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忘新年会ライフ

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忘新年会ライフ

リアクション

「俺達も急がないと……なッ!!」
「そう……ね!!」
「「グギャアアア!!」」
 先行したレンに触発された真司は、現れたガーゴイルを【ゴットスピード】で一気に接近してナイフ型機晶スタンガンで感電させて無力化すると、朱里がガーゴイルを【煉獄斬】で叩き斬る。
「二人共、待て! このダンジョンにはトラップも多い事を忘れるな!!」
「平気平気!! あれ?」
カチリッ!
 朱里が自分の足元を見ると、隆起した不自然な地面を踏んでいた。
ズゴゴゴゴ……!
「ん?」
 不審な音に天井を見上げる朱里。
「衿栖、ちょっとヤバイかも……」
「え? ちょ!? て、天井から何か下がって来ているじゃないですかぁッ!?」
「だから私が待てと言っただろう!!」
「早く!! 階段まで走るんだ!!」
 真司がガーゴイルを蹴散らしながら一同に叫ぶ。朱里と真司が露払いを引受け、一斉に階段に向かって走りだすツアー参加者達。
「ハァハァ……、ま、待ってくれぇぇーー!!」
 衿栖が振り返ると、袴姿の中年のツアー参加者がコケていた。このメンバーは冒険屋達がメインだが、数名の一般参加者も加わっていたのだ。
「いけない!!」
 衿栖がマイクを朱里に預け、走りだす。
「大丈夫ですか? さ、早く!!」
「ぅぅ……ワ、ワシはもう無理だ……」
「何言ってるんですか? 新年迎えなきゃ、ね?」
 アイドルとしていつも笑顔を心がける衿栖が励ますと、細い目の中年の男は、瞳をギラつかせる。
「では……ワシの頼み、聞いてくれないか?」
「はい?」
「ワシはな、先祖代々自慢できるよう846プロの衿栖ちゅあんの胸の中で朽ち果てたいのだ」
「……」
 この男こそ、ジョニーをして『最も危険』と言わしめたイーサンその人であった。長年の人生で狡猾な術を熟知したイーサンは、全ての自分のピンチをチャンスに変え、他のファン達を出し抜いてきたのだ。
「リーズ、ブリストル、クローリー、エディンバラ!!」
 衿栖が【ヒロイックアサルト】の人形操作で、魔力の糸を使用し人形4体を同時に立ち上げる。
「そこの人を運んで!!」
 人形たちがイーサンを下から持ち上げて運び出す。
「ぬわーーー!! 折角衿栖ちゅあんの胸の中で滅びれる機会をぉぉーー!!」
叫ぶイーサンを人形で運びながら衿栖も走りだす。
「(変な人……助けてよかったんでしょうか……ううん! ファンは大事にしないと!!)」
一同が下への階段に逃げ込むと同時に、階段へ続く順路は封鎖されてしまったのであった。

ズズズーンッ!!
「ん?」
 上の方で響いた音にヴェルリアが顔をあげる。
「真司やリーラ、無事だといいんですけど……」
 ヴェルリアは呟きつつ、目の前に生えているキノコを【博識】でどんなキノコかどうか調べてから採取していく。
「まぼろし……では無いですけど、食べられるものですね……鞄持ってくるべきでした」
 着ている天御柱学院制服のポケットはこのキノコや山菜で既に一杯だった。リーラの話だと後で鍋を行うみたいなので、ヴェルリアはキノコ以外の山菜とかも一通り採取していたのだ。
「さて、採取が一段落したので、後は出口に向かって行くだけ……ですが……」
 ヴェルリアは再び上を見上げる。
「土の壁は登りにくいですし……困りました」
 彼女は今、落とし穴の中にいたのである。
「明子さんは頼りになるなぁ!」
「やだなぁ……まだまだダンジョンはこれからよ! 気を抜いちゃ駄目だからね!」
「話し声……」
 ヴェルリアが叫ぶ。
「助けてー! 助けてー!」
 暫し叫んでいると……。
「はろー、何かお困り事?」
 ヴェルリアが見上げていたところに、黒髪を三本編みおさげにした少女の顔が突然現れる。
「あなたは……明子さん?」
「はーい、どうもー、荒野のパスファインダーこと伏見明子です」
 通りかかったツアーコンダクターの伏見 明子(ふしみ・めいこ)により、ヴェルリアは落とし穴から救出され、ダンジョンを進むことになった。

「へぇ、まぼろしのキノコねぇ……」
 歩きながら、ヴェルリアの話を聞いていた明子が頷く。
「はい。私はそれを取りにダンジョンへ入ったんです。明子さんは?」
「私? 私は……」
「明子さんはツアーコンダクターですよね? お客さんの姿が見えませんけど?」
「ピュー、ピッピー」
 口笛を吹いて誤魔化す明子。破壊者の鎧と梟雄剣ヴァルザドーンにより完全武装された彼女の姿は、ツアーコンダクターというより梟雄そのものだ。
「あれ?」
「どうしたの?」
「精神感応で真司に連絡を取ろうと思ったんですけど……上手くいかなくて……」
「ダンジョンの半分を超えたもの」
「え?」
「知らなかった? 私が受けた説明によると、ここのダンジョン53だか54階だかを超えると精神感応で通信できなくなるそうよ。携帯も駄目だし」
「ふーん、そうなんですか」
「そうよ! だから私が精一杯無理矢理笑顔作って、皆様の身の安全は誠心誠意保証させて頂きますのでご安心下さいませー! とか言ってウインクまでしたのに、みんな逃げ出すなんて! あの根性なし共!! 玉ついてんの!! 馬鹿! 馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿ーッ!!」
 手をワキワキさせた明子が恨みの言葉を並べ立てる。
「明子さん? ずっと気になっていたのですけど……」
ヴェルリアが思い切って疑問をぶつける。
「さっき、落とし穴から助けて貰った時、聞こえた声は二人分だったんです。もう一人はどこに?」
 ピタリと立ち止まる明子。