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【神劇の旋律】ストラトス・チェロを手に入れろ

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【神劇の旋律】ストラトス・チェロを手に入れろ

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第三章 暗躍する者たち

「……ふふっ。ここまではボクの計算通りだね」
 報告を受けて、ブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)は楽しそうな声を発した。
 もし彼が魔鎧の身体にさえなっていなければ、「笑った」と表現するのがきっと適切だったろう。
 三姉妹からチェロの話を聞きながら、あえて三姉妹を妨害する側に回っていたのはこのブルタだったのである。
「大した策士だな」
 こちらも満足そうな声で、髭面の男が答える。
 彼の名はレガート――もうお察しの通り、このモンスター騒動の黒幕である。
 ブルタが流した噂は彼の耳にも届いており、その出所を探ってきたレガートに、ブルタが協力を申し出て今に至っていた。
「だがどうする、あいつらも引き下がる気はなさそうだし、数は減らしたとはいえ、純粋にモンスター討伐に来た契約者も結構な数になるぞ」
 そんなレガートの言葉にも、ブルタは全く動じた様子を見せずにこう答えた。
「ボクの狙いは敵を『減らす』ことじゃなく、『分断する』ことさ。
 そして、それを決定的にするための手ももう打ってある……だろ?」
「うむ」
 ブルタの言葉に答えたのは、いつの間にか部屋の片隅に立っていた小柄な少女――辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)
 セニエ氏が契約者を警護に雇ったと聞き、素早くことを進めるべくレガートが雇ったのが、こういった「裏」の依頼をよく引き受けていた刹那だったのだ。
「手はずは?」
「わらわを誰じゃと思っておる? もちろん万事滞りなく済ませてきたぞ」
「そうか。御苦労」
 不敵に笑う刹那の言葉に、レガートがにやりと笑う。
「これで準備はすべて終了。あとは役者が揃うのを待って、ゲームを始めるだけだね」
 ブルタのその言葉の真意が明かされるのは、もう少し先のことになる。





 一方その頃。
 セニエ氏のもとを、とある人物が訪問していた。

「魔物を呼び寄せるチェロなどそなたの手には余ろう。
 我輩がそのチェロを買い取りたいと思うのだが、どうであろうか?」
 正面からチェロの買い取り交渉を仕掛けたのはクロウディア・アン・ゥリアン(くろうでぃあ・あんぅりあん)
「確かに、こんな騒動になるとは思ってもみなかった。
 私としても、今となっては『どうしても所有し続けたい』と言うほどではない、が……」
 そう言って、ちらりと目線を上げるセニエ氏。
 人間というのはわがまま勝手なもので、もう手放したいと思っているようなものでも、誰かに「ほしい」と言われると、何となく手放したくなくなってしまうものなのだ。
「今チェロを手放したら、せっかく警護を雇ったのもムダになるし、犯人も逃げてしまうだろう」
 そう言って、セニエ氏は包帯の巻かれた左腕を撫でた。
「犯人、とは?」
 クロウディアの問いに、セニエ氏は忌々しげに答えた。
「チェロを狙っている連中だよ。
 図々しくもモンスターを追い払う手伝いをするなどと言ってきたから追い返したら、いよいよ本性を表したらしい」
 そう言いながら、ちらりと腕の包帯に目をやる。
「襲撃されたということか。つくづく厄介な代物と見えるな」
 クロウディアはそう言うと、セニエ氏にこう提案した。
「それなら即答できかねると言うのもわかるが、答えを待っている間にチェロを盗まれても困る。
 我輩の連れにもチェロの警備を手伝わせてはもらえんだろうか?」
 その言葉に、セニエ氏はクロウディアの「連れ」の方を見た。
 槍を背にした黒い鎧姿のサー パーシヴァル(さー・ぱーしう゛ぁる)と、かわいらしい恐竜の着ぐるみのテラー・ダイノサウラス(てらー・だいのさうらす)
 そのシュールな組み合わせに言葉を失うセニエ氏だったが、やがて後者はともかく前者は頼りになると判断してか、納得したように言った。
「なるほど、それはありがたい。
 敵は思った以上に強大なようでな、今は少しでも手がほしいところだ」





 クロウディアたちが退出すると、それを待っていたかのように別の人物がセニエ氏のもとを訪れた。
「先日のお話、考えていただけましたでしょうか」
 ステンノーラ・グライアイ(すてんのーら・ぐらいあい)の言葉に、セニエ氏はあまり気乗りしない様子で答えた。
「あのチェロを薔薇の学舎に寄贈する、という話か?」
「はい。いかにあの三姉妹がチェロを狙っていようと、さすがに薔薇の学舎の管理下となれば、そうやすやすと手出しはできないでしょう」
「……ふむ」
 腕組みして考え込むセニエ氏に、ステンノーラはさらにこう続ける。
「薔薇の学舎は音楽関係の活動が活発で、毎年数回はコンサートを開催しております。
 やはり楽器は奏でられてこそその真価が発揮されるものですし、そうした方が楽器のためにもなるのではないでしょうか?」
「なるほど、それには一理ある」
 その言葉に、もうひと押しと踏んだステンノーラが「いかにも今気づいたかのように」こう尋ねた。
「おや? その腕の包帯はどうなされたのですか?」
 すると、返事の代わりにセニエ氏は小さなペンダントを取り出す。
「これは……あの三姉妹のものと同じペンダントですね」
「つい先ほど、刺客に襲われてね……警護の者がすぐに駆けつけてくれてことなきを得たが、肝を冷やしたよ」
「では、このペンダントは?」
「その時に刺客が落としていったものだ」
 憮然とした様子のセニエ氏に、「いかにも驚いたような顔をしつつ」ステンノーラが言う。
「もはや一刻の猶予もありませんね。一刻も早くご決断を」
 けれども、セニエ氏は首を縦には振らなかった。
「君には悪いが、他にもこのチェロをほしいという人がいてな。
 それに、せっかくこれだけの契約者を雇っておいて、犯人をみすみす逃がすのも気分が悪い」
「そうですか……それでは、問題が片づいた頃にもう一度伺いましょう」
 そう言って、ステンノーラは一度引き下がることにした。
 ここでチェロを手にできれば一番だったが、そうできなかった場合の手もすでに二重三重に打ってある以上、ここで無理をする必要は全くなかったのだ。