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リアクション
「危なかったあ。
イコンの速さを上げておいてよかったね」
清泉北都達は、巨人の衝撃波を躱していた。
「空中のイコンを撃墜するのが目的だったようでございますね。
地上付近のイコンは、既に戦闘不能のものを除外してほぼ無傷。
空中待機のイコンで生き残ったのは、私達と、スフィーダ機の2機でございます」
「あの剣、すごいね。
イコンで扱うにも丁度いい大きさなんじゃないかなぁ?」
「確かにそうですが」
北都の冗談に、クナイは苦笑する。
「さてと……。ものすごい挑発だったけど、どうしようか」
「地上のイコンに動きがございます。スフィーダ機は武器を持ち替えました」
クナイの報告に頷く。
「みんな、挑発に乗るみたいだねぇ。よし、じゃあ僕達はその援護だ」
「了解いたしました」
「ダメージは……」
近遠は計器を確認する。
出力は低下したが、充分に距離を置いていたため、回避に問題はなかった。
衝撃波は、近遠達の位置からはずれていた。
「地上組が仕掛けるみたいですわ」
「援護します」
近遠は地上の様子を判断しながら、
「状況に応じて、援護射撃から主攻撃に移ります」
と、パートナーのユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)に指示を出す。
「ヴリトラ砲チャージ開始」
「チャージ開始いたします」
「頃合か」
柊真司は仕掛け時を此処に決めた。
衝撃波の攻撃は躱したが、あんなものを見せられて、黙っているわけにはいかない。
「ヴェルリア、ビームサーベル以外の武装をパージ。食らってもいい。仕掛ける」
「了解」
「ファイナルイコンソードをリミッター解除しろ」
「リミッター解除します」
それは、相討ち覚悟の一撃だった。
「これで、どうだっ!」
真司は、味方の援護を受けて巨人の至近距離に飛び込み、渾身の一撃を放つ。
「う!」
ズシ、と受け止めた巨人の腰が沈んだ。しかし止められている。
「出力低下! 威力が落ちます」
「くっ……」
真司は操縦桿を握り締める。動きが鈍い。あと一押しなのに、と真司は歯噛みした。
押し返される。
巨人は、そんな真司のイコンを見て、にやりと笑った。
「やる。だが、かつてはこれが“普通”だった」
「――何?」
「我が一族は、古時代のイコンとも戦ってきた。今のイコンを、遥かに凌ぐ相手とな」
「でも、腕は二本よね!」
背後から、御凪真人の機体が仕掛けた。
真司の機体とはタイミングをずらして一気に間合いを詰め、ビームサーベルで斬りかかる。
直前で気配を察しても、巨人の剣は真司のサーベルを受け止めている。
咄嗟に身を引くも、逃さない。
巨人の背中に鮮血が走った。
巨人は、身を引きながら剣を薙ぎ、二人の機体と距離を置いた。
――そこを、狙い撃つ。
「おじちゃん!」
大怪我ではない。
それでも、すかさずヴァーナーは、巨人の傷を回復させる。
大怪我ではないが、通常の人間の傷と比べれば数十倍だ。簡単には治らない。
「何をしている!」
それに気付いた巨人が、戦闘の合間に吼えた。
「だって! しんでいい人なんていないんです!」
ぴく、と巨人は眉を寄せた。
ふん、と口元を歪める。
「……本当に、そんなことを思うのか」
「……おじちゃん?」
「ならば何故、私は独りなのだ――」
近遠のヴリトラ砲が炸裂した。
ゴオッと激しい爆音が上がる。
「派手ねえ!」
セルファ・オルドリンが声を上げた。
「命中した?」
「いえ……」
爆撃の為に、至近範囲は一時的にカメラが役に立たない状態となっているが、直前で、巨人が剣を盾に構えるのが見えた。
恐らく防いだだろう。
爆炎の中から、剣が放たれた。
巨人が大剣を投げ放ったのだ。
それはまっすぐ近遠の機体を狙う。
近遠機は躱すが、ガツ、と刃が機体を掠めた。
近遠は素早く損傷状況を確認する。
「損傷軽微。サブカメラ損傷。本体に傷。外殻がめくれているようですね」
「巨人はどこですの?」
土煙や炎が引かないが、元いた所には居ないことは解った。
しかし煙は、すぐに治まる。
すぐに位置を捉えることができた。
身を翻し、走り出しかけて不意に身を屈めた巨人が、何かを掴み上げた。
「きゃあ!?」
巨人の手の中で驚くシルフィスティ・ロスヴァイセを、問答無用、全力投球で放り投げる。
「きゃあぁぁぁぁぁ……・・・」
戦線を離脱して彼方へ消え行くシルフィスティを他所に、巨人は、騎士甲冑ゴーレムの背後に回り込んだ。
肩のヴァーナーを掴まえて、ゴーレムの肩に乗せる。
「おじちゃん!?」
「近遠ちゃん?」
「とりあえず一発撃ってみて下さい。少女は避けて。ゴーレムは爆発しません」
「了解ですわ!」
ユーリカは、ゴーレムに向けてツインレーザーライフルを撃つ。
ゴーレムが、斜め上に構えた盾から、透明な光の障壁が広がり、がつっ、と地面に突き立った。
光線は、障壁に弾ける。
「きゃううっ!」
盾の向こう側で、ヴァーナーが身を竦めた。
「防御率100%……? まさか」
「連射行きますわ」
ユーリカの続く攻撃にも、ゴーレムの盾は揺るがない。
「ヴリトラ砲は?」
「チャージ終了しています。最大出力で砲撃できますわ」
「攻撃をお願いします」
「了解!」
砲弾が、盾に激突する。
凄まじい威力で、衝撃波が広がる。
砲撃は、盾に弾かれ、激しい勢いで四散した。
広がる爆炎がやがて引き、立ち昇る土煙が薄れ始めた時、その場から、巨人の姿はなくなっていた。
ただ、ゴーレムだけが残されている。
「……盾にして、逃げたのですか……」
攻撃が治まると、ゴーレムは構えていた盾を下ろして、背後を見る。
ぼんやりと遠くを確認して、前に向き戻った。
レリウス達の機体は、巨人の衝撃波に巻き込まれて不時着していた。
人体に深刻なダメージはなかったが、それもあらかじめ万全であることが前提の話だ。
「大丈夫か、レリウス!?」
機体のダメージを確認することは後回しで、がくんと脱力したレリウス・アイゼンヴォルフを、ハイラル・ヘイルが支える。
「……敵を……」
滝のように流れる脂汗の下で、レリウスは悔しさに歯噛みした。
敵を逃がしてしまった。
(情けない……)
「――支援すら、まともに出来ないとは……!
とか思ってんじゃねえだろうな?」
内心を完全に言い当てられて、レリウスは顔を上げた。
「馬鹿かおまえは。
そうやって、受けた傷を悪化させて、戦闘以外の理由で死ぬ方が、情けないってこと、解れ!」
「ハイラル、俺は――」
「もう……いいから、黙れ。気を失ってていい。戦闘は終了だ。撤収する」
俺が此処にいる。
そう言うと、ふっと息を吐いて、レリウスは目を閉じた。
「全く……」
ハイラルはレリウスを抱え上げる。
機体は、誰かに回収を頼むしかない。
ベースキャンプは此処から近くは無いし、移動するくらいの操縦なら一人でも可能だが、彼をイコンの操縦席に戻すのは躊躇われた。
「こんなになっても、戦ってないとダメとか、どうなんだよ……」
死線に居ないと命を惜しめない。とんだ矛盾だ。
いや、それでも惜しむという概念が彼の中に生まれたことは、進歩なのだろうか。
「先は長ぇなあ……。頑張れ、オレ……」
◇ ◇ ◇
巨人が撤退し、ゴーレムだけが残された。
「――ハルカぁ!!」
派手な戦闘に近付けないでいたが、今だとばかりに走り寄り、ゴーレムに向かって、光臣
翔一朗が叫んだ。
「ハルカ、そこにいるんか!?」
ゴーレムが翔一朗を見、胸の部分がバカッと開いた。
「みっちゃん! とーまさん達もいるのです!?」
ブンブンと手を振りながら、現れた人物を見て、半ば予想はしていてもやはり、翔一朗や樹月
刀真らは唖然とする。
間違いなく、出て来たのは、
ハルカだった。
「搭乗型ゴーレム……?」
呟きながら、成程、これなら迷子になる心配は無い……などと、変なところで納得してしまうのは、やはり混乱しているのだろうか。
「……何やっとんじゃ、ハルカ……」
一旦ゴーレムの中に戻ったハルカは、肩のヴァーナーを地上に下ろし、屈んだゴーレムの胸部から再び出て来る。
「ハルカ!」
駆け寄ったハルカを、刀真が深い溜め息ともに迎えた。
「全く……こんな危ないことに、無闇について行っては駄目でしょう。
こういう時は、必ず俺達に連絡しなさい。分かりましたね?」
「ごめんなさいなのです……」
しゅんと謝るハルカの頭を、軽く撫でる。
それでも、自分でやろうと決めたことは、どんな危険があろうと行動してしまう。
そんなハルカを理解もしているから、もはや、彼の叱る口調も軽いものだった。
そういうところ、ハルカと博士は似ているな、と刀真は思う。
そして、オリヴィエ博士は、自分の中に、何か明確なルールがあって、それを頑なに守っているところがある、と、そう感じた。
それによって他人にどう思われようと、その我を通す。
自分もそうだから、何となく思ったのだ。
「ハルカ、無事で良かった……!」
刀真のパートナーの剣の花嫁、
漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が、ギュッとハルカを抱きしめる。
ハルカは月夜を抱きしめ返した。
「心配かけて、ごめんなさいなのです」
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