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リアクション
「なってことだい。変なプレゼントが配られ終えているよ」
マイキー・ウォーリー(まいきー・うぉーりー)はムーンウォークで他人宅へと忍び込み、アワビを配り続けていました。
各家庭を訪問すると、すでにサンタによってプレゼントが配られた後でした。
「皆々、クリスマスプレゼントにはアワビを貰った方が一番嬉しいに決まっている。先に配られたプレゼントは不平等をなくすため焼却処分しておこう。それが愛だ」
一緒に活動していたマネキ・ング(まねき・んぐ)は、置いてあったプレゼントを回収しまくっていました。後でまとめて処分するのです。
「プレゼントはアワビが一番」
そんな彼らは、ある一軒の家を見つけました。
いかにもアワビの欲しそうな雰囲気です。大奮発してやりましょう。
アワビ団は、大量のアワビを持って、満を持してその家へと入っていきました。
そして無事に出てくることはなかったといいます。その家は、『サンタクロース捕獲作戦』をしていた斎賀 昌毅(さいが・まさき)の家だったのです。
「くくく……、来た来た。今年こそサンタさんを捕まえるのだよ!! そしてプレゼント工場の位置を吐かせて那由他達が独占するのだよ!!」
モニター映像をスマホで見ていた阿頼耶 那由他(あらや・なゆた)は、マイキーたちを含めて他にもサンタたちがこの家を訪問するのを確認していました。昌毅が呼びかけた甲斐があったというものです。
「目標は、某掲示板の情報によると返り血に染まった服を着た化け物らしいのだよ。これは並のトラップでは止まらないのだよ。殺すつもりでかかるのだよ」
渾身の罠を仕掛け終えていた那由他は、期待に胸を膨らませます。サンタクロースを捕まえて、クリスマスの支配者になるのです。
「私は、空飛ぶソリをもらうの」
もう一人のパートナーのキスクール・ドット・エクゼ(きすくーる・どっとえくぜ)は、目を輝かせていました。那由他が本気の目をしてるって事は並みの相手じゃないって事で、かなり気合を入れたのです。心を込めたおもてなしに、サンタもきっと満足してくれるはずです。
そうとは露知らずに、マイキーたちは煙突を見つけて近寄っていきました。
「ワォ! 粋な作りだね。サンタを招いてアワビを欲しがっているよ、これ絶対」
ムーンウォークで中に入りかけるマイキーを、セリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)が押しとどめます。
「待て。こういうちゃんとした家は、起きている家族がいた場合挨拶しておいたほうがいい。俺が先に入ろう」
セリスは断じてドロボーではないのです。怪しまれた場合、せっかくの気の利いたプレゼントが台無しになるではありませんか。身元と目的を明かせば、歓迎されるはずです。アワビ配りには愛が重要なのです。
「俺の後に続けよ」
セリスは、煙突に入っていきました。足を掛けようとしてつるりと滑り落下します。そしてそのまま。
ドボーン! 着地したのではなくどこかにはまり込んだ音がしました。
「う、うわぁぁぁぁ! これはっ!?」
セリスの叫び声が聞こえて来ました。ずぶずぶずぶ、と沈んでいく音がします。やがて、セリスの姿が見えなくなってしまいます。
特設した煙突の下には床がなく、代わりに地下の恐竜のフンで満たされた深い肥え貯めになっていたのです。どぼんとはまり込んだセリスは沈んで行き、二度と出てくることはありませんでした。
「……」
「……」
マネキとマイキーは顔を見合わせました。
「ここは危険だ。窓から侵入しよう」
マネキにしたがって、マイキーはムーンウォークで窓へと接近しました。
「SHIIIIIIIIT!」
マイキーは叫び声を揚げます。窓の周辺には【ホワイトアウト】が吹き荒れていたのです。しかし、それくらいで彼のアワビ愛の足を止めることは出来ません。
ダメージを受けながらも、マネキとマイキーは窓を破り室内へと侵入することに成功しました。
「?」
床に着地するなり、二人は揃ってズルリと滑ります。置いてあったマットの効果なのでした。
「うぬ、よほどアワビが欲しいと見える。是非とも住人たちにプレゼントせねば」
不屈のマネキは奥へと進みます。
隣の部屋にはクリスマスツリーのもみの木が飾ってありました。マネキたちが入っていくと、襲い掛かってきます。
市販の踊るもみの木を那由他が改造し、キスクールのスキル【嫌悪の歌】が流れるようになっています。気に飾ってあった本やはさみを振り回してきました。
「このボクに追いつけるかな?」
マイキーは、ムーンウォークで逃げます。かなり暴れん坊のようでしたが、部屋から出ると追ってこないはずです。
「子供たちはよく眠っているようだ」
トラップをかいくぐり寝室へと辿り着いたマネキは、二段ベッドへ歩み寄りました。
「よい子達よ。アワビをしっかり食べて元気に逞しく育つのだよ」
マイキーはアワビを枕元に置くと、子供たちの様子が見たくなり布団をめくってみました。
ガタン、ドドン!
次の瞬間、ベッドの上段が落下しマイキーを押しつぶしていました。ベッドに子供たちは寝ておらず、トラップだったのです。特製で相当な重さだったらしく、マイキーはそのまま動かなくなりました。
「おのれ、アワビの愛を蹂躙しおって!」
マネキはマイキーを助け出そうと、ベッドの隙間に手を突っ込みます。
「ん? これは?」
枕の下に靴下を挟んであったようで、マネキは思わず触れてしまいます。
「ぐああああああ!?」
ビリビリと強力な電流が流れ、マネキはその場に倒れました。
「ぐぐ……、少年よ。アワビを抱け……」
「今よ!」
クローゼットに隠れていたキスクールが飛び出して来ました。【神の目】で全て見ていたのです。
「サンタゲットであろう!」
那由他はキスクールと一緒に、弱ったマネキたちを取り押さえました。
「さあ、プレゼント工場の場所を吐かせてやろう」
しかし、那由他は気分が悪くなって後ずさりました。マネキたちが袋に詰め込んであったアワビがぐちゃぐちゃになって、床一面に広がっていたのでした。
「うわっ、アワビくさっ!? 気持ち悪っ!」
「腐臭漂っている賞味期限切れまであるの!?」
キスクールは、口元を押さえてトイレに駆け込みます。残念なことに、彼女は胃の内容物を全部吐き出したようでした。勝っていたはずなのに涙目です。
「む、無念なの……」
「やれやれ。結局後始末するのは俺なんだからな」
昌毅は、マネキたちを助け出すと、部屋に散らかったアワビを片付けます。
「次だ次! まともなサンタが捕獲できるまで、諦めないであろう!」
那由他の声が、クリスマスの夜空にこだましたのでありました。