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【終焉の絆】滅びを望むもの

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【終焉の絆】滅びを望むもの

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大樹攻略作戦 2


 まだ双方距離は遠く、戦いを遠巻きに眺める程度では契約者達、国連軍が一方的な砲撃を敵陣地に与えているように見えた。
「砲弾だってタダやない。このままやとあかんな」
 大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)の操縦するバンデリジェーロは自分達の頭上を飛び交う砲撃を見上げていた。
「金の話はおいておくとしても、このままでは士気に関わるか」
 繰り返される砲撃のほとんどは、盾を持った黒騎士によって悉く防がれている。全く効果が無いというわけではないのだが、期待されている効果と比べれば、現状の成果は微々たるものだ。
 戦艦の圧倒的火力による支援があるというのは、心強いものだ。その分、それが効果を発揮しないとなれば戦場の兵士の不安は大きく増すだろう。実際にぶつかれば十分に勝てる戦いが、そういった不安によって覆された話など珍しくも無い。
「しゃーない。飛べるか?」
「誰に聞いている」
「狙いはわかっとるな? ぎょーさんおる盾を一枚二枚削っても意味あらへんで」
「狙いはもう決めてある」
「ほな、行くか」
 次の瞬間、バンデリジェーロはワープした。
 バンデリジェーロが飛んだ先は盾が隊列を組んでいる部隊の背後だ。飛び越えた瞬間、ライフルを構えた黒騎士と目が会う。
 一閃。肩口から斜めにソウルブレードが通り過ぎ、黒騎士はその場に崩れ落ちた。
「んでもって」
 振り返りつつ、超電磁ネットで盾持ちを何体か絡め取る。これで素早い陣形変更もできなくなるだろう。
 バンデリジェーロが飛んだ先は敵陣の前衛部隊後方といったところだ、流石に最深部には移動力が足りない。
 二手打ったところで、怪物達も反撃の動きを見せる。左右に展開していたバスターライフル持ちの黒騎士が銃口を向ける。位置的に盾持ちも巻き込まれるが、動きに迷いが無い。
「右や」
 ウィッチクラフトライフルを右の怪物に向け、射撃。ほぼ同じタイミングで敵の銃口が火を噴くが、横に飛んで回避する。黒い光がかすったわけでもないのに装甲上部を溶かしていた。
 互いの攻撃は外れ、次の攻撃が発生しない。
 左側から飛び込んできたウィンダムの新式ビームサーベルが、黒騎士を切り裂いたからだ。さらに視線を左に向けると、左側で銃口を向けていた黒騎士も倒されている。
「もうっ、突っ込むのはいいけど、一言頂戴よね。あせったんだから」
 通信に入る声は、高崎 朋美(たかさき・ともみ)のものだ。
「危なかったな」
 続いて本来の通信担当であるウルスラーディ・シマック(うるすらーでぃ・しまっく)の声が続く。
「全く危ないなんて思ってへんで、左から来るとわかってし」
 強がり、ではなく本当にそう思っていたというのが通信越しでもわかる。ウィンダムがちゃんと飛び込めるように、盾持ちに網を投げて道を用意したのだ。
「シマック殿、そノ後の進展は? 姑殿が多いと大変だとは思うが」
「っ、い、今はそんな話をしている場合ではない。通信切るぞ」
 乱暴に通信が切れる。
「讃岐院め、チキショウ、俺のことを、絶対オモチャかなんかだと思ってやがる!」
「え? なに?」
「いや、何でもねえ……」
 少し赤くなった顔を隠すように、シマックは自らの顔を叩いた。
 目の前ではもうバンデリジェーロが次の獲物を定めてワープしている。
「急いで後を追うぞ」
「うん、了解」
 ウィンダムが全速力でその場を離脱すると、間もなく戦艦からの砲撃が着弾した。守るべきライフルマンを失った黒騎士達の動きは精彩を欠き、砲弾の直撃を受けて部隊は半壊する。あとは味方に任せても十分だろう。

「よし、着弾確認」
 砲撃が敵部隊を飲み込むのを、富永 佐那(とみなが・さな)ソフィア・ヴァトゥーツィナ(そふぃあ・う゛ぁとぅーつぃな)の二人はユノーナ・ザヴィエートのコックピットで確認する。
 前衛の二機、バンデリジェーロとウィンダムの仕事はどうやら的確に進んでいるらしい。
「砲撃から生き残った黒騎士を排除します」
 ユノーナ・ザヴィエートは前進、半壊した敵部隊に突入していく。
 ウィッチクラフトライフルで牽制しつつ間合いをつめる。この時点でも、損傷した黒騎士の二体にトドメを刺す事ができた。
 間合いに入りきる前に立ちなおせた黒騎士は二体、うち一体は盾のみで、もう一体は槍と盾を両方装備している。
 ライフルでの射撃を続けつつ間合いを詰める。あと一歩の距離まで詰めたところで、ユノーナ・ザヴィエートはビームランスに持ち替えた。
 盾のみの黒騎士はそれを見て、一歩前に出る。体当たりで動きを押さえ、相方に仕留めてもらおうというのだろう。だが、槍を持った側が対応しない。それどころか、盾と槍の両方を手放した。
 いや違う、手放したのではなく、両方の腕が中程からブレードビットに切り落とされたのだ。盾持ちは状況を素早く理解するが、しかし理解速度と現実の運動は必ずしも同時に処理はされない。
 間合いに入ったユノーナ・ザヴィエートのビームランスが、一体をファイナルイコンソードで撃破。さらにたった今倒した黒騎士を足場にし、飛翔。大きな盾を持っている黒騎士の頭上真上から、ビームランスを突き立てる。前進、後退ときて直上からの攻撃に対応など、黒騎士にはできず、見上げた頭を貫かれた。
「ん、作戦通りなのです」
 黒騎士の両腕を切り落としたブレードビットが戻ってくる。
「近接戦闘はこちらに分がありますね。あとは砲撃が活きればいいんですが」
 H部隊の艦隊による砲撃はかなり正確だ。最も、それは敵側が盾を着弾地点に配備している点も大きい。
「味方の部隊がもっと前に出れば、状況は変わると思うのです」
「少し作戦とは違いますが、状況に対応してこそですね」
 本来であれば、このアルファ部隊は艦砲射撃によって混乱した敵部隊をかき乱すのが役割であったが、敵は艦砲射撃を見事に防いでいる。
「考えてみれば、国連軍側が長距離砲撃を行ってないわけがないですし、対応手段が彼らにあるのも当然なのですね」
 アナザーにも、長距離ミサイルや大口径の砲といった装備はあるだろうし、国連軍が組織される程度に事前準備ができているのだから、歩兵での遭遇戦だけやってたわけではないはずだ。
 黒い大樹の守り方は地域色があるが、単なるロングレンジ攻撃では対処されるのはおかしな話ではない。
「この戦場を左右するのは、イコンの働きというわけですね」
「アルファ部隊の役割は重要ですね」
 ユノーナ・ザヴィエートが最前線の二機を追って前に進もうとしたところで、後方から通信が入った。自分達にではなく、広域に発進されたそれは、救援を呼ぶものであった。
『頭のでかい怪物がっ』
 ノイズ交じりの通信の中で、唯一はっきりと聞こえた部分はそこだけである。それ以降の発言は無い。
「俺の方が近い、こっちで対処する」
 間髪いれず、柊 真司(ひいらぎ・しんじ)の声が二人に届いた。

ゴスホークのセンサーで捉えられる敵影は一つです」
「こっちと同様、突っ込んで戦線をかき乱すつもりか」
 ヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)が捉えた敵影に向かって、ゴスホークは加速する。
 大きな岩を飛び越えたところで、敵を視界に捉えた。
 報告にあったとおり、確かに頭が大きい。通常の黒騎士と比べて正面が広く大きくなっており、さらに後背部に向かってだらりと後頭部が続いている。
「コックピットだけを狙って、酷い」
 その場での戦闘は既に終わっており、無残にもコックピットを槍で貫かれたセンチネルが仰向けに倒れている。
 こちらが敵機を補足したと同時に、向こうもこちらを補足したようで振り返りつつ、アサルトライフルのようなもので攻撃を仕掛けてきた。
「クェイルのアサルトライフルか」
 弾丸は岩を削るだけでゴスホークには当たらない。間もなく弾丸を撃ちつくして、黒騎士はアサルトライフルを投げ捨てた。
「間合いを詰めるぞ」
 レーザービットを展開しつつ、ゴスホークは間合いを詰める。
 黒騎士も接近戦を予期し、前に出ながら槍を突き出した。
「遅い」
 突き出された槍を僅かな動きで回避しつつ、ゴスホークはその槍をわきの下に抱えて固定する。
 すると黒騎士は槍から手を放しつつ横に飛んで回避した。その場所を僅かに送れてレーザービットが通過する。
 黒騎士は飛び込み前転しながら、センチネルの横を通過。センチネルが取り落としたと思われるスピアと盾を装備する。
「単騎で特攻するだけの技量はあるってわけか」
 運動能力そのものは、他の黒騎士と大きな差は無いだろう。違いがあるのは、状況理解速度と判断力だ。
「頭が大きいからかしら」
 レーザービットが死角に入り込みながらレーザーを放つが、回避されセンチネルの盾で防がれる。とはいえ流石に鬱陶しかったか、レーザービットのうちの一つが盾で叩き潰された。
 レーザービットに対処しながら、黒騎士はじわじわと後退する。最初の交差で、技量と性能の差を認識したようだ。その判断力は素晴らしいものがあるが、だからといって逃がすわけにはいかない。
「ヴェルリア」
「任せて」
 下がっていく黒騎士の背後に、巨大な氷の壁が生成される。ヴェルリアのアブソリュート・ゼロによって生み出されたものだ。
 ゴスホークも既に動き出している。真正面から、黒騎士に突入する。
「悪いが、まだ温存させてもらうぞ」
 繰り出された槍を掻い潜り、プラズマライフル内蔵型ブレードが黒騎士の上半身を下半身を切り離した。
 動かなくなったのを確認すると、各地から来ている救援要請の位置を確認し、止まる事なくゴスホークは移動を開始した。
「後方のロレンツォ達に、注意するように言っておいてくれ」