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リアクション
■ コタツのチカラ ■
「ノルンちゃん、大丈夫ですかー?」
一面白の景色を歩きながら、神代 明日香(かみしろ・あすか)がノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)に声をかける。
運命の書『ノルン』を連れての帰省はこれで4度目になるけれど、今年の冬は特に寒い。
今日は雪まで降っていて、外を出歩いている人もほとんどいない。真っ白な道に明日香とノルンの2つのサイズの足跡だけが並んでいる。
家に帰るまでの道のりも誰とも行き会わない。前の帰省時のように、妙な噂をされる恐れはなさそうだ。
これなら魔法や箒で飛んで行っても目撃される可能性は低いし、もし見られてしまったとしても錯覚だと思ってもらえることだろう。けれどそのかわり、安全の保証が出来ない。
身軽で明日香1人であれば問題ないけれど、帰省の荷物やお土産がどっさり。ノルンも連れていることだからと、明日香は地道に歩いて帰ることにしたのだ。
寒いといけないからノルンには、ころころになるまで厚着をさせてきた。その分寒さは軽減できているけれど、雪の積もった道は歩きにくく、ノルンはさっきから寡黙だ。
大丈夫かという明日香からの問いかけには、口元まで巻いたマフラーを揺らしてこくんと頷いてくれた。けれど、随分疲れていそうなのが見てとれる。
雪が落ち着くまで帰省を遅らせようかとも考えたのだけれど、明日香には年越しをパラミタで迎えたい理由があった。
パラミタには地球になかなか帰れる立場には無い大切な人がいるのだ。大切な伴侶と一緒に新年を迎える為にはどうしても、この年末のうちに地球への帰省を終わらせておかなければならない。
「あと少しですからがんばってくださいねぇ」
無理をさせてごめんなさいと、明日香はノルンと繋いだ手に力をこめた。
「お帰りなさい、明日香さん、ノルンさん。雪の中大変だったでしょう?」
家に着くとお手伝いさんが迎えてくれた。
両親は相変わらず不在だけれど、今夜には戻ってくる予定だ。明日には明日香とノルンはとんぼ返りすると伝えてあるから、実に慌ただしい顔合わせではあるけれど、それでも新年を迎える前に家族で顔をあわせておきたい。
「平気です」
強がるノルンに、お手伝いさんは素直にそうですかと頷く。
「ノルンさんもまた大きくなったようですから、これくらいの道は平気ですよね」
大きくなったと言われ、ノルンは得意げな顔になった。実際は前に帰ったときと比べて1mmたりとも伸びていないのだけれど。
「お風呂の準備をしてきますから、お部屋でゆっくり休んでいてくださいね」
「よろしくですぅ」
明日香は色々分かっているお手伝いさんと目配せをかわしあうと、ノルンを連れて部屋へと向かった。
「お風呂の用意が調ったら、一緒に入りましょうねぇ」
ノルンにそう声をかけ、明日香は手荷物の簡単な片づけや土産物の確認をはじめた。
ノルンは今にも座り込みたいほど疲れてくたくただったけれど……その目があるものを捉えた。
「あれは……!」
あそこに見えるものはまさしく。
コタツ、
コタツ、
コタツ……!
足を引きずるようにして歩いていたとは思えない素早さでノルンはコタツに向かうと、そそくさと入った。
冷えた身体がじんわりとコタツの熱で温められる。
ふう、とノルンは息をついた。
暖かい。
幸せだ。
ここはまさしく天国だ。
「ぬくぬくです……」
ノルンはもう離れまいと、コタツ布団をしっかりと引き寄せた。
「ノルンちゃんー、お風呂の準備ができましたよー」
お手伝いさんからの連絡を受けて、明日香はノルンを呼びに来た。
「はい……」
「冷めないうちに入りましょー」
「ふにゅ……」
「ノルンちゃん?」
返事にならない返事を不審に思って明日香が様子を見てみると、ノルンはコタツに入ってうとうとしていた。暖かくなって、ここまで歩いてきた疲れが出たのだろう。
こてん。
……くぅー……。
すぅすぅと寝息を立て始めたノルンの頬を、明日香はつんつんぷにぷにとつついてみたが、それくらいでは起きそうもない。
あんまり幸せそうな顔で寝ているので、起こすのもためらわれる。
「ノルンちゃん、先にお風呂いただきますねぇ」
聞こえていないのを承知で声をかけると、明日香はノルンを残して1人でお風呂に入りにいった。
慌ただしい滞在を終え、翌日には明日香とノルンはパラミタへと出立した。
やっぱり寒い帰り道を歩きながら、明日香はコタツが恋しいですねとノルンに笑いかけた。
「それなんですけど、明日香さん」
ノルンは至極真面目な顔で明日香を見上げる。
「コタツは恐るべき魔道具です」
「はい?」
「一見、暖を取るだけの器具のはずなのに、魅了の魔力がすごいです。ということで……研究するために部屋に設置したらどうでしょう?」
「部屋にコタツが欲しいんですかぁ? 余程気に入ったんですねぇ。でもコタツで寝ると身体に悪いですよー」
明日香が笑うと、ノルンはむきになって言い返す。
「研究の為なんです。寝たりなんてしません」
「はいはい。じゃあ研究のためにコタツを買いましょうか」
ノルンの話に合わせてそう言うと、明日香は繋いだ手を揺らしながらパラミタへと帰っていくのだった。