二分されている。
 アルマイン・ブレイバーと呼ばれる機体は、近接戦闘用に特化した機体で蜂を思わせるシルエットをしている。
 対するアルマイン・マギウスは射撃戦に特化した機体となっており、そのシルエットは翅のデザインも相まって蝶のような印象を与える。
 共に足は世界樹の枝をも掴めるかぎ爪状の物になっており、空中と陸上を高速で移動することを得意としている。回避に主眼がおかれているため装甲は厚くはないが、それを補うほどの高機動性を有していた。
 特に、ナラカのような異界でも活動できる点は、他のイコンにない特徴である。
 生体パーツが多いと思われる機体は、自己修復能力を有し、軽微の損傷であれば相応の時間をおくことによって生体装甲は修復できる。また、レイヴンが超能力に対応しているように、アルマインタイプは魔力に呼応してその性能が向上するとも言われている。
「本当に、イーグリットとは外観からして別系統のイコンですね。いったい、動力は何を使っているのですか?」
 イーグリットなどのメカメカしいイコンを見慣れた目からはまさに異形に見えるアルマインを見つめて、久我 浩一(くが・こういち)が、そばにいたキャンペーンガールの神代 夕菜(かみしろ・ゆうな)に訊ねた。
「そ、それは秘密ですわ」
 新型イコンの説明が集中するとばかり思って予習していた神代夕菜が、ちょっとあわてながら答えた。
「じゃあ、機晶石は使っていないと?」
 もしそうだったら、どこからエネルギーを得ているのだろうかと、久我浩一が重ねて訊ねた。もしも、パイロットの魔力から全てのエネルギーを得ているのだとしたら凄いが、パイロットの負担もそれは凄まじいものになるに違いない。
「使ってはいますぅ。でも、イルミンは、他とは違うのですぅ。うふふふふふ」
 困っている神代夕菜に、神代 明日香(かみしろ・あすか)が助け船を出した。
 基本的に現代のイコンは全て機晶技術が導入されている。アルマインも例外ではなかった。だいたいにして、まったくの遺物であれば、インターフェースの問題が発生して、現代兵器の使用に制限がでてしまう。
「アルマインもいいですけれどぉ、イルミンには新型のウルヌンガルがあるですぅ。さあ、皆様、夢への入り口へようこそ♪
 神代明日香が、神代夕菜のたっゆんな胸に見とれている観客たちに、必死に呼びかけた。ここで頑張って、胸の大きさが集客力の決定的な差ではないことを証明しなければならない。
「へえ、アルマインと比べてもずいぶんと形が違うんだな」
 ウルヌンガルを見たシリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)が、ちょっと不思議そうに言った。
 昆虫的なデザインのアルマインと比べて、ウルヌンガルはマントを羽織った重甲冑の騎士の姿をしている。ボリュームのある脚部は格闘戦にも充分に耐えられそうだ。もちろん、内蔵した機晶石によって飛行能力も有している。重厚なシルエットと共に、大きさでもアルマインを凌ぐ大型イコンである。
「ウルヌンガルは、カナンのアンズーの技術とアルマインの技術を組み合わせた、イルミンスールの最新型イコンですわ」
 神代夕菜が、ウルヌンガルの前に立って説明を始めた。
 アンズーはカナンにおいて開発使用された土木作業用イコンだ。そのため、戦闘用として特化したわけではない。
 だが、シャンバラにもゾディアックがあるように、カナンにもエレキシュガルという国家神用のイコンがあり、神官長用のエンキドゥと、選ばれた勇者用のギルガメッシュがある。
 これらは量産型ではないが、そのうちのギルガメッシュを量産機として再現しようとしたのがウルヌンガルであった。そのため、外観は、ギルガメッシュを踏襲している。
「古代のイコンを参考にして作られた第二世代機相当のイコンか。よく覚えておくといいよ、シリウス。敵がいつも最新鋭機とは限らないからね。こういった古代機の方が、ボクたちの知らない力を持っているものさ」
 剣による格闘機としては一押しであろうウルヌンガルをいたく気に入ったサビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)がシリウス・バイナリスタに言った。
「まあ、アルマインもそういったイコンの一つだろうからね。でも、そうなると百合園としても、新型がほしいところだけれど……」
 何か聞いてはいないかと、シリウス・バイナリスタがサビク・オルタナティヴに訊ねた。
「さあ、噂なら飛び交ってはいるけれど。離宮にいた初期型の古代イコンを参考にした物だとか、ゾディアックの量産型だとか、それはもういろいろとね。どれも、実際にでてくるまでは、ただの願望でしかないかもしれないけれど」
 そう言って、サビク・オルタナティヴが肩をすくめた。
 
「うーん、これはまたうちの学院とはまったく違うタイプのイコンを持ち出してきたねえ」
 説明を聞いていくうちに、こういったタイプのイコンへの対抗策はどうしたものかと、十七夜 リオ(かなき・りお)が軽く頭をかかえた。
「重装甲のイコンは鈍重として、一気に間合いを詰めて装甲の隙間をつくという手もありますが、ウルヌンガルの場合は接近したら相手の思うつぼでしょうね。セオリーで考えれば、アウトレンジからの大火力攻撃で一気に装甲を抜くのが無難そうですが」
「それは、火力次第だよね」
 フェルクレールト・フリューゲル(ふぇるくれーると・ふりゅーげる)の言葉に、十七夜リオがまっとうに答えた。
「逆に、こちらで運用するときのメンテナンスアビリティーはどうなんだろう。カナンのアンズーなみにいけるのかなあ」
 新たな疑問をいだいて、十七夜リオがそれを神代夕菜にぶつけてみた。
「アンズーの技術を応用と言うが、アンズーも機晶石を動力に使っているのかな?」
 久我浩一も、先ほどと同じ質問をぶつけてくる。
「ええと、それは……」
 アンズーと比べてと言われても困ると、神代夕菜が口籠もった。
「はい。それはですねえ、多分、余裕ですね〜。アンズーも、動力は機晶石でしたからあ」
 なんとも軽い感じで、神代明日香が答えた。
「本当にそうなのか?」
 イコンの整備は、口で言うほどに簡単じゃないと知っている斎賀昌毅が、さらに突っ込んだ。
「異なる技術のハイブリッドは、いろいろとバランスがピーキーなもんじゃないのか?」
「イルミンの生徒さんたちなら大丈夫ですぅ」
 神代明日香が自信を持って言った。自信だけなら、十二分だ。きっと、アルマインのように、いいこいいこすれば勝手に直ってくれるに違いない
「やけに、簡単だな。キスクール、お前もそう思う……あれ? キスクール、どこ行った? まさか……、いや、間違いなく迷子だな。仕方ない、ゆっくりと各校のブースを回って探すとするか」
 ちょっと嬉々として、斎賀昌毅は次のブースへとむかっていった。
 
 
空大ブース

 
 
 空京大学が有するイコンは、基本的に他の学校からのOEM供給ということになっている。
 だが、首都である空京に位置することもあって、かなりのカスタマイズが施されていた。
 アグニはシャンバラ教導団の鋼竜のバリエーション機である。首都での防衛を主眼におき、市街戦での近接戦闘、及び対人制圧用に特化している。
 
 アルジェナは、都市部の対空防御に特化した機体で、天御柱学院のコームラントをベースとし、索敵機能や防御力が強化されている。その分機動力は低下しているが、都市防衛の移動砲台としては十二分な威力を発揮するだろう。
「うん、イルミンスールに比べれば、空大は分かりやすくていいぜ」
 見慣れたシルエットのイコンを見ながら、斎賀昌毅がちょっと安心したように言った。
 
 第二世代機としては、同じく天御柱学院からブルースロートの供給を受けて開発されたパールヴァティーがあった。
 基本性能はブルースロートと同じ防御特化型のイコンであるが、こちらは元のイコンにない特殊な機能が追加されていた。すなわち、モードをチェンジすることにより、本来持っていた防御用機能の全てを停止して、全エネルギーを攻撃に回すというものである。この状態はドゥルガーと呼ばれ、過剰なエネルギーにより装甲外観までも変化している。このモードでは、パイロットと機体のインターフェースがよりダイレクトになると言われている。
「いずれ、ブルースロートへもフィードバックされればいいよね」
 機能として存在しているのであれば、基本的にブルースロートでも同じことができるはずだとサビク・オルタナティヴが言った。
「モードチェンジか。いったい、元のブルースロートとどれだけ変わるというんだろうな」
 ブルースロートに搭乗したことのあるシリウス・バイナリスタが、同じ外観のパールヴァティーを見つめてつぶやいた。
 
「リミッター解除ということかな。実際の変化をこの目で見てみたいよね」
 十七夜リオも、ドゥルガーには興味津々というところだ。
「カタログスペックでは、主に機動性の変化のようですね。動きが極端に正確になるようです。その分、シールドが展開できずに防御力は下がっていますが、この状態での格闘戦は避けた方が無難というところでしょうか」
 フェルクレールト・フリューゲルが受け答える。
 近接戦闘ではこちらが即応性で後れをとって不利だというのであれば、中距離以遠からの射撃で対応することになるが、実際にはドゥルガーはパールヴァティーよりも射撃精度も上がるので、単純にアウトレンジに回っただけでは打つ手がない。
 それだけ性能が上がるのであれば、時間制限でもありそうなものだが、本来防御に回すエネルギーを攻撃に使っているのでそういうこともなさそうだ。打たれ弱くなっているところを果敢に攻めるしかないだろう。
「同じ次世代機でも、バリエーションがあるというのは面白いですね」
「そおでございますか? アルティアとしては、一つに纏まっていた方が扱いやすいとは思いますが」
 イコンの発展に思いをはせる非不未予異無亡病近遠に、どうしてそんな面倒な改良をするのだろうかとアルティア・シールアムが小首をかしげた。
「可愛くなるのならOKですわ」
「強くなるのであれば……」
 まったく別の見方で、ユーリカ・アスゲージとイグナ・スプリントがつけ加えた。
 人それぞれであるが。イコンも、そういった発展の仕方をしていくのだろうか。