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プリズン・ブロック ~古王国の秘宝~

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プリズン・ブロック ~古王国の秘宝~

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看守の仕事 


 教導団員フィリシア・レイスリー(ふぃりしあ・れいすりー)は、一人で牢屋の見回りをしていた。
 当初は、「看守も、なるべく一人歩きをしないように」という同僚看守の呼びかけに従って、パートナーのジェイコブ・バウアー(じぇいこぶ・ばうあー)と共に見回りをしていたのだが。

 窓から、運動場で囚人がケンカをしているのを見咎めたジェイコブは、
「そこ、何をしている! ……おまえは見回りを続けろ」
 と彼女に言い残して、一人で運動場へと走っていってしまった。
 この時間、多くの囚人は作業場や運動場へ行っている。フィリシアが見回る牢屋も、どこも人気はなく、その事に彼女はほっとしていた。
 ジェイコブは「UFOだろうがなんだろうが、ドサクサまぎれに脱走を図ろうなんて考えるなよ」と、平素にも増して囚人の持ち物検査を強化していた。
 さらには囚人たちの中でも比較的従順な者を、他の囚人たちへの監視役に仕立てようとしたのだが、このシャンバラ刑務所の実質的支配者は教導団ではなく囚人である。ジェイコブに味方しようという囚人はおらず、逆に力を持つ囚人たちから「あいつ、生意気じゃねえ?」と目をつけられる事態に陥っていた。
 フィリシアはジェイコブに自重を呼びかけたが、まったく相手にされていない。
 しかも囚人たちの冷たい目は、そのパートナーである彼女にもそそがれていた。
(このままでは、もしかすると、わたくしは凶悪無比な囚人たちに捕まってしまって、ボロボロになるまで……)
 フィリシアは、自身のぐちゅぐちゅでずぱんずぱんでにちゅにちゅな未来予想図に、震えあがった。
 と、フィリシアは何か音を聞いたような気がして、想像を止め、立ち止まった。
 廊下のずっと先から、刑務所には似合わない、もしくはとても似合う音が聞こえてきていた。
「……何かしら?」
 フィリシアは不安げに呟いた。
 聞き間違いであるように、と祈りながら音のする方に歩を進めていくと、ムチが激しく空を切る音と、男の悲鳴が聞こえてくる。
 激しい拷問が行なわれているようだ。
(た、単に、激しい取調べですわ、きっと)
 フィリシアは妖しい音が聞こえてくる独房の小窓を、ごくわずかだけ、そうっと開ける。

「うふふふ、この奴隷が。みずからの卑しい立場を思い知りなさいな」
「アヒーッ!」
 黒革のボンテージ衣装に、看守の制服を羽織った仮面の女が、荷物のように縛られた素っ裸の男にムチを振るっている。

 フィリシアは硬直し、バッと身を翻して壁に背をつける。
(あああ……なんて事……あ、あんな事をしたら、囚人たちが『生意気な女看守に仕返ししてやろう』と考えるじゃありませんか?!)
 フィリシアは動揺して気付いていないが、看守の制服を羽織っているのは、女囚の雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)だ。叩かれている奴隷役の男こそ、フィリシアの同僚の看守である。
 牢内からはムチの音が響きつづける。
「奴隷は奴隷らしく、ひざまずきなさい!」
「ヒーッ! リナ様、お許しをーッ! アアーッ!」
 そんな声に、フィリシアは震えあがる。
 実は、嬉しい悲鳴なのだが、この時の彼女には、そういう「プレイ」がある事など思い浮かばない。
 室内からはリナリエッタの声が妖艶に響く。
「聞き分けの悪ぅい奴隷には、こうしてあげるわぁ。よぉく味わいなさい」
 ヴヴヴ……とくぐもった音が響き、「奴隷」のうめき声が続く。
 フィリシアは「電源を切らずにマナーモードにしていた携帯電話への着信に気付かない程、拷問に熱中している」と思い込む事にした。
(いけないわ。こんな所にいたら私、見張りをしている仲間だと思われてしまうかもしれない)
 色々な意味で、それは避けなければならない。
 フィリシアは足をガクガク震わせながら、そこを離れた。

 ある程度、問題の牢から離れると、フィリシアは安堵して、その場に座り込んでしまった。
「お姉ちゃん、どうしたですか?!」
 見回り中だった、ロイヤルガードの看守ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)が廊下でへたりこむフィリシアを見つけて走り寄る。
「もう大丈夫です。おケガはないですか?」
 ヴァーナーにぎゅっとハグされて、フィリシアは笑みを作る。
「ええ、大丈夫ですわ」
 ヴァーナーと一緒に見回っていた看守も不思議そうに近づく。
「一人でどうしたんです? まさかUFOに?! き、記憶はありますか?」
「えっ、いいえ、そうではなくて……」
 フィリシアは誤解を解こうとして、言いよどむ。あんな事、どう言えばいいのか。
「この先で何かあったですか?」
 ヴァーナーはフィリシアが来た方向に行こうとする。
 こんな小さく純真な子に、あんな光景を見せてはいけない。大人として、そう思ったフィリシアは、急いで誤魔化そうとする。
「な、なんでもありませんわ! 一緒に見回りしていたパートナーを追いかけようとしたら、転んでしまって……足をひねってしまったようです」
「じゃあ、ヒールするです!」
 ヴァーナーはフィリシアにメジャーヒールをかける。フィリシアは良心を痛めつつ、礼を言う。
「ありがとうございます。
 ……この先はもう見回りを済ませましたので……それよりも先程、運動場で囚人がケンカをしていて、その方が心配ですわ。一緒に様子を確かめに行きましょう」
「はいです!」
 ヴァーナーたちは疑う様子もなく運動場へと歩を向ける。フィリシアは心の中で二人に謝りつつ、ほっとしながら後に従った。