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リアクション
第19章 聖夜のプレゼント
沢山のご馳走とケーキを用意し、御神楽 陽太(みかぐら・ようた)と御神楽 環菜(みかぐら・かんな)夫婦は、自宅でクリスマスイブを楽しんでいた。
「これ、買ってきたの? 作ったの?」
「手作りです」
環菜の質問に、間を開けずに陽太が答える。
テーブルに並べられた料理の殆どは、陽太が作ったものだ。
環菜は家事を全くやろうとしないわけではないが、鉄道王になるために奔走していることもあり、家事全般は陽太が担当していた。
「このチキンは、程よい辛さね」
「環菜の好みの味にしましたから。こちらもどうぞ」
陽太は聖なる夜の紅茶をティーカップに注いで、環菜の前に置いた。
「気が利くわね」
ごく軽く笑みを浮かべて、環菜は美味しい料理を楽しんでいく。
陽太は彼女が自分が用意した料理を、美味しそうに食べていく姿を幸せな気持ちで見守っていた。
それだけで、お腹がいっぱいになってしまうくらいの幸せを感じてしまう。
「去年は、病室でしたね。今年は健康な状態でクリスマスを迎えることができて良かったです」
「そうね。……去年は大変だったわ」
「でもその後の1年は幸せでした。どんなに辛いことがあっても、環菜と一緒でしたから」
環菜を失ってしまったあの時を超えるほど、辛いことなどあるはずがない。
彼女と過ごし、こうして結婚をして共にいる今を。
彼女がいる日常を、陽太は本当に大切に思い、幸せに浸っていた。
料理を食べた後は、ソファーに並んで腰かけて思い出話や、最近のことを語り合う。
仕事のことや、先の展望についても話題に出るけれど、今日は特別な日だから。
環菜もPCをいじったり仕事に戻ろうとしたりはせずに、陽太の隣にいた。
「クリスマスプレゼントも、手作りです」
陽太は自作のブローチを取り出して、彼女の胸につけてあげた。
「手作りにしては良く出来るじゃない。気に入ったわ」
中央に大きなダイヤモンド、周囲にも小さなダイヤモンドが散りばめられている、豪華で贅沢なブローチだった。
ひとつひとつ、環菜を思いながら陽太はダイヤを嵌めて作った。
「私は選べなかったというか……」
環菜がブローチから目を上げて、陽太に向けた。
「陽太って、道端の石ころだってお土産として持って帰ったら喜びそうだから」
「環菜が俺の為に用意してくれたものなら、石ころだって嬉しいと思うでしょうね」
そう言って、陽太は笑みを浮かべた。
「だから、今日を空けたの。プレゼントはこの時間。いいわよね、それで」
「勿論」
そう微笑んで、陽太は環菜の肩に腕を回し。
環菜は陽太の肩に手を伸ばして、口づけを交わした。
1年前より長く。
普段よりも深く。
「環菜……」
それから強く、陽太は環菜を抱きしめようとした。
「待って」
だけれど、環菜は陽太を押し返した。
「あなたからもらった、ブローチが壊れてしまうわ」
だから、このままでは抱き合えない、と。
環菜は陽太の上衣の中に、手を滑り込ませた。
「環菜……愛しています」
「私だって……」
吐息交りの声が、薄暗い寝室に響く。
特別な夜の、翌朝。
環菜は陽太の傍にいた。
「世界で一番幸せなプレゼント、になれたかしら?」
「勿論」
陽太は彼女を愛しげに、大切に大切に抱きしめた。