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 悪ある場所に金は集まり、金ある場所に人は集まる。
「あくどい奴らは、どうしてこうも大きな屋敷に住むのじゃ」
 街有数の越後屋屋敷。
 その一室に押し込められたミアは、そう呟いていた。
「さっきから何ぶつぶつ言ってるの?」
「金はあるところにはあるものだと言っておっただけじゃ」
「天下の廻りものって言うからね」
 廻って行き着く先が悪徳商人の場所とは、世の中はどれだけ不条理なのか。
「でも、私たちどうしましょう?」
「逃げるわけにもいかないもんね……」
 私たち。
 ここにはミア、レキ、アルテミス、そして瀬蓮の四人がいた。
 拘束されているわけではないが、部屋の外には見張りがいる。
 それは最後に連れてこられた瀬蓮が目撃したので間違いない。
 つまりは軟禁状態なのだ。
「……暇ですね」
「……言っちゃいかんのじゃ」
「……こういう役だもん」
 ぼーっと助けを待つ三人だが、レキだけは違った。
「お金持ちの屋敷で女の子が着物……うふふ、こういう時、やることは一つだよ!」
 嫌な予感しかしない。
 レキは手始めにアルテミスの背後に回ると、
「お代官様、じゃないけど……お戯れを!」
「よいではないかー、よいではないかー!」
「あーーーれーーー!!!」
 腰帯を持ち、クルクルと脱がしていく。
「やはり世に言う『お代官様お戯れを、よいではないか、あーれー!』じゃな!」
「す、すごい名前だね……」
 正式名称など知りませぬ。多分、『お代官様ごっこ』でしょうか。
「ふふふ、次はキミだよ!」
「えっ!? あ……あーーーれーーー!!!」
 レキの毒牙にかかる瀬蓮。
 そして――
「ふう、楽しかった!」
 満足して息を吐く。
「なぜわらわだけ! 胸か! 胸の差かっ!?」
 こちらは不満で噛みつく。
 やはり世の中は不条理だ。
「う、討ち入りだ!」
 ミアの嘆きが誘ったのか、事態は更なる展開へと進む。
 襖から覗いた先。
「ふん、討ち入りとは心外だな」
「これじゃまるでルカたちが悪者みたいよね」
 庭に現れた金とルカ。見張りが真っ先に突撃。
「このっ!」
「ふん、他愛ない」
 振り下ろされた刀をすり足だけで避け、体制が崩れた所へ切りかかる。
 倒れた相手を見下ろす金。
「一人だけと思うなよ!」
 もう一人の見張りがその背後から襲い掛かる。しかし、
「そっちも、一人と思わないでよね」
 金の背中に立ち、振り上げた事で隙ができた腹部を一閃するルカ。
「何事だ! であえであえー!」
「腕が立つぞ! 気を付けろ!」
「相手は二人だ! 囲め!」
 ぞろぞろと出てくるエキストラ。
「雑魚がいくら出てこようとも」
「ルカたちの敵じゃないもんね」
「だが、どれだけ強くとも物量に屈してしまうこともあるのじゃ」
「誰!?」
「君は――」
「控えぃ! 控え控えぃ! この目ン玉が目に入らぬかぁ!」
 屋敷に響く大音声。
「こちらにおわす御方をどなたと心得る! 畏れ多くも我が国の姫君が一人、目玉のパッフェル様におわすぞ! 一同頭が高い、控え控えぃ!」
「ぬ〜〜〜り〜〜〜か〜〜〜べ〜〜〜!」
 アキラの口上。印籠? そんなものいりません。目玉があれば大丈夫。
「姫……だと?」
「どうしてそんな方が……」
「とにかく、このままじゃいられねぇ」
 お約束通り、一度平伏するエキストラ。その中で立ったままの金は問いかける。
「姫君、何用でこのような危険な場所へ?」
「ふぉっふぉっふぉっ、ただの好奇心じゃ」
「それだけで来られると、もしもの時に困るよね?」
「俺も止めたんだぜ? でも聞かないんだ」
「ぬーりーかーべー……」
 ルカの指摘に、やれやれと肩をすくめるアキラとお父さん。
「覆水盆に返らずなのじゃ」
「威張って言わないでよ。まあ、このまま事件解決してくれればいいんだけどね」
 当たり前だが、そんなわけにはいかない。
「てめぇら、何ひれ伏してやがんだ!」
 怒声を放ち現れた用心棒巽。
「せ、先生」
「こんなとこに姫なんぞが来るわけねぇだろ!」
「た、確かに」
「さっさと殺っちまうぞ!」
 立ち上がり、刀を構え直す悪役。
「少しは骨のある奴が出てきたな」
「殿、お気を付けを」
「そうだな、少々本気で行かせてもらうか」
 金は着物の襟から右腕を引き抜く。
「数ある花のその中で、大江戸八百八町に紛れもない、背中に咲かせた夜桜を、散らせるものなら散らしてみるのだ」
 肩には立派な桜吹雪。
 そしてこちらも、
「スケベさん、シカクさん! 懲らしめてやるのじゃ!」
「穏便にいきたかったけど、しょうがない。やりますか」
「ぬーりーかーべー」
 戦闘態勢に突入。
「おいおい、オレを忘れてもらっちゃ困るぜ」
 そう言って現れたのは、既に右肩の桜吹雪を晒し、肩に刀を担いだキロスだった。更に、
「あたしも混ぜてよ」
 理子も出現。
「なんじゃ、おぬしも来たのか」
「こちらは?」
「まあ、私と同じ姫じゃ。じゃじゃ馬じゃがの」
「パッフェルに言われたくないわね」
「私も忘れないでよね!」
 同じく登場した美羽は疑問を投げかける。
「ちょっと気になったんだけど、そこの二人って兄弟かな?」
 指されたのは金とキロス。
 一方は厳格な指導者然とした者。
 もう一方は騎士道など糞食らえな者。
 正反対な二人。
 一度顔を見合わせると互いにそっぽを向き。
『……そうだ』
 その様はまさに反りの合わない兄弟みたいだった。
「てめぇら、さっきからごちゃごちゃと――」
 痺れを切らし始めた用心棒。
「巽」
「今度は誰だってんだ!?」
「こいつが巽だ」
「師範、ここまでの付き添い、すまんのじゃ」
「なっ!? 優と……」
「やはり兄者か」
 優に守られた安徳は巽に言い放つ。
「妾は無事じゃ。兄者が悪に手を貸す謂れはなかろう。目を覚ますのじゃ」
「…………」
 あまりの展開に閉口する巽。
「巽、俺は信じている。お前が悪ではないと。それは零も刹那も同じだ」
「へ、へへ……」
 優の台詞に漏れてきたのは言葉ともつかない笑いだった。
「関係ねぇ、俺は根っからの人斬りだ。だったら取る選択肢は一つだろ」
 構えた刃を体ごと百八十度回転。
「せ、先生!?」
「う、裏切るのか!?」
「元々こいつを助けるために雇われた身だ、今更未練もねぇ。それに――」歯を剥き出しにして笑う。「こっちの方が人を沢山斬れるだろ?」
「おのれ……こいつもまとめて殺っちまえ!」
「お前らはさっさとここを去れ。優……師範、頼んだ」
「……わかった」
 何かを察した優は安徳と共に退場。
「感謝しな! 苦しまずにバッサリやってやるからよ!」
「これはあれだな」
「死亡フラグだね」
 巽の台詞に感想を漏らすキロスとアキラ。
「君たちボヤボヤしている暇はない。来るぞ」
「けっ、仕切るなってんだ」
「キロス、殿への無礼――」
「それよりも前の敵じゃ」
「ようし、一暴れしてやるわ」
 その後はもう一方的だった。
「運動相手に丁度いい」
 迫る敵を薙ぎ払う金。
「背中はお任せください」
 死角を守るルカ。
「男なんて居るだけ無駄だ」
 願望を糧に暴れるキロス。
「女だからって、甘く見ないでよ」
 女性らしからぬ剣技を披露する理子。
「やっぱりこうなるのね」
 諦めつつも斬り伏せていくアキラ。
「今じゃシカクさん!」
 パッフェルに近づく輩を、「ぬ〜〜〜り〜〜〜か〜〜〜べ〜〜〜」と押しつぶすお父さん。
 最後はもちろん、
「へへ、人斬りが人に斬られて終わるとは……ざまぁ……ねぇや」
 ガクッと息絶えた巽。
『フラグ回収乙』
 全員の台詞が一致した。
 残すは屋敷内。