校長室
年の初めの『……』(カギカッコ)
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●ふたたび、蒼空学園校長室 時間はいくらか戻ることになるが、ここで場面を蒼空学園校長室へと戻す。 「もしかしてと思って来てみたが、まさか本当に仕事をしているとは思わなかった」 ふらりと立ち寄ってみたんだが、と樹月 刀真(きづき・とうま)は言った。彼の手には、受け取ったばかりの雑煮の椀が湯気を上げている。 刀真の前のソファには涼司の姿しかない。まだ来客もあるだろうし、ということで現在、校長室を拡張すべく隣室の掃除に他のメンバーは行っていた。隣室との壁は自動で昇降できるのだが、掃除は自動ではできないのだ。 「御神楽さんのパーティーに行かないのか? 寂しがっていると思うけど……」 刀真が環菜を『御神楽さん』と呼んでいることを知るも、涼司は気づかないふりをする。 「ご覧の通り仕事でな。去年の積み残しが大量にあるんだ。学校そのものが休みの日のほうがはかどる。まあ、堅苦しい正装をしなくていいだけでも楽だ」 言うべきか迷ったものの「刀真は?」と涼司は問うた。 「俺? 俺が彼女の所に行っても邪魔にしかならないよ」 静かに語る刀真は、しばし手の中で椀の位置を直していたが、ややあって意を決したように告げた。 「御神楽さんとは居場所が別れた。彼女にはそのままこちらに関わらず平穏に幸せに生きて欲しいんだ。 そう言う意味では二度と会いたく無いね……今まで彼女を想えた事に感謝を、それで終わりだ」 椀をテーブルに置いて、そっと付け加えた。 「ただ気が向いたらお節介は焼くかもな、今の君みたいにね」 この場の誰も、溜息を漏らしたわけではなかった。 しかし確実に、その雰囲気が漂った。それは諦念か、あるいは安堵によるものか。 刀真は一人ではない。彼を守るように、三人のパートナーが控えている。 (「環菜の事を話している刀真は苛立った気配も無く落ち着いている……決めちゃったんだね」) 漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)はそっと瞳を伏せた。 そんなことにお構いなしで、ソファに身を預ける玉藻 前(たまもの・まえ)は頬を膨らませていた。 (「折角の休みなのに何故我らはここにいる!」) 元旦は一家団欒と思っていたので、どうやら涼司の仕事を手伝うことになりそうで不満なのだ。しかしそんな玉藻前の気持ちを、ようく知っているので封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)は上手くもちかけた。 「せっかくのお雑煮です。冷めないうちにいただきませんか? そんなに膨れていると綺麗な顔が台無しですよ?」 「そうだな。頬を膨らませているよりは、胃に何か入れて腹を膨らませるほうがいい」 刀真もそれに乗った。 「別に膨れてない!」 と、ますます膨れっ面になりながら玉藻前は雑煮を手にして、 「ほう、ちゃんと鰹出汁をとったようだな。まあ、美味いではあるぞ」 いくらか気を持ち直したようだ。 「しかし」 まだ他のメンバーが戻ってこないのを確認し、刀真は再度、涼司に問うた。 「俺は腹を割った。涼司にもそうあってほしい。わざわざ元旦にやるほど急ぎの仕事ではないよな? 凉司、何があった?」 「鋭いな。実は……」 涼司は簡単ながら事情を語った。 「そうか」 短く返答して、刀真は雑煮を口にした。 「ともあれ、今日は手伝わせてもらうぞ」 舌に嬉しいほの温かさだった。柔らかな餅、うっすらただよう柚の香りもたまらない。体の芯から温かくなるような気がする。 今頃パーティが始まった頃だろうな、と刀真は思った。