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リアクション
王宮の敷地内にある、宮殿とは別に、一般に開放されている施設である礼拝堂。
突然の攻撃に、内部は騒然となった。
柱が倒れ、壁が粉砕し、天井が崩れてバラバラと瓦礫が落下して来る。
「落ち着いて! 大丈夫、皆、こっちへ!」
アリス・テスタインが一般民の避難誘導をする中で、葉月可憐は襲撃犯を見極める。
外部からの攻撃ではない。これは中にいる誰かによるものだ。
犯人は、すぐに解った。
避難する人々の中で一人、悠然と立っている男がいる。
可憐と目が合うと、男は不遜に笑った。
「あなたは誰です?」
援軍が来るまで逃がしてはならない。可憐は咄嗟にそう思ったが、男が逃げる様子はまるでない。
「鏖殺寺院の者、と答えようか」
外にいたルファン達が、礼拝堂内に駆け込んで来る。
「待ちくたびれたぜ、賊め!」
ギャドルが叫んだ。
「此処はお願いします」
可憐は彼等に男の相手を任せ、運び出される負傷者の介抱へと回る。
「行くぜ!」
ギャドルが男に突っ込んで行く。
男――クトニアはその分後退しながら、両手の平に光弾を生み出した。
放たれた光弾をギャドル達は躱し、床に炸裂して広がる。
「はっ、障害物がなくなって動きやすくなったぜ!」
「そうか。ならば期待に応えよう」
クトニアは笑った。
「――くらえっ!」
そこへ、イリアが氷術を仕掛けた。
足止めする為の魔法はクトニアに躱されたが、隙を作ることができれば十分だった。
一気に飛び込んだギャドルが、猛々しい威圧の一撃を食らわす。
「――おっと!」
クトニアは、慌ててそれを躱した。
その背後から、ルファンの一撃。
「ちっ!」
その時、避けきれないクトニアの盾になるように、そこに空の鎧が割って入った。
「!」
まともにその攻撃を受け止めた鎧は消滅し、クトニアは壁際に逃れる。
「危ない危ない。やはり、此処は狭いな」
「逃げ足は早ぇな。つまらねえ」
避けられるとは思っていなかったギャドルが、忌々しく言った。
「そりゃあ、肉弾戦になんか付き合ってられないからな。
剣も使えないことはないが、やっていたのはもっぱら、なるべく相手と距離を置く練習だな」
軽口を放って、クトニアは準備していた魔法を放った。
「きゃー!!」
礼拝堂内部に降り注ぐ雷撃に、ルファン達は慌てて物陰に身を隠す。
「室内で、何て魔法を使うんじゃ!」
ルファンは思わず呟いたが、そんな常識の通用する相手では無いのだろう。
「あいつ、外に出たよ!」
今の魔法で、礼拝堂は更に破壊が進んだ。
壁に大きな穴が空けられ、外が見える。
「追うぞ!」
ギャドル達もその壁の穴へ走った。
大きく崩れた壁の穴から礼拝堂の外へ現れ出たクトニアは、既に一人ではなかった。
「さてと」
王宮の方を見るクトニアは、おびただしい数の亡霊やゾンビ達、アンデッドを引き連れている。
ヒルダは目を見開いて一瞬竦んだ。
「……ネクロマンサー……」
「止まれ!」
銃を構えた丈二の警告に、はっと我に返る。
いけない、と自分を叱咤した。
警告の声を、聞こえていないかのように歩みを止めないクトニアに、丈二は発砲した。
ぼやっ、とクトニアの前にゴーストが現れ、銃弾を受けて消滅する。
「ゴーストに実体が……」
ヒルダは目を見張った。
「暴れろ、お前達」
クトニアが命じると、アンデッド達は、ぞろぞろと警備隊に突撃して行く。
何処から現れたのか、アンデッドは警備網の後方にいた理子達の付近にも現れた。
「ふっ、実体があるのなら倒すのも楽ってことだ!」
リア・レオニスが、ライフルで邪霊を撃つ。
邪霊は霧散するように消滅したが、アンデッド達の数は一向にに減らなかった。
地面から、じわり、と、滲み出た影が、邪霊に、ゴーストに、ゾンビに変貌する。
「くそ、アンデッドを作り出しているのか! 何て数だ!」
リアは前線のクトニアを睨み見る。
「そりゃ、連れてくるより、現地調達の方が早い。
人の住む場所で、死者のいない所などないからな」
クトニアは笑った。
ザインは王宮を見遣る。
前衛も後衛も関係ないのなら、まさか王宮内部にも、と思ったのだ。
だが、やはりアンデッドを操るのには一定の範囲内である必要があるようで、クトニアが前線にいる今はまだ、比較的王宮に接近して行く様子はない。
とりあえずリア達と共に、周囲のアンデッドの撃退に務めた。
「ぎゃーっ! 何だこいつら――!」
まさか装甲を通り抜けてコクピット内部にアンデッドが入り込んで来ようなどとは思っていなかった変熊仮面が、イコン内部で絶叫していることなど、誰も知らない。
マイクのスイッチは、巨人の姿を確認してから入れようと思っていたのである。
「敵は多いが、とるべき戦法は、基本中の基本、」
エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は、ぐっと拳を握った。
「リーダーを狙え、だ!」
オートバリアとオートガードで、自分と仲間達の防御力を上げ、エヴァルトはとにかく、クトニアを目指して突っ込んだ。
「鏖殺寺院などに、女王陛下を渡しはせん!
その前に、宮殿に侵入させもしないがな!」
「それはそれは」
クトニアはスケルトン達をエヴァルトに向ける。
だが、そこにルファン達が飛び込んで来てエヴァルトの横についた。
「援護する」
「おらァ! 道をあけろ、雑魚共!」
ギャドルが、ルファンと連携しながら、アンデッド達をぶっ飛ばして行く。
「雑魚とは酷いな」
クトニアは苦笑した。
「うおっ!?」
咄嗟に避けた足元に、炎の玉が弾ける。
想定になかった攻撃に、思わずギャドルは怯んだ。
アンデッドが、魔法を撃ってきたのだ。
畳み掛けるように、周囲に炎の嵐が吹き荒れる。
「ファイアストーム!」
後方で援護していたイリアも驚く。
「あんな高度な魔法を使えるの?」
アンデッドの特徴、そして使い道は、その耐久性である。
ネクロマンサーが引き連れたアンデッドが、生身の魔術師に匹敵する威力の魔法を撃ってくるとは。
「パラミタの世界に入ってたかが数年、いくら貴様達の方が素質が上でも、こっちにはキャリアというものがあるんでね」
「惑わされるな、ギャドル。陽動じゃ」
「解ってら!」
ルファンの言葉に、ギャドルは吼えた。
エヴァルトは、そうして彼等が空けた隙を、逃さなかった。
アンデッド達をかいくぐり、クトニアの死角から、強烈な、体当たりの一撃。
「ふっ!」
まともに喰らってクトニアは弾き飛ばされ、地に叩き付けられる。
エヴァルトはすぐさまそれを追って突進するが、身を起こしたクトニアが、間に空の鎧を飛び込ませた。
エヴァルトは、その鎧を叩きのめす。
「痛ぅ……効いた。折れたか?」
クトニアは脂汗を滲ませながら立ち上がった。
「やってくれたな」
「ッ!」
気配を感じ、はっとエヴァルトは避ける。
エヴァルトのこめかみに鋭い爪が掠り、通り過ぎた異形の獣が、クトニアの横に立った。
「仕方ない、撤退する」
クトニアは、その異形の獣に乗る。
「じゃあ、またな!」
「待て!」
追おうとしたエヴァルトに、置き土産とばかりに、どかどかとアンデッドが飛びかかって来た。
「ちっ……!」
対処に追われている間に、異形の獣は包囲網を抜けて素早く走り去り、クトニアの姿は消える。
「ふざけやがって……!」
エヴァルトは、クトニアの支配が切れ、ただのアンデッドと化したスケルトンを粉砕しながら、奥歯を噛んだ。
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