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リアクション
間幕
「休憩に入ります!」
スタッフの掛け声で、場の緊張が一旦和らいだ。
出番の終わった面々が「楽しかった!」「緊張した!」「これで有名人だぜ!」などと騒ぎ始める。
「千鶴、お疲れ様です」
テレジア・ユスティナ・ベルクホーフェン(てれじあゆすてぃな・べるくほーふぇん)はパートナーの千鶴に駆け寄り、労いの言葉を掛ける。
「どうなるかハラハラしました」
「私なら大丈夫よ」
殺陣をしていたにも関わらず、疲れた様子を見せない千鶴。
「かっこよかったです! 今度は私も出てみたいです!」
「次の機会にね」
笑顔で語り合う二人。
その後方は出番を控えた出演者たちの待機場所となっていた。
「もうすぐ出番か」
長曽禰 広明(ながそね・ひろあき)はゆっくり腰を上げる。
「しかし、いいのかこれは?」
話は中盤、なはずなのに、時代劇のメインと言われるシーンは終わってしまった感が否めない。
「……シーン撮りってやつだな。そうだ、そうに違いない」
「あ、広明さん」
「ん、ああ、九条か」
「どうしたんですか? もしかして緊張してますか?」
九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)は独り言にふけっていた広明に尋ねた。
「いや、別に緊張とかじゃなくて――」
「任せてください! 私がキッチリ演技指導してあげます!」
「……はい?」
「こう見えて、私映画大好きなんです。それに演技や演出には自身があるんです!」
「いや、オレなんてただのちょい役だから、そんな気を使ってもらわなくてもいいぜ?」
台詞もないただの村人に、そこまでやられても困ると広明。
「そ、そうですか……」一度は肩を落とした九条だが、「それなら、空いてる時間も多いんですよね?」
「まあな」
「でしたら、一緒に裏方を見学しませんか?」一世一代のお誘い。だが、急に恥ずかしくなったのか、慌てて矢継ぎ早に喋ると両手を胸の前で振る。
「あの、ほら、広明さんは技術科の方ですし、そういうのに興味あるんじゃないかなって」
そこまで喋ると落ち着いたのか、訥々と語りだす。
「役者さんには役者さんの喜びがありますけど、裏方にも裏方の醍醐味や喜び、楽しみがあると思うんです。広明さんがパワードスーツを作る事に誇りを持っているように、映画を作る人たちも同じなんだと思うんです」
本当に映画が好きなのだろう。
「だから、その……見て回りませんか?」
「ん……まあ、このまま帰るのもなんだし、別にいいぜ?」
「本当ですか! ありがとうございます!」
「そこまで感謝されることでもないだろ」
「いえ、やっぱり、ありがとうございます!」
そして彼の事も、映画と同じくらいに――。
「それじゃ、出番が終わるまでレッスンしてあげますね!」
「だからそれは大丈夫たと思うんだがな……」
舞い上がる九条に苦笑するしかない広明だった。
「……監督、ごめんなさい」
泪は開口一番、謝罪を口にした。
「前半でほとんど終わってしまいました」
多少なりとも予想していたが、ここまでとは思っていなかった。
やはり脚本のない映画は無理なのか。
しかし、クロワサ監督の目は死んでいない。
「まだ半分だろ?」
「来ていただいたキャストはそうですね」
プロデューサーが報告する。
「でも、話の修正ができるかどうか……」
「このでこすけ!」
監督の恫喝が響く。
「お前がそんなんでどうする! まだ終わってないだろうが! 残り半分を撮るぞ!」
「は、はいっ!」
慌てて役者の準備を急がせる。
「えっと……」
「卜部さんと言ったか」
「はい」
「もともと役者は自由なものだ。私はその舵を取るだけ。時には厳しいことも言う。それは、その役者の演技が映画を壊す時だ」
「…………」
「役者が役に感情移入していなければ、見ている人間が感情移入するわけがない。しかし、彼らは自然だ」
雑談を交わす出演が終わった者たち。
「見る人間を喜ばせる、怒らせる、悲しませる、楽しませる。これ以上の役者はいない」
出番を控える役者たち。
「言ったはずだ。最後にまとめるのが私の仕事だと。まだ半分ある。あなたは心配も謝ることもしなくていい」
監督はそれっきりカメラにかぶりつく。
「……わかりました」
「キャスト、準備終わりました!」
プロデューサーの声が響く。
「それじゃ後半スタートします! 3、2、……アクション!」
泪のカチンコが音を鳴らす。
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