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その場しのぎのムービーアクター!

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「いらっしゃいませ」
 衣装を素朴な物に着替え、茶屋の娘として働くアイシャ。
「様になってるね」
「はい、お城では出来ないことができて新鮮です」
 教育係としてリア・レオニス(りあ・れおにす)が付いているのだが、教えることは何もなかった。
「いや、ホント助かるよ。急に人手が減ったんで忙しくてね」
「でも、足手まといじゃないですか? こうして働くのは初めてのことなので……」
「本当かい? とても初めてには見えないよ」
 事実、クラスがメイドなのだから当たり前なのだが、これも演技である。
「それに、か、かわいい、し……うちの看板になれるんじゃないかな? いや、寧ろなって欲しいな。そうすればもっと一緒に――」
「やっほー、遊びに来たよ!」
「あ、新しいお客さんです。いらっしゃいませ」
 多少の本音を台詞に混ぜてみたら、新客の登場で話が逸れる。
 入店してきたのは浴衣姿の小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)。近くに居た高原 瀬蓮(たかはら・せれん)が対応に出る。
「美羽ちゃん、いらっしゃい!」
「みたらし団子とお茶をお願いね」
「いつものだね」顔なじみの来客に、砕けて応対する瀬蓮。「今日はちゃんとつけを払ってくれるよね?」
「大丈夫大丈夫! 気にしない気にしない」
「そうだわ、硬いこと言わないでよ」
 高根沢 理子(たかねざわ・りこ)も続いて入店。
「ここでお茶とみたらし団子を食べるのが、最高の至福なのよ?」
「そうだよね、おいしい団子とお茶、食べてるだけで幸せだもん」
「それを取り上げられちゃうと、あたしたち生きていけないわ」
「そうだそうだ」
 あっけらかんと言い放つ二人。
「もう……でも、いつまでも遊び人やってないで、手に職を付けてよね?」
「さすが瀬蓮ちゃん、話がわかる!」
 お世辞に折れた瀬蓮。
「それじゃ、いつもの席で待ってるわ……あら? 新しい人?」
「人手が足りなくてね。手伝って貰ってるんだ」
「んー、どこかで見たことあるわね……」
 アイシャに近づいた理子はその顔を嘗め回すように見る。
「え、えっと……」
「ちょ、ちょっとちょっと! 困るよ!」
 間に割って入るリア。
「別に見てても減るものじゃないと思うわよ?」
「それはそうだけど、仕事の妨げになる」
「えー、可愛いし、ちょっとみるくらいいいじゃん?」
「確かにかわいいけど――」
「まあ、ありがとうございます」
「って、聞いてたの!?」
 顔を赤くするリアを、にやにやと見つめる美羽と理子。
「これは、違うんだ、その、あの……」
「違うって、可愛くないってことですか?」
「そうじゃなくて……ああ、もうっ!」
 言葉にならず、叫び声をあげる。
 それと同時、違う叫び声もあがった。
「きゃあ!」
「ん、どうした?」
「この声は瀬蓮ちゃん?」
 声のした方を振り返った美羽と理子の視線の先。
 床に落ちているお盆。しかし、それを持っていたはずの瀬蓮の姿はどこにもない。
「これはもしかして」
「噂の人さらい?」
 顔を見合わせる二人。
「アイシャは無事か?」
「私は大丈夫です」
「良かった」
 安堵するリア。だが、美羽と理子は違う。
「瀬蓮ちゃんをさらうなんて、いい度胸してるよね!」
「あたしの前で犯した罪、きっちり償ってもらうわよ!」
 怒気を纏わせ、一目散に駆け出して行く。
 噂は噂でなくなっていた。