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【特別シナリオ】あの人と過ごす日

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【特別シナリオ】あの人と過ごす日
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リアクション


いつか、その日を

 ──この前は『模擬求婚』だったから、次は『模擬結婚』だと思うんだけど、どうしたらいいかな……。

 それは、冗談半分のセリフだった。

 ──弾さん、こんなの見つけましたよ。アゾートさんをお誘いして面接に行ってきてください。申し込んでおきましたから。

 風馬 弾(ふうま・だん)のパートナー、ノエル・ニムラヴス(のえる・にむらゔす)は本気で受け取った。しかも手回しが早い。
 そんなわけで、結婚式場のモデルのアルバイトに採用された弾とアゾート・ワルプルギス(あぞーと・わるぷるぎす)だった。

 場所は空京の結婚式場の一つ。
 チャペル式のそこは、白を基調にした清楚な式場だ。三角屋根の形に沿った高い天井が唯一淡い水色に色づけされ、照明を反射して神秘的な空間を演出していた。
 両側の座席は白い花のブーケに飾られている。
 まずは花嫁のみの撮影をすると言うので、弾はカメラに入らない隅のほうでアゾートが来るのを待っていた。
 やがて扉の向こうに複数の人の気配がした。
 弾はまだ、アゾートがどんなウェディングドレスを選んだのか知らない。
 式場の宣伝に使うものだから、スタッフの意向もあるだろう。
(かわいい系かな、エレガンス系かな。どっちも似合いそう)
 扉が開くのをドキドキしながら待った。
 じれったいくらいゆっくりと開いた扉から、アゾートが緊張の面持ちで姿を見せた。
 その瞬間、弾の視線も心もアゾートにすっかり奪われてしまった。
 彼女は何段にも重ねたフリルと繊細に編まれたレースのドレスを選んでいた。
 光沢のある生地がシャンデリアの明かりを反射して、かわいらしいのに神々しささえ感じさせる。
 アゾートがわずかに伏せていた目をあげた。
 見惚れる弾と目が合ったとたん、緊張がほぐれたようにホッとした顔になった。
 きれいな微笑みを向けられた弾の頬が、みるみる赤くなっていく。
 アゾートはスタッフの指示に従い、ゆっくりとバージンロードを歩いた。
 祭壇で微笑む彼女は、永遠の花のように輝いていた。

 いよいよ、弾の出番がやって来た。
 黒いタキシードを着ると、緊張もしたが身が引き締まるような気持ちにもなった。
 先ほどはチャペルの隅から見ていたアゾートを、今度は祭壇から見る。
 気分を盛り上げるためかスタッフの悪ノリかわからないが、父親役に何故かノエルがついていた。
 控えめなドレス姿のノエルもまた新鮮だ。
 ノエルから弾のもとへ、アゾートが送られる。
 添えられたアゾートの手の細さと小ささ、あたたかさに、彼女への愛しさが大きくふくらんでいった。
 祭壇の前で、二人は自然と微笑み合う。
 少し照れたアゾートの微笑を目にしたとたん、弾は抱きしめたい衝動に駆られたが、何とか我慢して打ち合わせ通りに彼女を抱き上げた。
 ふわり、とした甘い香りに酔ってしまいそうになる。
(いや、もう酔ってるのかも。それなら……)
「僕、風馬弾は、アゾート・ワルプルギスさんを、健やかな時も病める時も愛し、この剣にかけて守り抜き、賢者の石を創るという偉大な目的を助け、生涯変わらず愛し続け幸せにすることを誓います」
 腕の中のアゾートを見つめながら言った。
 驚いたような顔をしたアゾートは、次の瞬間には真っ赤になっていた。
 何か言葉を返さなくてはと焦るあまり、
「えぇと……」
 と、かえって舌がもつれている。
「ボクも……ボクも、生涯弾だけを愛し、守り、ずっと一緒に歩いて行くことを誓います。キミの隣で、ずっと」
 アゾートの知的な目は、今は書物ではなく弾だけを見つめていた。

 途中に設けられた休憩になっても、弾の胸の高鳴りは落ち着いていなかった。
 そんな弾を煽るようにノエルがアゾートに微笑みかける。
「うちの弾は、家柄的にも学力的にも……特に語学の成績なんて底辺という脳筋ぶりで、アゾートさんには釣り合わないかもしれませんが、もう少し伸びると思うので長い目で見てあげてくださいね」
「えと、あの……家柄なんて気にしないし、学力も別に……」
「ノエル、僕はどこから突っ込んだらいいのかわからないよ。だいたい、関係者以外は入れないはずなんだけど?」
「特別に入れてくれたのです」
 それでチャペルでアゾートの父親役やってたのか、と弾は納得した。
「あんなに小さかった弾さんが、立派になりましたね……」
 ノエルは目に涙をにじませるが、弾の表情は逆に冷めていた。
「ちょっと、変な言い回ししないでよ」
「そんなことないですよ。私にとって弾さんは、弟というか妹というか……」
「妹って何だよ! 僕は男の娘じゃないよ!」
 弾は自身の中性的で女の子に間違われる顔立ちを気にしていた。
「ふふふっ。ところで弾さん、アゾートさんのドレス姿に感想の一つでも言いましたか?」
 弾は、アッと声をあげた。
 そういえば、言っていない。
 気まずそうにアゾートを見るが、彼女は気にしたふうもない様子だった。
「大丈夫だよ。キミがくれた誓いの言葉から全部わかったから。それに、ボクのほうこそ何も言ってなかったしね。胸がいっぱいで、何も言えなかったというか……」
「いや、でも……今さらだけど、すごくきれいだった。かわいくて、すっかり見惚れちゃってたよ」
「だ、弾も、タキシード似合ってたよ」
 照れながら言う二人の様子を、ノエルはやさしく見守る。
 彼女の願いは、いつかこの模擬結婚式が本物になること。
 それをこの目で見て、祝福すること。
 だから、こうやって発破をかけるのだ。
「弾さん、スタッフさんからキスのポーズの要求されたら、それを理由に本当にチューするチャンスですよ」
「そんなポーズ要求されるわけないよっ。何言ってるの、それもアゾートさんの前で!」
 弾は真っ赤になって言い返し、アゾートも赤くなってうつむいてしまう。
 ノエルの笑い声が楽しそうに響いた。