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SPB2022シーズン vsシャンバラ・ハイブリッズ

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SPB2022シーズン vsシャンバラ・ハイブリッズ
SPB2022シーズン vsシャンバラ・ハイブリッズ SPB2022シーズン vsシャンバラ・ハイブリッズ

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【十一 祭りの後で】

 交流戦は、成功裡の内に幕を閉じた。
 SPBの収益も大きく、そのうちの一部は配当金として各球団に分配される運びとなっている。
 第二戦が行われたその日の夜、球場に程近い場所に位置するヴァイシャリー家の別荘で、関係者を集めての慰労パーティーが催された。
 広報として大車輪の活躍を見せた円、理沙、セレスティア、亜璃珠、理紗、ちび亜璃珠、歩、セレンフィリティ、セレアナといった面々の他、球場スタッフとして運営の円滑化に尽力した優希、美羽、コハク、蓮華、スティンガーといった顔ぶれも、慰労パーティーに招待されていた。

     * * *

 だが、その一方でオーナークラスの人物から直接声をかけられ、別件で話を持ちかけられる姿もあった。
 リナリエッタ、ベファーナ、菊、麗華、ローザマリア、エリシュカ、そして吹雪達は、グレイテスト・リリィ・スタジアム内の職員用会議室に呼び集められ、スタインブレナー氏から入団テスト要項と記された書類を手渡されていたのである。
「今、あなた方にお渡しした要項は、全球団共通の入団テスト申込み書類も兼ねています。どの球団に対しても使えますので、もしあなた方にその気があれば、是非一度、入団テストを受けてみてください」
 更にスタインブレナー氏はいう。
 今回、この入団テスト要項を手渡された面々は、いずれも各球団のスカウトから、プロとして採用するに相応しい素質の持ち主であることが確認されている。
 つまり、入団テストとは名ばかりで、事実上の選手スカウトといっても良い。
 但し、それぞれに事情もあるだろうし、仮に希望するとしても意中の球団がある場合は、本人に委ねた方が良いということで、ひとまず入団テストという形を取ろう、ということになったのである。
 つまり、この場に居る面々は己の自由意思で、どの球団のどの入団テストを受けても良いし、その気がなければテストを受けなくても良い、ということになる。
「もしかして、今回の交流戦は……」
 リナリエッタが、スタインブレナー氏の脂ぎった笑顔をやや漠然とした表情で眺めながら、あるひとつの可能性について、疑問を呈した。
「有名人を集めたお祭り的興行、と見せかけて、実はトライアウトを兼ねていた、っていうのは穿った見方かしら?」
 リナリエッタのこの疑問に対し、スタインブレナー氏はただ意味ありげな笑みを浮かべるばかりで、それ以上は何もいおうとはしない。
 だが、その笑みの意味するところは、一目瞭然であった。
 吹雪と菊などは、未だに信じられないといった面持ちで顔を見合わせているが、しかし事実として、SPBの方から誘いを受けたのである。
 色々と不安を抱えて参加した交流戦だったが、得たものは大きかった。
「入団テストか……どうしようかな」
 ローザマリアは、複雑な心境である。
 彼女が聞いたところ、瑛菜がSPBに関わるのは今回限りであり、以降は再び、音楽へと舵を切るのだということであった。
 瑛菜の居ない舞台に身を置く意味が、果たしてあるのかどうか――ローザマリアの中では、すぐに答えは出そうになかった。
 一方、菊と吹雪は。
「面白そうだねぇ。テストを受けて合格しても、辞退は出来るんだよね? じゃあ、一度試しに受けてみるってのも、良いかも知れないね」
「自分も……ベンチで正子殿と色々お話しさせて頂き、プロ野球の世界も悪くはないな、と思うようになってきたところでありますし……!」
 吹雪のひと言に、菊は驚いた表情を見せた。実は菊に対しても、正子は試合前練習の合間を縫って、プロの何たるかについて、色々話しかけてきていたのである。
 もしかすると、この展開を見越してのことだったのかも知れない。
「んふっ……ちょっと真面目に、考えてみようかしら」
 リナリエッタは、どのチームにも結構な数のイケメンが揃っていることに、あらぬ方向での妙な期待を抱き始めるようになっていた。

     * * *

 スカウトの声がかかっていたのは、何も選手として参加したものばかりではない。
 SPB広報室の狐樹廊と公認取材班のエースはグレイテスト・リリィ・スタジアム内の別室に、今回の交流戦で臨時スタッフとして参加してくれた面々を、SPBからの感謝状を手渡すという名目で呼び集め、SPBとしてはまだまだ多くの正式スタッフを募集している旨を告げた。
「それはそのう、つまり、一緒に働いてみないか、というお誘いかしら?」
 怪訝そうに尋ねる蓮華に、狐樹廊は機嫌良さそうに朗らかな笑みを浮かべる。
「まぁ、そのように取って頂いて構いません。勿論、手前共に強要する権限はございませんので、あくまでお誘い、という形になりますが」
 蓮華は微妙な反応に終始したが、狐樹廊からご褒美として、ブルペンでのキャッチボールをさせてもらえたスティンガーなどは、蓮華とは正反対の反応を示していた。
「いやぁ、ブルペンに入らせてもらえたなんて、感激だよなぁ……案外、楽しい職場かもよ」
「もう、スティンガーったら……」
 一方で、裕輝と優希は名前の読みが同じということで妙に話が弾んでしまっており、狐樹廊とエースによる説明は、あまり頭には入っていない様子だった。
「結局、ノリノリな実況は出来へんかったんよ。それがちょっと、ちゅうか、かなり心残りやわぁ」
「まぁ流石に、大勢のひとが聞いているところで悪ノリが出来ないのは、どこの業界も同じですし」
 六本木通信社でも、下手な文言を公共の電波に乗せてしまえば、どのような処分が下されるかは分からないのである。そういう意味では、裕輝に下された指示は、妥当なものだったのかも知れない――少なくとも優希は、狐樹廊の指示には理解を示していた。
「声が大きいということは、場所が限定されていようとなかろうと、大勢のひとに影響を与える。特にマスコミや芸能人という存在はね、それだけである種の武器にもなり得る。ペンは剣よりも強し、ってことだね」
 エースの説明に、裕輝は懐疑的な反応を示したが、優希はその通りだと、大きく頷いた。
「そういえば、リカインさんとシルフィスティさんのおふたりは、意外な才能があったんだね」
 思わぬ話題をエースに振られて、狐樹廊はばつが悪そうに頭を掻いた。
 勿論、レギュラーシーズンが始まればリカインもシルフィスティも選手として活動することになるのだが、シーズンオフに妙な手合いから変な依頼が届かないか、余計な心配を抱く破目になってしまった。
「あれに関しては、まぁ、余興程度に思って頂ければ手前としても幸い」
「そうかい? 案外、良い線いってるかも知れないよ」
 もうそれ以上は触れないでくれ――狐樹廊の背中から沸き立つ黒いオーラが、エースの苦笑を誘った。

     * * *

 慰労パーティーの会場では、亜璃珠が、ノンアルコールワインのグラスを片手に、誰かを探して回るようにしてそこかしこを歩き回っていた。
「あら、どなたかお探し?」
 理沙が、ワイヴァーンズのマスコットガールの衣装のまま、ふらりと亜璃珠の前に現れた。
 対する亜璃珠は、若干困ったように首を傾げた。
「円さんが見当たらなくて……後で広報反省会をやろうってお話があったのですが、まだ途中までしか詰められていないのです」
「そうなんだ……でも、見てないわねぇ」
 理沙も困惑した様子で、周囲を見渡す。彼女の長身をもってしても簡単に見つからないということは、既にこの会場には居ないのかも知れない。
 すると、意外な方向から円の行方を知る声が返ってきた。
「あの子なら、球場に戻っていったよ。何でも、パッフェルに差し入れするとかどうとか」
 言葉を挟んできたのは、千歳であった。
 今回の交流戦ではハイブリッズの為に色々手を回していたこともあり、ハイブリッズに少しでも関わりがあることであれば、大体の情報は押さえていたのである。
 亜璃珠は、パッフェルという名前を聞いた瞬間にぴんときたらしく、小さく肩を竦めてそれ以上の追究は無粋だと諦めることにした。
「ま……そういうことなら、仕方ありませんわね。また後で、出直しますわ」
 そこへ、ちび亜璃珠と理紗が、料理を山盛りにした取り皿を抱えて、嬉しそうに歩み寄ってきた。一緒に食べよう、というのである。
「あらぁ、この料理、どこにあったの?」
「あっちのテーブルに、つい先程、出てきたばかりだよ」
 ちび亜璃珠の答えを聞くや、理沙はセレスティアを引き連れて、教えられたテーブルへとすっ飛んでいってしまった。

     * * *

 ところで、円である。
 彼女は慰労パーティーの料理を持ち帰り用のバスケットに詰め込んで、まだハイブリッズの選手達が解散後の帰り支度をしている最中であるグレイテスト・リリィ・スタジアムのロッカールームへと足を急がせてた。
 折角、パッフェルがSPBに関わってくれたのである。
 せめて円自身の口から、感謝と労いの言葉をかけてやりたい、との思いが強かった。
 ロッカールームでは、少しばかり異様な風景が広がっていた。というのも、正子とパッフェルが料理談義に花を咲かせていたのである。
 この滅多に見られない光景に、円は一瞬、目を丸くしてしまった。
「いや、コハクの奴が、わしとこのパッフェルの意外な共通点を教えてくれたもんでな」
「へぇ……そうなんだ」
 パッフェルについては然程意外、という程でもなかったが、そこで正子との共通点、という話になると、確かに意外中の意外であるといえた。
「ところでパッフェル……もう野球の方には、関わることってないのかな?」
「そうね……ガルガンチュアの試合がある時には、スタンド席で見させてもらうことがあるかも知れないけど、自分でやるのは多分、これが最初で最後じゃないかしら」
 何となく予想した応えではあったが、直接本人から聞かされると、円は何となく、寂しい気分になった。
 尤も、寂しいとばかりもいっていられない。
 レギュラーシーズン開幕は、一週間後に控えているのである。