空京大学へ

天御柱学院

校長室

蒼空学園へ

夏休みの大事件

リアクション公開中!

夏休みの大事件

リアクション

   一二

 試験が終了し、佐保によって点数がつけられる中、試験官と生徒たちはそれぞれ禍根を残さないよう、交流を図っていた。
 運がいいのか――試験官にとって――悪いのか――耀助にとって――、女性試験官に当たらなかった耀助は、
「あなたとお会いできなかったのは一生の不覚ぅぅぅ!」
と、セレンやセレアナの前で泣きに泣いた。
「どうせなら試験で泣かせたかったわ」
と嘆息する恋人に、セレアナは更に大きなため息をつき、「この子、やっぱりドSね……」と呟いた。
 透玻は試験後、治療室に運ばれた。璃央は透玻に申し訳ないと頭を下げることしきりだったが、彼女は「どうということはない」と素っ気ない。だが、璃央のために頑張った、とは言えないでいた。
 レイカは脅したことを謝って回っていた。ほとんどの生徒が「試験だから」と笑ってくれたが――「あれ、何のコスプレ?」と訊く者もあった――、それに反してユノウは不満そうだ。レイカが目を離せば、誰かに襲い掛からん雰囲気だった。
 捕獲された銀澄と平太は、しゅんと落ち込んでいたが、すばるが、
「マスター、このお二人に最新作の試食をして頂いてよろしいでしょうか?」
と、持ってきた真っ黒なビスケットを見て青ざめた。
「こ、これ、もしかして焦げてます……?」
「まさか……イカスミかもしれません……」
「スバル、これは……?」
「ハイ、今回は頂いたレシピで作ったので自信作なんです!」
 アルテッツァは、ちらりと銀澄たちを見た。
「まあ……体調を崩したら、治療してくれれば……」
「いやそれ、体調崩すの大前提ですか!?」
 平太は真っ青になり、銀澄はこれも修行だと諦めた。
 そのすぐ横で、類は夜鷹に声を掛けた。
「あっ、おみゃーはあの時の!」
「ああ、悪かったな。さっきはつい……謝る」
「許してほしかったら、ワシになんか奢るぎゃ!」
「いいよ。ついでと言ったら何だが、そこの二人を解放してやってくれないかな」
 アルテッツァは苦笑した。
「そうですね……他校生のボクらが罰ゲームを行うわけにはいきませんし」
「マスター、罰ゲームとは聞き捨てなりません。今回のお菓子は間違いなく美味しいのですから!」
「ああ、御免御免。後でヨタカとボクが食べますよ。それならいいでしょう?」
「ぎゃ! アル、気が狂ったぎゃ!?」
 夜鷹は喚くが、それならばとすばるは二人を解放し、平太は類に感謝と尊敬の眼差しを向けた。
「七篠さん〜、一生感謝します〜」
「か、勘違いするなよ、お前たちが困っていたからじゃなくて、これは学校同士のだな……」
 また少し離れたところで、
「情けないですわ!」
と叱っているのは沙耶だ。由紀也は正座をして、説教を謹んで拝聴している。
「誰かのためと言ってわたくしを放ったらかしにするのは、いいでしょう。いつものことです。まあ、もう一緒に居てそれなりになりますし、わたくしを好きと言って下さったこと自体は決して疑っていませんわ。それならば、結果を出しなさい!」
 説教されながら、由紀也は「ん?」と首を傾げた。叱られているのか、告白をされているのかよく分からない。取り敢えず、説教のはずなのに、嬉しい気持ちになるのはなぜだろうと思った。
「俺のせいかね?」
と、しゃがみ込んで煙草を吸っている恭也は苦笑した。
「注目!」
 佐保の声に全員がお喋りをやめた。
「結果が出たでござる。各自、受け取って解散。今回、合格できなかった者は、夏休み後半も補習を受けるように」
「ええ〜!?」
 平太が絶望的な声を上げた。成績表を受け取るまでもなく、自分は不合格と分かっている。このまま逃げようかとも思ったが、それも出来ない気の弱さだ。
「終わった終わった」
「飯食うべー」
「俺、寝るー」
 他の生徒や他校生が帰った後、平太はきょろきょろと周囲を見回し、佐保に声を掛けた。
「あの、ベル知りませんか?」
「まだ戻ってこないでござるか? ちょっと待つでござる」
 佐保は祥子に連絡を取った。彼女は試験終了後、自身の<漁火の欠片>を届けに行ったのだ。欠片のテストには間に合わなかったが、彼女が実験した成果は、情報として登録された。
「終わったんですか、あっちも?」
「既に帰ったそうでござる」
 平太は首を傾げた。てっきりこちらに来ると思っていたが、
「もしかしたら、先にうちに帰ったのかもしれません。ありがとうございます、帰ってみます」
「うん。補習、頑張るでござるよ」
 佐保はにっこり笑って励ましてくれたが、平太は「はあ」と引き攣った笑顔を浮かべることしか出来なかった。


「ただいまー。ベル、いるの?」
 ドアを開ける前から、部屋が暗いのは分かっていた。暗闇の中、ベルナデットが座っているか寝ているのを期待した。
 だが、いなかった。
 電灯の紐が、部屋の真ん中でゆらゆら揺れている。そして静寂。
「ベル……?」
 ベルナデット・オッドは、その日を境に姿を消した。