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「事件は終わってなかったみたいね」
 悪代官が捕まったのは昨日。そこから事情を聴きだし、人さらいに関しては決着したが、まだ殺人の件は終わっていなかった。
 それ故に、奥山 沙夢(おくやま・さゆめ)雲入 弥狐(くもいり・みこ)は上からの指示で真相を探っていた。
「黒装束に刀を持った奴が怪しいんだって」
「それだと誰もが怪しくなるわね」
 顔もわからず、そんな「私が犯人です!」といった恰好で出歩いているはずもない。
 捜査は混迷を極める。
「にしても、あのお姫様と戦おうとしたんだって。無茶だよね」
 頭の後ろで手を組み喋る弥孤。
「じゃじゃ馬姫なんて有名じゃん。どうやったって、敵いっこないもん」
「忠誠を誓う主を、そんな風に言うんじゃないわ」
 たしなめる沙夢。
「そういえば、犯人が持っていた刀だけど、黒光りしていたみたいよ」
「へぇ、珍しいね。あたしの妖刀とどっちが強いのかな」
 剣客の性か、腰に下げた【妖刀村雨丸】を構え、
「鉢合わせたら戦ってみたいな」
 強い相手と手合せしてみたくなる弥孤。興味を示し、辺りをキョロキョロしていると見つけてしまった。
「ねぇ、黒光りってあんな感じかな?」
 一見すると鞘に見える刀身。しかし、光が当たると刃文が見て取れる。
「まさか抜き身で持ち歩いてるなんてね」
「よし早速――」
「待って。私たちは情報収集担当。無理な戦闘は控えて」
「ええー」
 不満気に声を上げる。
「しっ、相手に気付かれるわ。ここは役目を果たすべきよ」
「しょうがないなぁ……」
 二人は尾行を開始した。
 刀を持ち歩いているのは身なりの良い人物。男か、女か、判然としない。というのも、刀を視認した時から気づかれないよう距離を取ったためである。顔を見れなかったのは少し痛手だ。
 そして、ようやく建物の中に入っていった。そこは、
「ここって、あれだよね」
「ええ、捕まった悪代官が住んでいたところよ」
「場所もわかったことだし、突入――」
「だから待ちなさい」
 襟首を掴んで止める。
「まずは報告が先よ。ここで私たちがやられたら、折角掴んだ情報も無駄になるわ」
「むむむ……」葛藤する弥孤。「わかったよ……でも、名前くらいは付けていいよね?」
「名前? 何につけるの?」
「あの刀だよ」
 黒光りする、世にも珍しい刀。それを命名しようと言う。確かに、名前があった方が何かと都合がいいだろう。
「それくらいなら大丈夫だと思うわ」
 了承する沙夢。弥孤は少しだけ考えると、
「決めた! あの刀はこれから妖刀『黒刀』だよ!」
 どこか甘そうだった。