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リアクション
■ 十数年ぶりの墓参り ■
ここには自然がそのまま残っている。
太古からそのまま生きているような樹齢300年を超える木々が生い茂り、動物たちが自然のままに過ごしている。
人が滅多に足を踏み入れない秘境とも言えるその場所を、ルイ・フリード(るい・ふりーど)は『名も無き森』と呼んでいた。
パートナーたちからは『遭難魔』と言われるほどに方向音痴なルイだけれど、この育った場所にだけは、引き寄せられるかのように迷うことなくたどり着けた。
それは帰巣本能からなのか、あるいは師匠が導いてくれたのか。
「ただいま。一時的に戻ってまいりました、師匠」
小さい頃に自分で作った師匠の墓にルイは帰郷の挨拶をした。
「十数年間、墓参りに来なかった不孝者で申し訳ありません」
最初のうちは師匠を失った悲しみを思い出したくなかった為に、墓に参ることが出来なかった。心が未熟なせいなのだろうとルイは思う。
師匠が亡くなってから、ルイは毎日を空しく過ごしていた。それだけルイにとって師匠の存在は大きかったのだ。
その後、ルイは今のパートナーたちと偶然出会い、パラミタという存在を知った。地球ではない新しい世界で自分を鍛え、立派な漢になってから故郷へ帰ろうとしたのだ。
「しかし、それでも長い時間が過ぎてしまいましたね」
本当に色々なことがありました、とルイはここに来るまでの間のこと、パラミタでの出来事を師匠に語りかける。
「何本もの槍で貫かれたり、電撃を思いっきり浴びたり……もちろん楽しい思い出も沢山ありますからね?」
パラミタでは地球で体験できないようなことが次々に起きる。すべてが新鮮で驚きの連続だ。
今の家族に、仲間に、友人たちに出会い、ルイの毎日はあの空虚さが嘘だったかのように輝いている。
楽しい経験も辛い経験も含め、自分は前を向けるようになった。
それをを報告するために、ルイは今日、師匠の墓にやってきたのだ。
「今回の報告は以上でしょうか。次はパートナーたちと共に来ますよ」
パートナーたちを師匠に引き合わせたい。師匠と過ごしたあの日々のことを伝えたい。
そして師匠にもこれが自分のパートナーなのだと胸を張って紹介したい。
「それまで師匠もお達者で」
ルイは墓に向かってそう声をかけると、鬱蒼とした自然の中を歩き出す。
「さて……パラミタの方角はどちらでしたか……」
右、それとも左、どっちに行けば帰れるのだろう。
ルイは自分の感覚の赴くまま……ということは、まったく違う方向へと、しっかりした足取りで歩いて行くのだった。