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リアクション
「たまにはいいものだな」
妙に感情の籠った台詞はいつもの激務からの解放か、役柄ゆえなのか。
金 鋭峰(じん・るいふぉん)は活気ある街をぶらぶらと歩いていた。手には安っぽい手毬を持って。
「金団ちょ……殿。程々にお願いします。店主の顔が青ざめておりました」
忠言を与えたのはルカルカ・ルー(るかるか・るー)。
二人は的矢を行い、その結果が、
「何、これだけに抑えたのだ。問題なかろう」
この手毬。
本当は店が傾いても仕方ない状況までいったのだが、店主の思いを知ってか知らずか、それだけを持って立ち去った二人。
「机上業務ばかりが続いていたのでな。動かしてやらねば鈍る一方だ」
「見事な腕前でございました」
賛辞を送りつつ、一歩引いた位置で付き従うルカルカ。
それは絵に描いたような主従の関係。
金は後ろへ声を掛ける。
「ところでルカ君、聞いたかね」
「街で起きている事件のことでしょうか?」
意を汲み取り答えを返す。
「捜索は続いているそうですが、まだ尻尾は掴めていないそうです」
「そうか……」
身を忍び、気晴らしに来ていても、やはり情勢が気にかかる。むしろ、気晴らしという名の見回りとなっているのではなかろうか。
「街の警戒はできているようだな」
「はい。事件の日より、瓦版で事を知らせました。犯人も目立った行動は慎むでしょう」
「よい判断だ。申し分ない」
「恐縮です」
順調に演技している二人。
だが、それはここまでだった。
デデンデンデデン、デデンデンデデン♪
突如発生した効果音。
デデンデンデデン、デデンデンデデン♪
「この音は何だ?」
「さあ……」
訝しげに辺りを見回す。
そこに稲妻が落下。
「何が起きた!?」
「土煙で見えません!」
視界が晴れた先に佇んでいた者は、場に不釣り合いな格好をした桐生 円(きりゅう・まどか)。そして、
ペペンペンペペン、ペペンペンペペン♪
「今度は何だ!?」
「効果音が可愛くなりました!」
その上から現れるDSペンギン。
「あいたー、もう、現れる場所はちゃんと考えてよ」
円は上に乗っかる一匹をペシッと叩いた。
「何やら面妖な奴」
「殿、危険です。お下がりください」
主を庇う騎士のごとく前へ出る。
「そこの者、名を名乗れ!」
「ボク? ボクは桐生円。未来から未来を救うためにやってきたんだよ。それと、これはサイボーグペンギン。ボクの手助けをしてくれるんだ」
鳴き声を上げるDSペンギン。
「ボクは自分の先祖を探さなきゃいけないんだよ。未来のために」
「……昔見たSFに似ているな」
「多分、そのつもりかと」
二人はもう、演技どころではなくなっていた。
「そのために障害は排除しないと……って、言ってるそばから現れたな、コウテイDSペンギン!」
対面より歩いてくる人間大のペンギン。しかし、当のコウテイDSペンギンは呼び出されただけで現状を理解できていなかった。右に左にと首をめぐらし、戸惑っている様子。
「お前にボクの母さん役を殺させはしないよ! そういう設定だ!」
それで得心したコウテイはポンッと手?を叩く。
「……今のは言っていいものだろうか?」
「……ダメだと思います」
もう彼らには手に負えない。
コウテイは近くにある箱車を目標に定める。中にはメビウス・クグサクスクルス(めびうす・くぐさくすくるす)が乗っていた。
「その子がボクの先祖だね!」
メビウスは箱車を引くセリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)に尋ねた。
「そうなの?」
「……姫君なのだが……そういうことにしておこう」
「それじゃ、このペンギンさんは悪役だね」
ならばと、箱車に備え付けられたスイッチを一つ押す。すると前面の板が外れ、中から鉄で出来た細長い円筒が。
「……メビウス、それは――」
「発射っ!」
機関銃が火を噴いた。
「……時代設定が滅茶苦茶だ」
「未来から来てるって言ってるんだもん。今更だよ」
「……それもそうか」
納得して爆煙が晴れるのを待つ。
そこには無傷のままのコウテイ。
「あれれ? 倒れないよ?」
「奴は戦車の大砲でも倒れないんだよ。何てったってサイボーグだからね」
以前より強化され、生半可な兵器など通用しない。そういう設定なんだと円は言う。
実際のところ、強化などはされていないし、する暇もなかった。元から重火器の類は効かないのである。それは、いつぞやの物語で語られている。
「……それでも」
セリスが刀と脇差しを抜き放ち跳躍。
背中に付けられたワイヤーが彼の軌道を複雑なものにし、高速で空を駆け、
「イェェェェェェガァァァァァァーーーーー!」
首裏の付け根を正確に狙い、刃は違うことなくコウテイを捉えた。
「……どうだ?」
着地し振り返るセリス。果たしてコウテイは、
「倒れろ、倒れるんだ、倒れなさい!」
円の命令のもと、ズシンと音を立てて倒れた。
「これで未来の平和は守られたよ。それじゃ、ボクはこの辺で!」
颯爽と去っていく円。
「……これで、いいのか?」
「たぶん問題ない、かな」
呟くセリスとメビウス。
「……巡回を続けるか」
「……そうしましょう」
何事もなかったかのように歩き出す金とルカルカ。
一同の頭には疑問が残っていた。
(サイボーグペンギンは何をサポートしていたのだろう?)
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