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リアクション
あなたとの永遠を誓う
一日一日、今までだって同じ日なんてなかったけれど。
同じような日も、ちょっと嬉しい日も悲しい日も、甘い日も苦い日もあって。
でも特別な日があるとしたらそれは、一日でまるで世界が変わってしまうような日かもしれなくて。
だから、そんな日ではなくて、隣には大切な人がいて、これからも一緒にいて。
いつもと同じ……いつも以上に幸せな日なのに。
……ヴァイシャリーの結婚式場を前にして、二人は足を止める。
「どうしたの、美緒? 泣いてるの?」
冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)は俯く泉 美緒(いずみ・みお)の顔を覗き込んだ。
「……泣いてなんていませんわ……」
「こっちを向きなさい。……これは何?」
小夜子は片手で顎を取ると、美緒の目尻から真珠のような涙の雫を一粒、指ですくう。
濡れた瞳で見つめてくる婚約者を愛しくも苛めたいような気持になるのを抑えて小夜子が答えを待っていると、美緒は溜息のような声で答えた。
「心配をかけてごめんなさい……とても嬉しくて」
「それだけ?」
「あの……実は、家を出るのだな、と……少し感傷的になってしまいました。
これからは小夜子と家庭を持つのですから、しっかりしなければいけませんわね」
小夜子はその答えに優しく頭を撫でて肩を抱き寄せる。
女の子なら多かれ少なかれ考えることだろうが、華族の美緒ならば余計にそう思うのかもしれない。
家を出て、別の家庭を作る、ということ。
尤も、苗字が変わるのは小夜子の方なのだが……。
「ずっと一緒にいましたけれど、今までは二本の道を同じ方向に歩いていた、ということでしょう?
これからは小夜子と一緒に同じ道を歩いていくと思うと、とても感慨深くて……。……もう、大丈夫ですわ」
美緒は小夜子を見上げて、にっこりと微笑む。そこにはもう涙はない。
「さあ、行きましょう」
「はい」
二人は共に、結婚式場の扉を押し開けた。
小夜子と美緒は、別々の控室に案内された。
この結婚式場には以前来たことがあるので、少し勝手が分っている分、緊張が解れる気がした。
(ジューンブライドの模擬結婚式で……模擬だったけれど、今日は本物。あの時は私はタキシードを着てたけど、今回の私はドレス姿……。一緒に並ぶのが楽しみだわ)
先にヘアメイクを一度してもらってから、純白の下着姿になる。
スタッフにウェディングドレスを着せてもらいながら、小夜子は美緒のドレス姿に思いを馳せた。
バレンタインにプロポーズをした後、二人でブティックなどを見て回ったりしたが、ウェディングドレスと一口に言っても様々やラインとデザインがあった。
その時に美緒が勉強をしたいとも言っていたから、今日の美緒のドレスは任せてしまって、何を着るのかはあえて聞いていないのだ。
(可愛らしいものかしら、それともシンプルなものかな……どんなドレスでも美緒にはきっと似合うでしょうね)
小夜子の方は、スレンダーラインのドレスだ。ぴったりと体に沿った、いつものように身体の線が出るもので、ただスリットはなく裾が地面に着くくらい長い。縦のラインが強調されるので、普段よりすらりとして見える。
シンデレラのようなガラスの靴に足を入れ、ドレスグローブをはめ、最後のヘアメイクを整えて、ベールをかぶる。
鏡の中に映る自分の姿は純白で、先ほどまでとは全く違って見えた。白い髪にたったひとつの色、瞳の青が映えている。
小夜子はまるで生まれ変わったような気持ちで、美緒よりも一足早く会場に入った。
小さな、教会を模した会場は既に花々とリボンで飾り付けられていた。
神父やスタッフの他、席には誰もいない――二人だけの結婚式だ。
新郎の位置について待っていると、やがて入り口の扉が開き、美緒が入ってきた。
小夜子は、息を呑む。
一歩一歩、ヴァージンロードを近づいてくる美緒は物語に出てくるお姫様だった。
薄暗い室内にステンドグラスを通して降り注ぐ光は美緒を祝福しているようだった。その光がパールとダイヤモンドをふんだんにあしらったティアラをキラキラと複雑な色合いに輝かせて、美緒の美しさを際立たせている。
レースを広く施したウェディングベール越しに見た美緒の表情は、そんな自身の美しさになど気付かぬように目を伏せており、頬がほんのりと薔薇色に上気している。
胸元の開いたビスチェの胸元に、華やかなデザインの大粒のパールネックレス。ベールとお揃いのグローブの両手には、オフホワイトとピンクを基調にした薔薇のブーケ。
きゅっと絞った腰から、ふんわりとプリンセスラインのドレスの布が広がっていたが、それは彼女のピンクの長い髪に負けずに波打つように流れ落ちている。刺繍を施したものとフリルの、幾重にも重なった布は花弁のようだった。
彼女が歩みを止め、小夜子を真っ直ぐに見つめる。小夜子は視線を重ねて優しく迎えると、二人は自然に微笑み合い、聖職者の前に進み出た。
誓いの言葉を聞く間、向こうから、女王をかたどった像が彼女たちを見下ろしていた。
「……真心を尽くすことを誓いますか?」
「誓います」小夜子は答え、
「誓います」美緒も答える。
二人はブライズメイドにブーケと手袋を渡し、小夜子からまず結婚指輪を取った。金でできた、宝石や凝った装飾もないシンプルなデザインだが、場を選ばず普段から嵌めていられると選んだのだ。
それを、細くて白い美緒の薬指に嵌める。美緒も小夜子の指に通した。
そして互いのベールを上げる。
「私は泉小夜子になって……、これからもずっと一緒ですからね」
「はい、ずっと、一緒です」
満面の笑顔で、想いを込めて一心に応える美緒をたまらなくかわいく思う。
「美緒、愛してる……」
小夜子は美緒を愛しげに抱きしめる。そのうち感情が高ぶり、抑えきれなくなって。腕を背に回し、きつく抱きしめて、美緒の小さくて柔らかな唇に熱く口付ける。
今まで、大切な人を守り続けたいと思ってきた。
これからはこの腕の中で、守っていくことができる。何があったとしても……。
「女王陛下の名のもとに、お二人の結婚がここに成立いたしました」
声を聞きながら、口付けながら、小夜子は美緒で満たされていた。
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