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【終焉の絆】滅びを望むもの

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【終焉の絆】滅びを望むもの

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大樹攻略作戦 5


「……この戦いに、アナザーの団長は気付いているかしら?」
 周囲の風景に偽装し停車した装輪装甲通信車の中、董 蓮華(ただす・れんげ)はため息のように重く言葉を吐き出した。
 スティンガー・ホーク(すてぃんがー・ほーく)は編集作業をしている映像から視線を外し、蓮華を見る。
「気付かないわけないだろ。だってさ、アナザーのとはいえ金鋭峰なんだからな」
 そう言って、視線を編集中の映像に戻す。
 編集作業といっても、移動中の何も無い映像をカットする程度で、本格的なものは国連軍の広報部が行う。改めて映像を見てみると、中継するにはショッキングな映像があまりにも多い。これを鑑賞したとして奮い立つ人よりは、怯え慄く人の方が多数だろう。
 戦いが始まってしばらく経過したが、今のところ、国連軍とその関係者以外の通信は拾えていない。
 作戦前、蓮華はアナザー・コリマに以前耳にした、中国からインド方面に撤退したという部隊について尋ねた。敵の包囲網を突破したという彼らの中に、アナザーの金鋭峰が居たのではないかと考えたからだ。
「彼らについては、詳しい事はわからない。彼らは中国軍所属の軍人であって、我々の同胞というわけではないからな」
 アナザー・コリマはふむと顎をさすり続けた。
「我々国連軍は、全ての国家組織と友好的であったわけではない。我々の予見を疑問視するもの、ロシア主導で提案された事に反発する者など、な。アジアに限って言えば、日本以外の国家とはあまり友好的な関係を結べていなかった」
 国連軍はその名前と裏腹に、世界中の軍隊によって構成されたものではなく、ロシアを中心に欧州の国家によって構成されている。
 軍事力に自信のある米国は当初は加盟どころか反発し、また日本でも技術や資金の提供にとどめ、自国領土で戦っている最中も自衛隊は自衛隊として存在しており、国連軍に編入されたりなどしていなかった。
 中国もまた、国連軍に対して協力的ではない国家の一つだった。日本のような部分協力もほとんどなく、国連軍の国内活動を監視付きで一部認めさせるのが精一杯であったという。
「君がそこまで気にかけるというのは、それだけ重要な人物なのだろう。あとで我々に志願した者のうち、中国国籍の者のリストを用意させよう」
 後ほど、このリストを受け取る事ができたが金鋭峰の名前は無かった。
「あとは聞いた話だが、この地域では長らくアジア人の部隊がダエーヴァに対してゲリラ的な作戦を展開していたと聞く。彼らとの接触すらできていない以上は、君とってはあまり意味もない、それこそ噂話でしかないがね」
 金鋭峰の影はぼんやりと遠く、その足取りを追う事も難しい。
 今もこうして、作戦の通信中継に開いた枠で、別の通信を拾えないかと試みているが、反応は無い。
 生存すらわからない現状でも、何故だか、死んでいるとだけは思えないのが不思議でもあった。



「のんびりしてる時間はねぇな!」
 ノイエ13は一歩踏み込むと、新式星剣グランシャリオを黒騎士の盾に打ち付けた。火花が飛び散る、衝撃で黒騎士の地面が抉れる。
「盾が硬いだけじゃ」
 サビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)は盾の上で剣を滑らし、ヘリに刃を当てると、黒騎士の盾を打ち上げた。
 くるくると回転して飛んでいく盾を、黒騎士は見上げる。
「こういうことに、なる」
 袈裟がけにグランシャリオを振り下ろす。黒騎士はその場にがっくりと膝を落とす、その上半身は下半身とは逆の方向に倒れる。
 開けた視界の向こう、黒い光が瞬く。
「来るぜ、回避だ」
 シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)の声が早いか、ノイエ13の回避行動が早いかは判別するのが難しい。ただ、後方から放たれた黒騎士のライフルは、空しく通り過ぎた。
「射線が通ったのは、お前達だけじゃないんだぜ」
 巨大な盾の壁を一枚失った事で、フラフナグズからもライフルを持った黒騎士の姿がはっきりと見る事ができる。
「逃げ場は作らせませんよ、お願いします」
 マイア・コロチナ(まいあ・ころちな)が僚機のコームラントに、予め指示しておいた地点への攻撃をさせる。二機のコームラントはそれぞれ、狙いは完璧とは言えないもののタイミングを揃えて砲撃を行った。
「こいつらは前衛の奴らと情報を共有して射撃の精度をあげる事ができる。確かに便利だけど、こういう時どれが本命なのかわからねえだろ」
 僚機のタイミングにあわせて、バスターライフルの引き金を引いた斎賀 昌毅(さいが・まさき)の問いへの返答は、ライフルを持った黒騎士が身動きでないまま腹部に風穴を開ける事でなされた。
 後方支援の黒騎士が倒れたことで、防御に重きを置いていた前衛の黒騎士が半身を出して槍を構える。サビクや昌毅には後方の敵の配置は完全に見えていないが、彼らを援護できる位置にもうライフルマンは居ない事は明らかだった。
「素直なのは、いい事だよな」
 シリウスは若干呆れながら呟く。支援が受けられないから近接戦闘を、というのは合理的かつ間違いないのだが、牽制したりブラフを混ぜたりといった戦術的な部分は、この黒騎士にはあまり求められないようだ。
「このまま突破しちゃうよ」
 敵の動きに対応して、遠野 歌菜(とおの・かな)アンシャールが加速して飛び込んでいく。繰り出される槍を、暁と宵の双槍の片割れで地面に向けさせる。穂先が地面を抉るより先に、足を乗せて槍を完全に封じる。
「遅いな」
 獲物を抑えられた黒騎士は盾を掲げようとするが、それより早くアンシャールの槍が黒騎士の胸の中心を貫いた。
「来るぞ」
 月崎 羽純(つきざき・はすみ)の声に歌菜は「うん」と答えてその場で跳躍。動き出す前の殺気を読んだ動きに黒騎士は完全にタイミングを逃す形で、アンシャールが居た場所に槍を繰り出した。
「遅い、遅いよ」
 黒騎士の背後に、アンシャールは背中合わせで着地する。既に逆手に持ち替えていた槍が、黒騎士の背中から胸に向かって飛び出す。
「次は?」
「いや、片付いた」
 羽純の視線を追うと、その先でノイエ13がうつ伏せに倒れた黒騎士から、剣を引き抜いているところだった。手の届く範囲に敵影はなく、嫌な殺気も感じ取れない。
「よっしゃ、進むぞ、上の連中が頑張ってるうちにな!」
 シリウスが呼びかけて、休憩を取る事もなく前進する。幸い、消耗も少ない。
「了解、途中までついてくぜ」
 敵の動きから、黒騎士ライフルマンは射程内に居ないのはほぼ確定している。彼らのパチモノのバスターライフルは、昌毅の扱うバスターライフルとほぼ同等だ。あちらが届かないなら、こちらも届かないのである。
 近接担当のノイエ13やアンシャールが速度を上げて前進していくのを、周囲を警戒しつつフラフナグズもう後に続く。コームラント達を抱えてるぶん、警戒は慎重に行った。
「空戦が決まる前に、決着をつけたいですね」
 マイアはコックピットの中で上を見上げる。
 戦艦を中心とする空中戦力は、大量のフライオーガによって苦戦を強いられている。フライオーガはサイズが比較的小さく機動性が良好で、大型の戦艦では完全に取り付くのを防げないようだ。
 何より厄介なのは、機動性の代償に失ったはずの火力を、バスターゴブリンによる爆撃で補っている事だろう。うまく戦艦に取り付けたら、歩兵として艦内へ進み、近づけども乗り込めないと判断したら自爆でダメージを与えようとしてくるのだ。
 空中の戦艦達は、後方の支援部隊に可能な範囲での対空支援を要求は出したが、前線を構築している契約者のイコンには一切そうした要求は無い。
「お前達はとっとと黒い大樹までの道を作りやがれって言ってんだ。言われた通り、やってやろうじゃねぇか」
「そうですね。私達ならできると信じてくれているんですよね」