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リアクション
第16章 深い敬愛
「ご一緒出来るなら。何処へでも、何処までも」
ルカルカ・ルー(るかるか・るー)はそう申し出て、教導団の団長である金 鋭峰(じん・るいふぉん)に付き従い、サポートしていた。
金団長が同行者を求めた時には、必ずと言っていいほど、ルカルカはこうして積極的に同行を申し出ている。
ブライドオブシリーズが動力源として使われていた、浮遊要塞アルカンシェルと、鉄橋を視察した帰り。
金団長と側近、そしてルカルカは高級喫茶店に立ち寄った。
ロイヤルガードならば、サインを求めてくる一般人もいそうなものだが。
金団長の鋭利な刃物のような眼と、威厳と風格が滲み出る立ち振る舞いに、人々は目を合わせないようにし、通路に居た貴人も道を開けていく。
そのせいというわけではないが、一行は個室を借りて休むことにする。
「報告いたします」
個室で、盗聴の可能性がないことを確認した後。ルカルカはアルカンシェルの現在の修復状況について話し始める。
「動力炉から制御室までの回線はケーブルの入れ替が済み修復完了いたしました。エネルギー室と付近の砲台はほぼ使える状況ではなく、修復も無理と思われます」
それから、アルカンシェルがシャンバラに攻撃を仕掛けた時。
自分が何をしようとしたか……何をなせたかを、金団長に話していく。
「……その身を盾としたか」
「はい。護れたのは、計器と仲間達のこと。それから、首都や国民の安堵と愛情、だと思っています」
それだけではない、ルカルカは各地のブライドオブシリーズ探索任務に関わり、ブライドオブシリーズの入手に貢献してきた。
「団長が望むなら、全てを手に入れます」
微笑しながら、そんな風に言うと。
金団長は笑いこそしなかったが、眉を揺らして反応を示す。
「参謀長の真似ではありません。私自身の気持ちです」
そんなルカルカの言葉に、金団長は軽く頷く。
「だがお前の身体は一つしかない。身体を壊せば、何一つ成せなくなるだろう」
「……はい」
ルカルカの頑張りを知っているかのような言葉だった。ルカルカは嬉しく思いながらも、止められているようにも思えた。だけれど。
「お前を捨て駒にするつもりは、今のところはない」
その言葉に、優しさはなくても。多くは語らなくても、ルカルカを……部下を案じてくれているのだと、感じて。
ルカルカは思わず頭を下げながら礼を言う。
「ありがとうございます。健康管理も、スケジュールの管理も徹底して行っています」
金団長はルカルカの言葉に軽く首を縦に振り、書類に目を通していく。
「飛行には問題はないが、攻防システムはほとんど使い物にならんな」
資料を見ながら、金団長は呟いた。
「飛行が最優先ですから、やむを得ないのですが、月に向かう最中に敵勢力に遭遇するようなことがあったら……危険ですね」
「そうかもしれんが、イコン部隊を乗り込ませるのに十分な格納庫はあるな」
「はい、乗組員はパイロットを中心に選ぶべきでしょうか」
そんな話し合いをしながら、2人は茶を飲み、軽く茶菓子も楽しむ……。
仕事の話を終えた後。
残りのお茶を飲みながら、ルカルカは、先日婚約者と温泉にいった時のことを話題に出した。
「婚約者……式はもうすぐといったところか。名が変わるのなら、手続きが必要になる」
早めに報告するようにと、金団長は事務的に言うが、ちらりとルカルカを見るその動作から、少しは気になっているのかな、とルカルカは思う。
「来年挙式予定です。式には是非ご招待させて下さいと願うだ……団長は教導団所有の温泉には行かれました?」
途中まで本音をさらけ出しかけたルカルカだけれど、なんとかごまかす。
「視察を兼ねて、行っている。今日も帰りに寄……るわけにはいかんな」
またルカルカをちらりと見て、金団長は顔を背けた。
ぶっきらぼうとも言える彼の言葉の真意は、付き添っていることが多いルカルカにはなんとなくわかる。
ルカルカと温泉に行ったというう噂が流れてしまうことを心配してくれている……のかもしれないと。
「では、皆で行きましょう。保養施設、沢山ありますしね」
教導団員は普段から傷が絶えない。
その為、湯治場としての保養施設をいくつも所有していた。
「単なる遊びならばくだらんが。合宿を行うのならば、それも良いだろう」
「はい!」
ルカルカは軽快に返事をして、金団長を見詰める。
恋をして、愛している人は、ただ一人だけれど。
この目の前の人物にも、恋愛とは違う、強い感情を抱いていた。
(団長と共に歩み、世界を守る。金鋭峰に忠誠を捧げ、国防に資する。彼の懐刀的な、側近的な、信頼と忠誠で結ばれた……男女を越えた関係になりたいし、ありたい)
そう願うことを、今は口にすることは出来ないけれど。
(団長を理解したい、お役に立ちたい、お側に居たい)
こうして、今、傍に居ることが出来ている。
(私は、裏切らない。私は、貴方を孤独にしない)
ルカルカの想いを込めた強い視線に気づき、「どうした?」と、金団長は怪訝そうに聞いてくる。
「私は……」
ルカルカは一瞬視線を落して自分の手元を見た後。
顔を上げて、金団長を見ながら話す。
「団長と共に国を愛し、団長を含めて、守ります」
そうすることを、お許しください。
(私には、それが至上の幸福なのです)
ルカルカは、強い瞳で見つめ続け返事を待った。
「その言葉、嬉しく思う。教導団は、お前を頼りにしている」
それから、金団長は軽く咳払いをして続けた。
「……私も例外ではない」
「はい……今後も、ご指導、ご鞭撻、よろしくお願いいたします」
ルカルカは頭を下げた。
そして、立ち上がり伝票を持って個室を出る金団長に従う。
彼の背を見ながら、より信頼されるよう、努力を続けることを誓う――。