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【終焉の絆】滅びを望むもの

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【終焉の絆】滅びを望むもの

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大樹攻略作戦 6


 イコン部隊の最後方にて、三機チームを二つ、計六機の国連軍コームラント隊を指揮しながら、戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)龍王丸も空を鬱陶しく飛び回るフライオーガへの牽制を続けていた。
「くるぞ、一番隊は回避行動、二番隊は砲撃で仕留めろ」
 龍王丸自身はコームラント隊から離れる動きをみせつつ、上空のフライオーガに向かって引き金を引いた。
「一機撃墜です」
 リース・バーロット(りーす・ばーろっと)の報告に、
「八機編隊のうちの一機だ」
 と口を挟む。さらに、コームラントの砲撃が、フライオーガー二体を撃ち抜く。いい塩梅だ。
「来ます」
 フライオーガーは、小型ミサイルをばら撒くように射出する。コームラント一番隊に向かって放たれたミサイルは、間もなく微妙に位置をずらしながら着弾、爆発する。
 フライオーガは旋回せず、背中を見せたまま上昇、離脱していく。ローター機のくせに、動きは爆撃機のようだ。
「機影は確認できます、一番隊報告お願いします」
 回避成功が二つ、一機片腕を失ったとの報告が入る。だが、まだ戦えますとも続く。
「了解―――下げさせますか?」
「いや、まるでこちらの動きが見えているかのように爆撃が繰り返されている。下手に単騎行動させれば狙い撃ちになる可能性がある」
 小次郎は妙だと感じていた。確かに、上空からでは地上部隊が確認できるだろうが、それにしても自分達が執拗に狙われている。地上から対空支援を行っている部隊は他にもあるのだが、明らかに小次郎の部隊を狙っているのだ。
 危険な敵と認識されているのか、それはそれでいい事かもしれないが、先ほどの陽動を混ぜた動きにも一切目もくれていないのはおかしい。
「視線を感じますわ」
「奇遇だな、私もだ」
 見られているという感覚は、単に敵の行動がそのように感じられるから、あるいは、しばらく前に特攻してきた黒騎士の怨念か。
「ええ、見られているわよ」
 飛来したフィーニクス・NX/Fイーリャ・アカーシ(いーりゃ・あかーし)が二人にそう告げる。
「どういう事だ?」
「ちょっと待って……うん、ジヴァお願い」
「―――ちょっと待って、くる」
 ミサイルがフィーニクス・NX/Fに向けて発射される。ジヴァ・アカーシ(じう゛ぁ・あかーし)は明らかに敵が発射するのより早く回避行動を取っていた。
「まただ、なんだろう、これ……」
 誰の耳にも入らない音量で、ジヴァは自分の見たヴィジョンへの疑問を漏らす。
「まずはあっちを倒すね」
「ええ、きっとあのフライオーガが護衛なのね」
「護衛? どういう事です?」
「戦い始まってすぐ、頭の大きな黒騎士に攻撃を受けたわよね? あれはエースっていうよりも、突撃型の偵察機なのよ」
「突撃型の偵察機? 色々矛盾してるように聞こえますわ」
 偵察は情報を持って帰ってこそ意味がある。突撃なんかしては情報を持ち帰るのは難しいだろう。突撃して敵陣の偵察を行ったところで、時間の経過で状況も変わる。
「あの膨らんだ頭ね、あれ頭じゃなくて独立した個体なのよ。そっちが偵察機、見てみて、倒れた黒騎士の頭、普通の大きさになってるでしょ?」
 小次郎は最初に倒した黒騎士を調べる。確かに、頭部の大きさが普通の黒騎士と同じものになっていた。後頭部に張り付いていた個体が、頃合を見て逃げ出して姿を隠しながらこちらの位置を味方に送信していたのだ。
「こいつらは運び屋というわけでしたか」
 簡単な情報共有はダエーヴァは全ての個体で行うというが、わざわざイコンの頭部ほどの大きさにしているぶん、偵察機は他の個体よりも多くの情報を精査できるという事なのだろう。
「ずっと見られていたというわけですわね」
 怪物達は、小次郎の隊を危険だと判断し、優先的に潰そうと試みていたようだ。見られていたというのは、まさしくその通りだったのである。
「うん、わかる、見つけた。倒すよ」
 フライオーガを蹴散らしたフィーニクス・NX/Fは方向転換、地上の岩陰に向かってツインレーザーライフルを打ち込んだ。
「……」
「……妙な視線は感じなくなったな」
 小次郎達が感じていた視線が、すっと引いていく。
「……この近くには、もういない、かな?」
 ジヴァにイーリャは頷いてから、小次郎達に通信を行う。
「偵察機はイコンのセンサーで発見するのは難しいの。目視が一番確実よ。もし近くに黒騎士の亡骸があったら周辺に注意して頂戴」
「了解しました。しかし、先ほどは素早く発見したようですが、目視以外の手段があるのでは?」
「いいえ、今日は何故だかジヴァの勘が冴えてるみたいなのよ」
 偵察型の発見には、機晶アナライザーの効果も大きいのだが、この装備は共有できる手段ではない。
 遺体であるはずの黒騎士から、生体反応を最初に読み取ったのはアナライザーだ。元々積み込まれているイコンのセンサー類では、あの微かな反応は見落としてしまうだろう。
 間もなく、偵察型の情報は全体に共有され、偵察機の破壊行動が取られた。完全に駆除するのは難しいが、その結果、明らかに敵の動きは鈍くなっていった。



 HMS セント・アンドリューのブリッジには紅茶の香りが広がっていた。
「これは言わば攻城戦、容易く突破とはいかないものだ」
 紅茶のカップを片手にホレーショ・ネルソン(ほれーしょ・ねるそん)は、言葉とは裏腹に余裕をもった表情をしている。
「王道に乗っ取るのであれば、このまま敵戦力を削り続けるべきなのだろうな」
 現在の状況は、城を攻め込む国連軍と防衛するダエーヴァとの間で行われている野戦とも言える。ここで勝利を得たのちに、やっと国連軍は城である黒い大樹へ取り付く事ができる。
「だが、敵も中々のものだ。簡単には押し切れないだろうな」
「思った以上に進軍速度が出てないもんね」
 ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)は自分の分として用意された紅茶に視線を向ける。もうすっかり冷めてしまっているようだった。
「とはいえ、この程度の差は誤差のようなものだ。こちらの艦隊支援の効果を差し引いても、戦艦による各隊の補給と整備による効果は大きい。敵の戦力も順調に減退している。時間をかければ、いずれ突破もできるだろう」
 空になったカップに紅茶を注いでもらう。
「とはいえ、それでは―――少々、時間が勿体無いな」

「なるほど、了解した」
 土佐の指揮官湊川 亮一(みなとがわ・りょういち)はセント・アンドリューから来た通信に、二つ返事で了承した。
「少し危険な作戦ですわね」
 そう言う高嶋 梓(たかしま・あずさ)にも、反対の意思はないようだ。
「そうだな。艦と艦の距離が開いてしまう以上は、対空防御も完璧ではなくなってしまう」
 H部隊は構築されたデータリンク用ネットワークを使い、円滑な情報伝達が行っている。それを活用し、互いの船の死角を補いあって接近してくるフライオーガの撃退を行っている。
 フライオーガの厄介な部分はバスターゴブリンと共に乗り込んでくる事だ。戦艦といえど、内側に入り込まれて自爆されれば、最悪沈む事もありうる。
「接近戦については特に指示はない、か。自分達でなんとかしろって話だな。格納庫に繋いでくれ」

 艦内格納庫では、補給に立ち寄ったイコンと、途中で回収された損傷イコンの修理が急ピッチで行われていた。
 単純な運動量を比較すると、たぶんここが最大の激戦区である。休む暇はほとんどなく、誰もが機械油と汗で濡れており、ソフィア・グロリア(そふぃあ・ぐろりあ)も例外のなくその一人だった。
「何でしょうか?」
 白い艦内通信用の受話器が、ソフィアが掴んだ途端、油で黒く汚れるがもはや誰も気にしない。
「今すぐ動けるイコン? ええ、補給が終わった小隊が四機ありますわね。発進を待ってもらうのですわね……ええと、弾薬の補給をするだけのならば……」
 亮一との通信を終えたソフィアは、損傷度自己診断プログラムの設定を少し変更し、弾薬の補給を最優先とした。修理作業も、万全にするのではなく、機動力は多少失っていても動ける状態を優先する。
 そしてすぐさま整備班の各班長を招集、たった今指示された内容の要領をまとめて通達した。
「これより、我が艦隊は荷電粒子砲によって味方の進軍経路を開きますわ。一斉掃射のために、我が艦の対空防御の低下は避けえません。よって、現状格納している地上部隊の皆様に対空迎撃をお願いする事になります。先ほど変更した指示に従い、整備作業をお願いしますわ」
 さて次は、と呟いてソフィアは次の目的地に向かって小走りで向かった。休憩しているパイロットに、土佐の護衛をお願いしなくてはいけない。

 伊勢とウィスタリアは現在の地点から微速後退しつつ、そのまま地上部隊の支援を受け、土佐とセント・アンドリューは左右に大きく迂回するような動きを見せる。
 この動きを怪物達は、どのように判断するかは未知数な部分はある。だが、結託して硬い防御を見せていた艦隊が、個別行動をすればチャンスと考えるのが普通だろうし、それぞれ単艦で動いた二隻にフライオーガは殺到することとなった。
「んじゃ、派手に行きますか。荷電粒子砲のチャージは済んでるな? よし、旗艦とタイミングを合わせろ、道を開いてやれ」
 間もなく、空に五本の道が描かれる。
 土佐、伊勢、ウィスタリア、各一門。セント・アンドリュー二門の荷電粒子砲が、容赦なく空間を抉っていったのだ。その途上にあったフライオーガは、成す術なくエネルギーに飲み込まれていく。
 だが、どの荷電粒子砲も自分の艦に向かってくるフライオーガを狙っておらず、互いでカバーできる伊勢とウィスタリア以外の艦は否応なく接近戦を行う事となった。
「格納庫のイコン部隊を順次展開、下がりつつ引き寄せたフライオーガを殲滅する」