First Previous |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
Next Last
リアクション
こたつの魔力は強かった。
しかし生存本能ほどではなかった。
湖に落ちてまでこたつに執着する者はおらず、みんな黙々と上がってくる。
すっかりぬれネズミになって凍えている彼らにベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が、お手製の熱々鍋料理をふるまった。
「たくさん作ってありますので、皆さん温まってくださいね。
それから、こんな危険なこたつを持ってきてしまってごめんなさい。私たちも知らなかったんです。今度から、ちゃんと確認して持ってくるようにしますね」
言葉は通じなくても、言葉こめられた気持ちは伝わるものだ。
地元民は素朴で純心だから、特にそういった、思いというものがダイレクトに伝わりやすい。
呪いのこたつで猫化するわ、湖にどぷんするハメになるわ、散々な目にあった地元民たちだったが、ベアトリーチェの心からの謝罪の言葉と、彼女から伝わってくる彼女の人柄、誠実さに癒されて、ほこほこと湯気をたてる椀を受け取る地元民たちはみんな笑顔になっていた。
「ポポ〜」
「ポポポ〜」
「ほらっ、あんたも謝るのよ! タケシ!」
リーレンがタケシの頭を押さえ込み、ぐいぐい下に押しつける。
「いてっ!! わあってるよ! ちゃんと謝るって! だから殴るなよ!! なんか、腹とか背中とかあちこち痛いんだからっ」
その会話を聞いて、なんとなく理由が察せられたものの、ベアトリーチェは笑顔を崩さず鍋をよそい続けた。
「あーおいし〜。あったまるわねえ〜。運動したあとの鍋ってサイコー」
ほくほく顔のリーラに、真司がひと言釘を刺す。
「言っとくが、ミント汁の費用は全部おまえ持ちだからな。かかった代金分、今日から酒抜きだ」
「ええ〜?」
はぐはぐしていた箸を止め、いやそうに真司を見る。
いかにも絶望的な表情だったが、真司が考えを変える様子は全くなかった。
「どうしたの?」
それまでどんぶりにかぶりつく勢いで食べていた手を止め、じーーっと湖の中央辺りに開いたままの穴を見ている要に気付いた悠美香が声をかける。
「んー? あのこたつ、1台ほしかったなーって思って」
残念ながらこたつは破壊できない・呪いも解けないということで、落ちずに残ったこたつも全部湖の底へ沈めてしまうことが多数決で決まった。
「あの湖はかなり深いそうだし、こたつは重くて持ち上げられないから、これでもう安全ね。
でも、どうしてあんな呪いグッズがほしかったの?」
「ネコミミ悠美香ちゃんがこたつでぐったりとか、にゃんにゃんしゃべりとか、ちょっといいかもしれないなーと思って。でも他人には見せたくないから、家でこっそり堪能――って、はっ!」
「このむっつりスケベ!!」
シパーーンと巨大ハリセンが要の後頭部にヒットした。
「いってえーーーーーっ!!」
自業自得。
そして鼻血を吹いて気絶した朝斗はというと。
「朝斗、目が覚めましたか?」
アイビスのひざまくらで目を覚ました。
「アイビス……正気に返ったの? ルシェンは?」
「ルシェンはとなりで寝ています」
「あ、ほんとだ」
すぐ横で仰向けになっているルシェンを見て、ほっとする。
しかしなぜかちびあさが、ルシェンを見下ろしながらぶるぶる震えていた。顔色も、なんだか青ざめているような…?
「ちびあさ?」
「ねえ、朝斗。何を覚えていますか?」
「え? 覚えて……って、最後に見たものってこと? えーと……ルシェンとアイビスがこたつでにゃん――」
がしっとアイビスの手が朝斗の顔面をわし掴んだ。それ以上言わせまいとするように、指に力を込める。
「い゛た゛っ! い゛た゛い゛よ゛ア゛イ゛ヒ゛ス゛っ!」
どうしちゃったの!?
「やっぱりまだ覚えていたんですね。ルシェンのように1度では消えてくれなくなりましたか。
ではもう1度」
必殺! 記憶消去(物理)!
「い゛た゛た゛た゛た゛た゛た゛た゛た゛た゛た゛た゛た゛っ」
朝斗が悲鳴を上げようがおかまいなしに、アイビスはギリギリ指の力を強めていく。
その目がふと、彼女を見上げるちびあさへと向いた。
「ちびあさ? あなた、切さんと一緒にいたけど、何か見えた?」
「……に、にゃ……にゃ…(ううん! 何も! 僕、何も見てないよ!)」
「そう。運が良かったわね」
にっこり笑うアイビスの傍らでぶるぶる震えながら、ちびあさは絶対生涯何があっても決して口に出すまいと、固く決意したのだった。
First Previous |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
Next Last