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四季の彩り・春~桜色に包まれて~

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四季の彩り・春~桜色に包まれて~

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 第14章 夜桜の下で

     〜1〜

「ここがレストゥーアトロか」
 太陽が殆ど沈み、空の大部分が朱から濃紺に変わった頃、長原 淳二(ながはら・じゅんじ)は一緒に来たミーナ・ナナティア(みーな・ななてぃあ)南 白那(みなみ・はくな)に向けて言った。
「ちょうど、夜になるちょっと前に着いたな」
「これからでしたら、ゆっくりと夜桜を楽しめますね」
 宵闇の中でミーナの視界に広がるのは、桜が咲いた綺麗な園内。今日は、ツァンダに新しい公園が出来たと知った淳二に、桜も終わりが近いし行ってみようかと誘われての付き添いだ。だが、実は彼女も夜桜には少し興味があったりする。
「お店もいっぱい出てるわね!」
 久々にマスターとお出かけしたい、ということで付いてきた白那は、わくわくと嬉しそうに屋台通りに目を向ける。夜が近くなって、通りはますます縁日の様相を呈してきていた。
「とりあえず、何を売ってるか見てみようよ」
「ああ、そうだな」
 ちょっと早足ぎみに歩く白那の後に、淳二達も続く。お弁当や飲み物は一応買ってあるけれど、元々いろいろ回ってみようと思っていたし。
「うわあ、すごい……」
 左右に並ぶ屋台とその上に広がる桜を楽しそうに見回しながら、白那は先へ進んでいく。何だかもの珍しそうだ。夜に向けて準備中の屋台もあるが、店の種類は充実していた。さすがに金魚すくいやお面屋までは無いけれど、粉物から甘いもの、氷水の中で冷やされた飲み物まで多種多様だ。
「あれ? これは何? わたあめ?」
 甘い匂いにつられて近付くと、ドーナツのような機械で雲みたいなものが作られている。
「あ、それは……」
「甘くてうまいぞ! 1つどうだ?」
 どう説明しようかと淳二が思っていると、屋台のおじさんが軽く簡潔に言った。まあ、食べれば分かることではある。
「じゃあ、1つ」
 淳二が注文すると、おじさんは割り箸にぐるぐると雲を巻きつけて出来たてを渡してくれた。受け取って、白那は1口食べてみる。
「おいしい……!」
 そうして、そろそろ場所を探そうか、とシートを敷く花見客の間を縫って歩いていく。通り過ぎる桜の1本1本がそれぞれどことなく違っていて、夜桜を楽しみながら公園の景観を見ながら、3人でのんびりと座れる場所を物色する。
 いつの間にか空はすっかり暗くなっていて、ぽつぽつと小さな電灯が灯っていた。
 その中で、ミーナがある1点を指差した。
「あ、あそこに人が倒れていますよ」
「……寝てるんじゃないのか?」
「いえ、うつぶせっぽいですし……心なしか、香ばしい匂いが……あ、やっぱり怪我してます」
 近寄ってみると、ぼろっとなったイルミンスール新制服を着た筋肉たっぷりの大柄な男が倒れて唸っていた。月光蝶仮面達に浄化されたむきプリ君である。大きな鞄は後生大事に抱えている。
「うー、うー、ヒールが足りん……」
 あれからこの時間まで地道に自力ヒールをかけていたがまだ全快していなかったようだ。どうりで静かだったわけだ。
「大丈夫ですか?」
 ミーナはむきプリ君にリカバリをかけた。かなり良くなったのか、むきプリ君はがばっと跳ね起きて滂沱の涙を流した。
「おおぉ! よく回復魔法を掛けてくれた! そうだ、これから一緒に……」
「は、はい……?」
「ああ、これから……。……!?」
 相手が女子だったことで浮かれかけたむきプリ君だったが、同行者である淳二が迫力たっぷりのオーラを出しているのに気付き大いに怯んだ。そこに。
「おう! むきプリ、こんな所にいたのか! 探したぜ!」
 そんな声が聞こえて振り向くと、ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)秘伝 『闘神の書』(ひでん・とうじんのしょ)香月 鳴海(こうつき・なるみ)がこちらに歩いてくる所だった。
「うっ、お前達は……!」
 むきプリ君はまたもや怯んだ。そう、彼は別に今日NOスケジュールというわけでは無かった。ラルク達に夜桜見物に誘われていたのだ。しかし、ラルク……否、闘神には過去に無理やりホレグスリを飲まされ自主規制な目に遭わされている。嫌な予感しかしないその誘いに出席するつもりは無かったのだが、焦げているうちに時間になってしまったようだ。
「待たせちまったみたいだな。んじゃ花見と洒落こむか」
 ちょうど、桜の下であることだし。
「じゃあ、俺達はこれで……」
「あ、ごきげんようです」
 何かびくっているむきプリ君を見つつ淳二が挨拶すると、鳴海が丁寧に挨拶を返してきた。彼等と別れ、淳二達は改めて落ち着ける場所を探し始めた。
 そして、やがて見つけたのは――
 電灯の無い、星達の自然の灯りだけに照らされた、1本の桜の樹。
「うん、誰も居ないし、ここにしよう!」
 わたあめを食べ終わった白那が言い、3人は持ってきたお弁当を広げて平和に夜桜を楽しんだ。さっき怪我してた人、筋肉すごかったね、とか話しながら。

     〜2〜

「すまんな。今日は来てもらっちまって」
 そう言うラルクに、誘いに乗ったつもりのないむきプリ君は先程跳ね起きた姿勢のまま固まっていた。いや、じりじりと尻で後退している。警戒しまくりである。その様子に、ラルクは苦笑を交えて彼を引き止めた。
「まぁ、待て。今日は単純に花見をしにきただけだぜ! 親睦を深めるって目的もあるけどな」
「むきプリさん、大丈夫ですよ。今日は普通の花見です」
 鳴海も笑顔で言い、持ってきたシートを桜の下に敷いていく。ラルクと闘神も持ってきた日本酒やビール、つまみや弁当をその上に広げていく。以前にむきプリ君にひどいことをしてしまったという気持ちがあるので、その謝礼も兼ねての花見である。
 むきプリのトラウマ軽減をしたいとも思っているので、夜だからといってラルクも闘神も夜の営みをする気は無い。
「…………」
 着々と整えられていく場を半信半疑で見ていたむきプリ君は、どうやら大丈夫そうだと判断してそろそろとシートに近付いていった。座ったものの、警戒は完全に解けていない。そんな挙動不審な彼に、ラルクは酒類を勧める。
「むきプリは酒強い方か? 弱いんだったら弱い酒とかジュースもあるが……」
 鳴海がお酒を飲めないので、ジュースもちゃんと用意してある。
「酒は好きだが……」
 プロテインの日本酒割りとかは実に美味い。
「お、じゃあまあ飲めよ。日本酒がいいか?」
 コップに酒を注ぎ、闘神にも酒を渡す。全員に飲み物が行き渡ったところで軽く乾杯し、花見の席は始まった。
 それぞれに一口二口飲み、ふと思い出したようにラルクは言う。
「そうそう、ろくりんでむきプリの写真を貰ったんだが……闘神が中々離さなくてなー。お前に相当夢中みたいだぜ? それに今日は、お詫びに珍しく菓子なんて作ってきてるらしいぜ」
 それとなく、闘神の応援である。
「菓子……だと?」
 怪訝そうに闘神の方を見ると、闘神は申し訳なさそうに頭を掻いて、むきプリ君の為に作った菓子を差し出してきた。
「その……なんだ、あの時は自分の抑えがきかなかったんでぃ……」
「…………」
 甘い香りの漂う箱を見下ろしてむきプリ君は思う。侘び。プレゼントではなく、自主規制的なことをした侘び。プレゼントであれば断固拒否するところだが――
「分かった。もらっておこう」
 受け取った。
「おう、そうか!!」
 ぱぁっ、と闘神が嬉しそうな笑顔を浮かべる。
(そこまで喜ばなくてもいいのではないか……?)
 また少しばかり警戒しながら、手酌で酒を注ごうとする。すると、ラルクがひょいと瓶を取って注いでくれた。
「むきプリは何にもしなくていいぜ。お客さんだしな」
「む……」
 そうして弁当のおかずを取り分けたりつまみの袋を開けて差し出したり。
 至れり尽くせりなこの待遇に、酒が回ってきたむきプリ君は段々気持ちが良くなってきた。警戒していた自分が馬鹿みたいだ、とすっかり殿様気分である。
 まあ、そこそこ和やかで、どこにでも在るおっさん同士(1人少女)の集まりに見えなくもない。
「こうやって、じっくりと夜桜を堪能するのもいいよなー」
 食べ、大いに飲みながらラルクは足を伸ばす。酒好きで酒豪の彼は、酔わない程度に飲もうと思っていた。そう、酔わない程度に。徐々にペースが上がっているように見えるのは気のせいだろう。まあ酔っても服を全部脱ぐ癖と、説教とかではないが絡み癖があるだけである。
 一方、闘神はむきプリ君と上機嫌で話をしていた。
「むきプリの趣味はなんでぃ!? 普段はどんな事をしてるんでぃっ!?」
 些か、質問内容がお見合いチックだ。
「む、趣味か? ホレグスリを作ることだ! 普段はホレグスリを作って、空いた時間には筋肉を鍛えている!!」
 ある意味つまんない答えである。どんだけホレグスリ好きなんだ。仕事中毒か。他の趣味も探したほうがいいと思うよ! ……それはともかく。話を聞いて鳴海がそうだ、というようにむきプリ君を見上げた。
「そういえばホレグスリっていうのを持ってるんですよね? もしあれだったらわたくしに下さらないでしょうか?」
「何だ、欲しいのか? ここにあるからいくらでも取っていけば良い! わっはっは!」
 用途も確認しないで、命の次に大事な鞄をかぱっ、と開いた。相当酔っている。むきプリ君は酒が好きだが、残念ながらそう強くはない。だが、そう気にせずにぱかぱか飲むタイプだ。
「ありがとうございます」
 鳴海はホレグスリと書いてある袋から何本かいただいた。昼間に何かあったのか半分ほど割れていたが。
 そこで、酔い過ぎていつの間にかすっぱだかになったラルクが酒瓶をむきプリ君の口に突っ込んだ。
「むごっ」
「むきプリほれ! 酒が足んねえんじゃねぇのか!? 飲め飲め!」
「……むごもごも……! ! !」
 ごくんごくんごくん。目が血走っている。瓶口をきゅぽっと離された頃には意識半分べろんべろんである。
 次に、裸になったラルクはむきプリ君のイルミン新制服をひっぺがし始めた。
「おうおうおう!! 俺が脱いでるってぇのにむきプリは脱がないのか!! ほらほらぬげぬげー!」
「じょ、じょっどまれ(訳:ちょっと待て)……!」
 べろんべろんながらむきプリ君は抵抗する。
「何だよ! 折角の筋肉じゃねぇか! 闘神お前も脱げ! むきプリも脱いでるんだからこうへーだろ! こうへー」
 酔っ払った頭で何か間違った思い出になりそうな気がしなくもないとかぼんやり思うが、まぁ、楽しめたらいいだろうとラルクは先の考えを1秒で忘れ去る。
「お? むきプリ相変わらずいい体してやがるぜぃ! うし、我も脱いでやろうじゃねぇかぃ!」
 躊躇い1つ無く、闘神はノリノリで服を勢いよく脱ぎ捨てた。
 和やかなおっさん同士(1人少女)の集まりが、一気に筋肉と下半身全露出のとんでもない肌色会合に変化する。そして、ガチムチ3人が脱いで脱がせてとしている間に鳴海はむきプリの酒のコップにホレグスリをとぷとぷと入れた。ラルク達には内緒である。むきプリ君にクスリを飲ませて闘神相手にメロメロにさせるつもりだ。むきプリ君、何気にピンチである。
(量は多ければ多いほどいいのでしょうか?)
 用量が分からないままに、先程貰った瓶の中身を全投入した。無事に作業を終え、時刻を見る。
(もうこんな時間ですか。そろそろ帰りましょう)
 あんまり遅くなってもなんだから、と彼女は1人冷静に立ち上がって花見の席から遠ざかっていった。
「ひ、ひんにくはいいが……、ぱんつはかえひてくれ……! ぱんつ……。……」
 すっぱだかになったむきプリ君は、何だか乙女に見える発言をしつつ遠くに投げられた桜色のビキニパンツに手を伸ばす。しかしパンツは花びらと共に風に流され――
「……!!!!」
 あごが外れるくらい口を開けて愕然とし、むきプリ君はやけになって一気に自分のコップの中身を飲み干した。その、極微かに混じる味と匂いに何かもの凄い馴染みを感じながら闘神を見て……
 ――コロっと惚れた。
「闘神……お前の筋肉、十字傷……素晴らしい……! 何故俺は今まで何も感じなかったんだ……!!」
「な、なんでぃ?」
 目をハートマークにして求愛してくるむきプリ君に闘神は戸惑うが、断る理由も無い。むきプリ君の愛を受け入れ、愛を語り、見つめあい――
 一糸纏わぬ姿の2人は体が隠れるぐらいの藪の中へと入っていった。ラルクはそれに気付いていたが邪魔はせず――そのうち、こんな叫びが聞こえてきた。
「ぬおぉぉお! 闘神、すきだあぁあぁああああ!」
「むきプリ……今度は我がおぬしに掘られてやる……一緒に極楽にいこうぜぃ!」
 背後の絶叫を聞きながら、闘神は極楽への扉を開けた。
 ――むきプリを精一杯愛してぇ。
「むきプリ……いや、ムッキー……我はおぬしを愛しているぜ」
「ああ、俺もだ……!!」