リアクション
数日後 中東某所
「な……」
ただ彼は絶句するしかなかった。
中東のとある小国。
内紛地帯として知られるそこで彼は幾多の修羅場をくぐり抜けてきた。
どんな戦場も、そしてどんな事態も経験してきたつもりだった。
しかし、今。
彼すらも経験したことのない事態が、間違いなく眼前で起こっている。
否、起こっていた。
そういうべきだろうか。
既に事態は決しているのだから。
「ご覧いただけましたか?」
唖然とする彼に、まるでインテリ貴族のような見た目をした男――スミスは問いかける。
兵たちを率い、内紛を戦っていた彼のもとにこのスミスという男が現れた少し前。
鏖殺寺院の一派と名乗ったスミスを、指導者たる彼はさほど珍しがらなかった。
かつてより地球上ではテロリストとして活動する鏖殺寺院の一派は幾つも存在した。
彼もまたそうした中の一つから来たものだと思っていたし。
それに、この辺りで紛争に携わっていれば、鏖殺寺院との関わりがまったくないということもない。
現に、敵側は鏖殺寺院との関わりで手に入れたイコンを数多く投入してきた。
投入したイコン部隊で指導者である彼とその仲間、そして彼等の家族を鏖殺しにかかったのだから。
そんな時、現れたのがこのスミスという男だ。
彼が指導者として内紛を戦ってきた中で、鏖殺寺院の別の一派と関わったことがある。
それを聞き付け、このスミスという男は武器弾薬を買い付けにきたと言った。
そして彼は信頼の証と武器弾薬の代金として、数多くのイコンからなる部隊を驚くべきほどの短時間で迎撃し、殲滅してみせたのだ。
「どうぞお気になさらず。これはほんのデモンストレーション。別に貴方がたを脅迫するわけででも、更に多くを要求するわけでもありません」
丁寧に一礼をすると、彼は踵を返して去っていく。
その先には彼を護衛するように屹立する、濃緑色のイコン――“ヴルカーン”が一機あるだけだった。
【第五話】森の中の防衛戦 完
To be continued.