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【劇場】

――海上都市ポセイドン

 その劇場、


 源 鉄心(みなもと・てっしん)新風 燕馬(にいかぜ・えんま)が不気味なオブジェクト眺めていた。
 おそらくは特殊戦略兵器スティレットの力だろうその爪痕に息を呑むところだが、あまりにも馬鹿馬鹿しい鉄骨の塊にどうもこれが兵器の爪痕とは思えなかった。これはまるで大きな子どもの稚遊。巨人の子どもに土を丸めてみせたら同じものができるだろうか。
 それよりも壁と床に刺さった客席に眼をやるべきか。劇場の中が台風の目が修験した後のようだ。勿論そんなことはない。何らかの力が振るわれた証拠だ。
 オブジェが結果とすれば、客席の状況が語るのはなんだろうか?
「気付いたか?」
 燕馬が訊く。
「ああそうだな」
 鉄心が頷く。
「ステージには椅子が刺さっていない」
 劇場中に破片が散らばる中、ステージは花開いてというのにそこに破片の刺はない。明らかにそこに誰かがいた証拠だ。
 だが、客席の語ることはそれだけではない。
「あそこの窓席もだ」
 燕馬が指差す。天蓋縁の一番高い席。ガラスで防護された部屋の1つだけが無傷で残っていた。他の天蓋席の窓は全て割られているのに。
 二人はその部屋へと向かった。そこは、舞台の照明や音響を調節する演出室だった。唯一壊されていない場所が語るのはやはりそこに誰かがいたということ。
 至高の行き着く結論は、ここで誰かが演出を行い、ステージには出演したアーティストがいたということ。
 観客が誰もいないステージで公演をする意味とはなんなのか?
 依頼主の言葉では「足止め」だと。だとすれば、ここに調べに来たことは無意味なことなのだろうか。いや、むしろここを荒らす事により逃亡者はヒントを残しているようにも見える。
 一般大衆の目に止まらない場所で、軍部だけが航空写真にて確認できる被害を出し、兵器の威力を見せつける。これを作為的と言わずにおけるだろうか。
「ここなら劇場の熱(過去)にうなされることはないだろう。イコナ。ここでもう一度《サイコメトリー》だ」
 鉄心に命じられ、イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)は気だるく従った。
「さっきので疲れたからこれっきりですわ……」
 機能していないパネルに乗り上げ、窓を触り、この窓が最後に見た光景をフィードバックさせる。
 窓が見た光景は、客席が舞い、荒れ狂う不可視の力の嵐の中を舞台の中心に立ち、悪趣味な卵を鋼材でこねくり回す子どもの姿。
 そして、その光景を眺める逃亡者の不安げな顔が移った反射像だった。