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【第五話】森の中の防衛戦

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【第五話】森の中の防衛戦

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 迅竜 艦長室
 
「なるほど。事情は了解しました」
 迅竜の艦長室。
 そこで執務を前に座るルカルカは、対面している相手――リカインを前に頷いた。
 正確に言えば、彼女の頭に乗っている相手――傍目には金髪のウィッグにしか見えないシーサイド ムーン(しーさいど・むーん)に対してだが。
 
 戦闘の後、迅竜へと着艦したリカイン等四人。
 だが、漆黒のハイエンド機を一機撃墜したにも関わらず、彼女達は歓待……というわけにはいかなかった。
 
 特に唯斗や垂は心中穏やかではいられないだろう。
 それを察したルカルカは、出頭要請という形で着艦と同時にリカイン等四人を艦長室に召喚したのだ。
 
 唯斗達の気持もわからないではない。
 なにせ、ルカルカと彼等はエッシェンバッハ派の事件よりも前から一緒に戦ってきた仲なのだ。
 そして現在は迅竜という同じ艦に乗っている仲でもある。
 
 しかしその一方で、リカイン達の行動も言い分も間違っていないのだ。
 艦長であり、教導団の軍人である者という立場としては、ルカルカが彼女達の行動を批判できるものでもない。
 それがこの問題をややこしくしていた。
 
 平静を装っていても、頭を抱えたい思いに駆られているルカルカ。
 そんな彼女を察してか、シーサイドが彼女へとテレパシーを送る。
 
『艦長さん、私から提案があるのですが』
 それに対し、ルカルカは肉声で答える。
「提案、ですか?」
 相変わらずシーサイドの発話はテレパシーだ。
『ええ。私達四人を迅竜クルーとして乗艦させて頂きたいのです』
「あなた達を……?」
『はい。今も開き直っているリカインもそうですが、他の面々……特にシルフィスティは必ず同じことをするでしょうから、迅竜クルーとして監視下に置いておいた方がいいと思われます。少なくともリカインはオペレーターを経験済みですし残り二人も迅竜の護衛くらいなら務まるでしょうから。それに実を言えば、先程やらかした無茶のせいで負傷したシルフィスティとそれに付き添っている明日風をしばらく設備の整ったこちらに収容して頂きたいというのもありますし」
 
 僅かに俯き、しばらく考え込むルカルカ。
 ややあって彼女は顔を上げた。
 
「了解しました。部屋を用意しましょう――現時刻をもってあなた方四名を、迅竜クルーとして迎えます」
『受け入れ感謝します。リカインには私の方から上手く言っておきますので』
 
 その念話がルカルカの脳裏に届いた後、しばしの沈黙が訪れる。
 しばらく棒立ちするリカイン。
 彼女の表情は僅かに動いており、どうやら脳内でシーサイドとの会話が繰り広げられているようだ。
 どうやらシーサイドが上手いこと言いくるめたらしく、リカインに不審がっている様子はない。
 ややあって納得したのか、リカインはルカルカへと向き直る。
 
「リカイン・フェルマータ以下三名。よろしくお願いするわ」
 それだけ言うと、一礼して去っていくリカイン。
 なんとかこの件は落着したようだ。
 
「ふぅ……」
 リカインが退室してしばらく経った後、誰もいないのを確認して溜息を吐くルカルカ。
 ひとまず息を吐き終えると、ルカルカは次の案件に考えを巡らせる。
 
 今の所、すべての戦闘で敵を退けられている迅竜。
 戦績としては十分に良好だと言ってよいかもしれない。
 けれど、未だ問題は幾つか残っているのだ。
 執務卓の上に置かれた書類を手に取り、ルカルカは内容をチェックしていく。
 
 書類の中には早速上がってきた先程の戦いの報告書もある。
 それに目を通しながら、ルカルカはふと呟いた。
 
「敵も部隊を分けて、より組織だった戦い方をしてくるようになってる。ならこちらもより組織だった戦い方をしないと――」
 
 しばらく書類仕事をした頃だろうか。
 ルカルカは立ち上がった。
(取りあえず食事を摂ろうかしら……)
 
 戦闘を無事終えたおかげで、現在における迅竜の非常時態勢は解除されている。
 食事を摂るなら今のうちだろう。
 逆に言えば、摂れるうちに摂っておくに越したことはないのだ。
 
(そういえば……調理設備があるんだった……)
 ふと思い出したようにルカルカは胸中に呟く。
 
 迅竜には立派な食堂と調理設備がある。
 しかし、始動から現在に至るまで給仕担当のクルーが乗艦していなかったせいで、食堂はともかく調理設備は殆ど使用されていないのだった。
 食事はもっぱら軍用の食品――いわゆるレーションだけだ。
 レーションが続くようなことにも慣れてはいたし、それ自体も嫌いではない。
 ただ、せっかく優秀な調理設備があるのだ。
 それに、自分は大丈夫でも他のクルーはどうかわからない。
 ここまで考え、ルカルカはふと思い立った。
(積極的に給仕担当クルーの人員を募るべきかしらね……)
 そう考えながら、ルカルカは艦長室のドアノブに手をかけたのだった。