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リアクション
第二章 セニエ氏の疑心 1
現在のストラトス・チェロの所有者である好事家のセニエ氏。
彼の別邸は、イルミンスールの森の郊外にあった。
開けた場所にある一本の巨木の枝の上に建っており、視界は非常によい。
また、空を飛べるのでなければ、地上からはエレベーターを使って昇ってくるより他ない。
天然の見張り台と言うべきか、広さはさほどではないものの、守るに易く攻めるに難い構造と言えるだろう。
と、そんなセニエ氏のもとへと向かう途中。
「あ、シェリエさん。知り合いに一人頼りになりそうな子がいたから連れてきたわよ」
シェリエにそう告げたのは永倉 八重(ながくら・やえ)。
となれば、その「知り合い」はというと。
「初めまして! 八重からいろいろ話は聞いてるぜ」
そう、もちろん結城 奈津(ゆうき・なつ)である。
奈津はディオニウス三姉妹とは面識がないので、八重がここに来る途中に軽く彼女たちについて説明しておいたのだが……。
「おー、噂通りのセクシー衣装だなっ。……で、もう予告状は出したのか!?」
いきなり謎の期待に満ちた視線を向けられて、困惑の表情を浮かべるシェリエ。
「あ、なっちゃんはあまり気にしないでください。
どうも、この前読んだ本に触発されたらしくて……」
少し申し訳なさそうに、秦野 萌黄(はだの・もえぎ)がそう説明する。
「全く、この落ち着きのない性格だけはなかなか治らんな」
やれやれとばかりに首を横に振るミスター バロン(みすたー・ばろん)。
そんな彼らの様子を見て、シェリエは複雑な表情でこう言った。
「よろしくね。そして、あまりそういう期待に応えられなくてごめんなさい」
「……ん? あたし、何か勘違いしてるか?」
きょとんとした顔をする奈津に、一同は顔を見合わせて苦笑したのだった。
「そちらの事情はわかりました。ですが、こちらにも蒼空学園の伝統と格式があります」
妙なことを言いだしたのは湯上 凶司(ゆがみ・きょうじ)。
彼のパートナーもエクス・ネフィリム(えくす・ねふぃりむ)、ディミーア・ネフィリム(でぃみーあ・ねふぃりむ)、セラフ・ネフィリム(せらふ・ねふぃりむ)という三姉妹であり、それ故に対抗意識のようなものを燃やしているようである。
「……それで、わたくしたちにどうしろと?」
トレーネの言葉に、凶司はこう提案した。
「今回は、依頼で活躍した方がチェロをもらう、ということでどうです?」
「そう言われましても……わたくしたちには、どうしても必要なものですから」
渋るトレーネに、セラフが笑いながら言った。
「心配しなくても、あたしらがもらったら改めて譲るわよん」
「ええ、僕ももとよりそのつもりです。重要なのは勝負に勝った、という部分ですから」
何としても引き下がるつもりのない凶司に、トレーネは一度セラフの方を見た。
(まあ、一応勝負した、って形で。そうしないとこの子納得しないわよ)
そんなセラフの視線の意味を察して、やがてトレーネはにこりと笑った。
「わかりましたわ。それで皆さんが満足するのでしたら」
「ねぇパフュームちゃん、一つ聞いていい?」
パフュームと話しているのは騎沙良 詩穂(きさら・しほ)。
今回集まった面々の中には「直接的には」三姉妹とは知り合いでない者も多いため、詩穂はそんな面々と三姉妹とが仲良くなれるようにと思い、会話の仲立ちをしていた。
そんな中で、詩穂が一番多く話をしていたのが、もっとも明るく人懐こい性格のパフュームだった。
「ん? なーに?」
軽い感じで答えるパフュームに、詩穂は核心をついた質問をする。
「話せる範囲でいいんだけど。どうして、ストラトス楽団の楽器を集めているの?」
その問いに、パフュームは苦笑しながらこう答えた。
「楽器が父さんの形見かもしれないから、だけじゃダメかな。今は、まだこれ以上は話せないよ」
それは、ある程度予想できていた答えでもある。
「そうなんだ。僕も知りたかったんだけどな」
隣で話を聞いていた榊 朝斗(さかき・あさと)も、少し残念そうな顔をする。
「でも、もし話せるときが来たら、ちゃんと詩穂たちにも教えてね?」
詩穂がそう続けると、パフュームはにこりと笑った。
「うん、ありがとう。その時は、必ずちゃんと話すから」
……そして、話が一段落したところで、パフュームは改めて朝斗をしげしげと見た。
「ん? 僕の顔に何かついてる?」
それに対する、パフュームの返事は。
「ううん。ただ、キミみたいな妹がほしかったかなーって」
「ちょっ、いきなり何言い出すの!?」
見事に「年下の女の子」扱いされて慌てる朝斗。
もちろん実際には朝斗はれっきとした男性だし、年齢もパフュームと同じなのだが……見た目はどう見ても「年下の女の子」だし、身長もパフュームより少し低いくらいである。
「ほら、あたしって末っ子だから。たまにお姉さん風を吹かせてみたくなる時もあるんだよね」
「あ、それは何となくわかる気がする!」
パフュームの言葉に、詩穂まで乗ってきたからたまらない。
「だから僕は男だって……いつも言ってるのにみんな聞いてくれないんだよね」
そう言って、朝斗はがっくりと肩を落としたのであった。
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