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 次に送り込まれたのはノベル・ライト(のべる・らいと)ルルナ・イリエースト(るるな・いりえーすと)
 先程の惨劇を踏まえ、まずは隣の席から近づくことにした。
「流水がこないのは残念だよね」
「人見知りですしねぇ。免疫もないし、仕方ないわぁ。私たちだけで楽しみましょ?」
 二人の話している通り、黒衣 流水(くろい・なるみ)はお留守番。趣味の読書にでも興じているのだろう。
 とりあえず、当たり障りのない話から始める二人。
「改めて思ったけど、ルルナお姉様ってやっぱり何を着ても色っぽいよね」
「そうかしらぁ?」
「うん。その服も夏らしくてとってもいい感じだもん」
 透けTの下にキャミソール。それがフレアロングスカートとマッチしていて良く似合っている。対してノベルの着る服は可憐ではあるが、男性の目を惹くという点では劣ってしまう。
「色気が出てていいなぁ。私には全然ないもん……羨ましい」
「そんなことないわよ? ノベルは私に無いものを持っているわぁ」
 少し暗い声を出すノベルに、ルルナは優しく言い聞かせる。
「清楚な服や可憐な服ってどうしても避けちゃうのよねぇ。だって、それは私じゃなくてノベルの方が良く似合うじゃない? 素直だし、美少女だし、ぴったりよねぇ」
「そうかなぁ……」
「絶対そうだわぁ。試しに誰かの意見を聞いてみるのがいいわねぇ」
 周りを見渡し、自然な流れで隣に声を掛けた。
「ねぇ、そこのキミ」
「……俺?」
「うん、キミ。お名前は?」
「山葉聡だ」
「聡君ねぇ。少しだけお話いいかしらぁ?」
「まあ、話だけなら大丈夫だぜ」
「ありがとう。早速だけど、女の子の服装についてどう思うかなぁ?」
「そっか、男の人の意見も重要だもんね」
 うんうんと頷くノベル。
「それで、どう思うかなぁ?」
「二人とも良く似合っていると思うぜ?」
「うーん、そうじゃなくて……」
 頬に手を当てて思案顔のルルナ。
「この子はこんな服が似合うなぁ、とか思ったことは無いかなぁ?」
「そうだな……」
 過去の経験、性格から鑑みると、
「思ったこと、結構あるぜ」
 聡が思わない訳が無いのである。
「丁度いいわぁ」
 嬉しそうに手を叩いたルルナはノベルに視線を向けると、
「彼と一緒に試着しに行きましょうよ」
「名案だね! そうしようよ!」
 本命の逆ナンを開始。
「いや、話だけって……それに、俺は待ち合わせが」
「あら、お姉さんに恥をかかせるつもりなの?」
 物寂しそうに口をすぼめ、腕を組んで艶っぽさを強調するルルナ。聡の喉がゴクリと鳴る。
「ね、いいよね?」
「うっ……」
 腕を取り、懇願するノベル。二人に攻められ、無下に断れなくなってしまった聡。
「なんだ? 聡がいるぜ」
 そこに偶然を装ったエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が助け舟を出した。
「エヴァルト? どうしてこんなところにいるんだ?」
「俺はうちの精霊のパートナーに連れられてだな……」
 視線の先ではメニューとにらめっこしているアドルフィーネ・ウインドリィ(あどるふぃーね・ういんどりぃ)がいた。
「それで、おまえは何をしているんだ?」
 女性二人に言い寄られ葛藤していた、などと言える筈も無く、
「取材の待ち合わせ中だ」
「生徒会長になったんだったな」
 聡の意識を再確認させるエヴァルト。
「ああ。そんなわけだから、二人とも悪い。今日のところは勘弁してくれないか」
「残念ねぇ。でも、お話できて楽しかったわぁ」
「今度は一緒にいこうね!」
 無理強いはせず、あっさりと引き下がるルルナとノベル。それを見たアドルフィーネが零す。
「これは『そっけなさそうな方がやる気出る』っていう本の誰かが言っていたやつだわ」
 だが、そんなことを感じさせる前にエヴァルトは次の話を振った。
「ところでよ、最近はロボットアニメとか観てるか?」
「色々とやることがあってさ」
「観る暇もねぇのか、大変だな。まあ、最近はロボ系物が少なくなったけどな」
 エヴァルトは悲嘆に暮れる。
「そうか……たまには見てぇぜ」
「今度、録画したデータをUSBで持ってきてやるよ」
「マジか!? サンキュー!」
「色恋沙汰無縁のエヴァルトに何か刺激がと思って連れて来たけれど」
 男同士、趣味について語り合う姿は、
「いつも通りだわ」
 なんら変わらない日常。
 演出に命を懸けているアドフィーネ。そこで何かを引き起こすかと思いきや、気まぐれな性格だからか、興味をそそられなかったのか、
「適当に傍観してましょ」
 盛り上がる二人を眺めているだけに留まった。


 その様子を隅の席で観察していた真端 美夜湖(しんは・みよこ)は、【心理学】で聡の好みを割り出していた。
「ロボットアニメが好き……って、これじゃどうしようもないです」
 ハニートラップを仕掛けるために女性の好みを判別しようとしたのだが、如何せん情報が少ない。わかったのは趣味ぐらいだった。
 もう一度洗い直すも、女性の好みに関しては何も出てこない。
「もしかして、選り好みしないのでしょうか?」
 女好きなら有り得る話である。
「それなら視点を変えて、モーションの方法を直接的にするか間接的にするかを考えるべきですね」
 その問いに出てきた結果は大胆な行動よりも、時より見せる女性らしさ。男ならば誰しも惹かれる部分。
 今までも清楚可憐を装って毒牙にかけてきた。こちらの経験なら存分に積んでいる。
「まずはお話から入りましょう」
 飲みかけのジュースを持ち、標的に近づく。
(特技の【演技】と【誘惑】を使って、第一声は軽く挨拶程度で――)
 などと考えていたら、
「えっ、きゃっ!」
 葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)によって滑りやすく改造された床。ご丁寧に矢印まで書かれていて、その方向は聡に向かっている。
「どうなっているのです!?」
 仕組みなどわかるはずも無く、そのまま終着点まで自動的に到達。急激な停止に、慣性の法則が持っていたジュースを自分にぶちまける。
「大丈夫か?」
「あ、はい。何とか……」
 倒れた美夜湖に手を差し伸べる聡。
 予期せぬハプニングだったが、上手く近づくことが出来た。
(これは案外いいお膳立てです。この状況を利用しない手は無いですね)
 濡れて張り付いたブラウス。見た目からではわからない巨乳がその輪郭をさらけ出す。
「み、見ないでください!」
「わ、悪い!」
 咄嗟に両手で隠し、赤面した顔を背ける。そのいじらしさにぐっときてしまう聡。目を逸らし、頭をぽりぽり。
 桃色に染まり始めた空気。
『もう一押しだ』
 笹塚の指示で店内の客も親密な雰囲気を醸し出す。
『これで誘いやすくなったはずだ。さあ、生徒会長よ。どうする?』
 しかし、その思惑は裏目に作用してしまった。
「この空気……許し難し」
 新聞部に協力していたはずの吹雪が、悔しさのあまり憤慨しだしたのだ。
 懐に手を入れてケースを取り出す。中には小型の黒い物体の姿。
「リア充は爆発するのであります!」
 かといって、本当に爆発させてしまえば大惨事。取りだしたのは爆弾ではなく玩具の『G』。
『きゃーっ!』
 女性陣から沸き起こる悲鳴。
『うおっ!?』
 男性陣も突然の黒き刺客に驚く。
 玩具とはいえ、それらしいものがいきなり出てくると、誰しもが嫌悪感を抱く。
「ふふふ、作戦成功であります!」
 どこか誇らしげな吹雪。
「って、これ玩具じゃねぇか」
 動かないことをいぶかしんで摘み上げる聡。
「あんた、あまり人を巻き込んじゃいけないぜ?」
 さも生きているかのように吹雪に放り投げる。
「ぎゃあ!?」
 吹雪もその生物は苦手だった。