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忘新年会ライフ

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忘新年会ライフ

リアクション

 話は少し遡る。
 破壊者の鎧・梟雄剣ヴァルザドーン装備でばっちりウィンクして、ツアー参加者に自己紹介を済ませた明子。
「……え、あれ、ご安心下さいませなんだけどなんでお客さんが逃げるの……?」
 その出で立ち故、彼女のツアー客は自己紹介の時点でおよそ半分が消えた。
 それでも、明子は笑顔を絶やさず、ダンジョンへ客達を案内する。
……が。
「どおおりゃああーー!!」
 梟雄剣ヴァルザドーンと自慢の腕力でゾンビを叩き潰す姿で更に半数がリタイアし……。
「もっと殴っておかないと、ゾンビだから復活しますよ? ほら、もっと力を込めて!」
 馬乗りでゾンビを【自動車殴り】する姿を見て、最後の客達もリタイアしていた……。
「ええいちくせう。しかたないじゃないか! ドラゴンが出る可能性があるんだからこんぐらいやらないと皆さんの身の安全が図れないのっ!!」
 のっしのっしと肩を怒らせて歩く明子。
 こうして、彼女のツアー参加者は全て居なくなり、『力で何とか出来る範囲を片付ける係』兼『エアー参加者』を引き連れるツアーコンダクターと化したのだった。
「客引きとかその辺は他の正統派な皆に任せた。……任せた!」
 孤独にダンジョンで言ってみたものの、応答はない。
「う……うぅ……」
 少し瞳を潤ませた明子に、エアー参加者が微笑む。
「頼りになります! 明子さんに頼んで良かったなぁ。ハッハッハ」
「任せておいてよ!! 私がガイドするなら、ドラゴンが出ようが万事大丈夫よ!!」
「でも全部倒したら、他の参加者がつまらなくなりますよねー?」
「あんまり強くないモンスターはスリルの為に残しておいて、ヤバイクラスの相手を先になんとか追っ払っておくのが私のお仕事ね」
「明子さんは頼りになるなぁ!」
「やだなぁ……まだまだダンジョンはこれからよ! 気を抜いちゃ駄目だからね! ……ん?」
 そこに、ヴェルリアの助けを求める声が聞こえたのである。

「……エアー参加者?」
「コホンッ……さぁ、どんどん行きましょう!」
 明子に一抹の不安を感じるヴェルリア。
 その時……。
ドゴォォーーンッ!!!
 明子達の前の壁が突如として爆発する。
「な、何!?」
「下がってて!」
 鋭く叫んだ明子がヴェルリアの前で梟雄剣ヴァルザドーンを構える。
 土煙の中、木刀を持ったネクタイ姿の男が現れる。
「人?」
 サラリーマンの男は明子達を見ると、薄ら笑いを浮かべる。
「へ……へへっ……」
 既に土埃だらけのスーツの襟を但し、男は言う。
「やっぱり……普通の人間は……こ、このダンジョンに来てはいけなかったんだ……」
 ユラリと刀を落とし、倒れるサラリーマン。
「しっかりして下さい!」
「いい……んだ。オレだって、一度くらい……ヒーローを、やってみたか……った」
 ヴェルリアが走るより早く、男の元にもう一人吹き飛ばされてくる。
「やりますわね……流石といったところかしら?」
 着地と同時に古流武術の構えをとるピンク色の前髪ぱっつんロングの少女。
「イングリット!?」
 その正体は、ツアーコンダクターの説明会で明子の隣に座っていたイングリット・ネルソン(いんぐりっと・ねるそん)であった。彼女もツアーコンダクターとしてダンジョンに潜っていたのだ。
「あなた達! 気をつけて!!」
 イングリットが叫ぶと、壁の中から拳が音速の速さでイングリットに伸びてくる。
「はぁッ!」
 その手を払い、バク転しながら後方へ飛ぶイングリット。
「何か事情はわからないけど、手伝うよ」
 明子が剣を構えて、イングリットの傍に立つ。
「強いですわよ?」
「望むところよ! あなたが苦戦する程の相手は何? ドラゴン?」
「いいえ……わたくしですわ」
「……わたくし?」
 壁から現れたのは、イングリット本人であった。
「え? え? あなた双子だったの?」
「違いますわ。そこにいるのはわたくしの煩悩が生み出したもう一人のわたくし……」
 偽イングリットが腰に手を当てて笑う。
「ええ、わたくしこそ比類なき天下無双! パラミタ最強の戦士、イングリットですわ!!」
「いくらなんでも煩悩ダンジョンにドラゴンクラスとの熱戦を期待してる層はいないと思ってたけど……いたんだね」
 明子がそうポツンと漏らすと、イングリットが振り返る。
「倒せます?」
「モチロンよ!」
 明子はイングリットと共に、偽イングリットへ攻撃をしかける。
 梟雄剣ヴァルザドーンを振り回す攻撃、【アナイアレーション】を仕掛けた明子の顔は、ヴェルリアにはとても充実感に満ちた顔に見えていた。