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リアクション
●In the boundary of the lives and the death.
「なんなの……っ、さっきから、一体何なのよっ!!」
震度計が振り切れるような巨大な地揺れと爆発音に翻弄されて、さゆみは怒ったような声で叫んだ。
前後左右、棚に置かれていた器材がバラバラと頭の上に落ちてくる。アデリーヌが最も安全な場所と見立てたこの器材室はとても狭くて、しかも倉庫のように扱われていたようで、あちこちに乱雑に物が詰め込まれていたため、避けようにもろくに身動きもできない。
両腕で頭をできるだけ抱え込み、立てたひざの間に顔を埋めて、さゆみはひたすら揺れが静まるのを待つ。
「ううっ……うーっ、うーっ……ふうーーっ……」
叫びたかった。大声でわめき散らしたい。
でも怖くて、怖くて、たまらなくて。
泣き声を上げることさえできなかった。
「さゆみ、大丈夫です。大丈夫ですから……」
歯を強く噛み締めて必死に声を殺し、とめどなく涙を流すさゆみの痛々しさに、アデリーヌが身を乗り出してできる限り包み込もうとする。
「あなたは1人ではありません。わたくしがいます。決して何があってもあなたのそばを離れませんわ。ですからどうか、そんなふうに1人で耐えないでください。わたくしを拒絶しないで……」
「アディ……っ!」
さゆみはとびつくようにアデリーヌにしがみついた。ぴったりと体を合わせ、それでも足りないと、より強く彼女を掻き抱く。
アデリーヌもまた、さゆみがそうやって求めているのがぬくもりと安心であると知っていて、それを与えようと、さゆみと同じくらい強く彼女の体を抱き寄せ、できる限り体を合わせた。
しかしすぐに自分がのしかかっていることでさゆみが下敷きになり、息苦しそうなことに気づいて床に手をつき、体を離そうとする。
「いや……ッ!」
すぐにあとを追ってしがみついてくるさゆみを抱いて、ぐるっと回転して位置を交換したアデリーヌは、自分の背を傾いた棚に押しつけて、自分の上に乗せたさゆみの体の位置を調整した。
「これで楽になりましたわね?」
「でも……あなたが……」
「いいのです。わたくしはさゆみのベッドになることなど慣れていますわ」
くすりと笑って、そっとほおに親愛のキスをした。
そっとさゆみの頭を引き寄せて胸に乗せる。
「さあじっとして……このまま朝を待ちましょう」
「……うん……」
アデリーヌの胸に横顔を埋める。すぐに規則正しいアデリーヌの心臓の鼓動が聞こえてきて、それを聞いているうちに、さゆみは肩の力が抜けて、うとうとし始めた。
そうしてどれくらい時間を経ただろうか。
人の声が聞こえた気がして、ぱちりと目を覚ます。
その声はあきらかに外からしていて――――
「だれか外に出られたの!?」
「……ん。どうしたんです……? さゆみ……」
眠そうに目をこすっているアデリーヌから身を離し、さゆみはあわててドアを出て、その先にある朝の光あふれた窓にとびついた。
窓の向こう、すがすがしい光のなかを歩いていく者たちの姿が見える。
「待って! ねえ待って!! 行かないで!!
私もここにいるのよ!! 気づいて!! 私たちも一緒に連れて行って!!」
バンバン窓をたたき、下の彼らに気づかせようとするが、彼女たちが気づいている様子はなかった。
ようやく解放された喜びからか、笑顔がこぼれるようにまぶしい。
バンバン、バンバン。
「ねえ気づいて!! ここよ!! ここに私はいるの!!」
バンバン、バンバン。
「……さゆみ……」
外の者たちに気づかせようと、懸命に窓をたたくさゆみのなかば常軌を逸した姿に、後ろからアデリーヌがおそるおそる名を呼ぶ。もちろんさゆみは気づけていない。彼女の目は外の者たちに釘づけで、なんとかして気づいてもらおうと必死で、ほかのことにほんのわずかも意識が向く余裕はなく。
だから、気づいていなかった。
自分たちがいたのは地下で、窓なんかなく、光輝く外など見えるはずがないということに。
「ねえ気づいて!! ここよ!! ここに私はいるの!!」
バンバン、バンバン。
いまや壊れそうな勢いでたたいているというのに、窓の桟もガラスも割れない。
外の者たちは気づかない。
「…………さゆ……」
アデリーヌは顔を覆い、絶望にその場にひざをついた。
「ねえ気づいて!! ここよ!! ここに私はいるの!!」
バンバン、バンバン。
バンバン、バンバン…………
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